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2014年11月号より

“〈ALL SECOM推進部〉杉本陽一・セコム執行役員 「気づいたらセコム」を体現するグループシナジー

推進本部の設置

セコムで「ALL SECOM」という言葉が登場したのは前田修司会長の社長時代のこと。2010年に始まった「ALL SECOM運動」が最初だった。

もともと、セコムは「社会システム産業」をキーワードに事業を拡大していった歴史があり、社会システム産業の構築に必要な事業という定義のもと、グループ間のシナジーを意識した企業体だった。しかし、以前のセコムは「セキュリティ」を中心に他の事業が衛星的に配置されていた。たとえばIT企業の楽天が楽天市場を中心にして金融事業やトラベルが周囲を固めているのと同じようなグループ形成だと思えばわかりやすい。すべての事業は「セキュリティ」を経由して繋がっていたのである。

グループのあり方を根本的に見直すキッカケになったのが、創業50周年を迎えた12年のこと。「セキュリティ」「防災」「医療」「保険」「地理情報サービス」「情報」「不動産」を7つのセグメントと定義し、ALL SECOMとして社内外に発表した。この時に設置されたのが、「ALL SECOM推進部」だった。

杉本陽一・セコム執行役員

推進部を担当する杉本陽一執行役員は次のように話す。

「最近、よく言われているクロスボーダー経営というものがありますが、実際には、事業部門の壁を乗り越えるというのはたいへん難しい。同じグループでも、企業や部門が違えば話し合いの頻度は下がります。そこを解消しようと、12年6月20日から『ALL SECOM推進会議』を開くようになりました。各グループ企業から代表者を出してもらい、顔を合わせてお互いを知るところから始める。現在までに26回開きまして、グループ間のコミュニケーションを図っています。参加者も当初は10社くらいでしたが、現在は26社40部門以上の代表者が集まる会議になっています」

推進部の役割は大きく3つ。1つ目がALL SECOM営業でグループの連結決算を最大化すること。2つ目がALL SECOMによる新規サービスの創出。3つ目がALL SECOM体制の強化だ。

特に2つ目の新規サービスの創出では、実際に次々と商品を世に送り出すことに成功している。直近では「海外赴任者パッケージ」が6月に発売された。

「この商品は、急に海外に行かなくてはならない方のための支援パッケージです。たとえば1~2カ月前に辞令があったとして、子供の学校をどうするのか、親御さんが独りになるなら面倒を誰が見るのか、持ち家は売却するのか、クルマはどうするのか、その場にならないとわからない問題がたくさんあります。これらの問題をグループ全社、それぞれの商品と知見を集めて、解決しようとつくった商品です。

従来どおりの各社での営業であれば、このような切り口では実現できません。この商品は国内で13社、海外含めて22社が集まってできたものです。ふつう、こういった複数の会社が関わる商品は時間がかかるものなんですが、今年3月末に着想して、6月24日に発売と、3カ月ほどで発売開始にまで至っている。いろんな部門でいろんな事業があり、それを組み合わせることによってワンストップのいいサービスが提供できる。ALL SECOM商材のよい例ではないかと思います」

この推進会議からは、危機管理支援サービスやビジネスマッチング、災害備蓄品のサービス、パーキングのシステムなど、幅広い分野のサービスが商品化されている。

「従来、このような商品は、セコムの人間が中心になって考え、他社に声をかけるような形でしたが、現在は各社の人間が各社各様に自分たちの商品を持ち寄って、どう組み合わせれば価値が高まるかを考えています。単品の商品ならそれだけの価値ですが、22社が手を組めば、海外赴任者パッケージのような商品がわずか3カ月で世に出せる。これは毎月顔を合わせてコミュニケーションを取るからできるのであって、他社の商品を自分の会社の商品のように扱える形になったというのは、2年間やってきた1つの成果でしょう」

親・子の垣根を払う

現在、ALL SECOMは7つの事業に海外事業を加えた8つのセグメントで構成されている。これを、「セキュリティ」「超高齢社会」「災害・BCP・環境」の3つのサービス分野で商品を提供する形だ。従来セキュリティ分野のサービスだった「ココセコム」に医療的な考えを入れて、超高齢社会分野の「マイドクタープラス」のような商材も生まれている。

「セコムには200のグループ会社があります。それらの企業が3つのサービス分野の商品を展開しているわけですが、中心にはデータセンターがあるわけです。セキュリティであれ、医療分野であれ、地理情報であれ、すべての企業がデータベースを持っています。そのデータベースがセコムのデータセンターに集められて、そこが中心になって、ビッグデータ的な解析を行い、世の中に貢献できるサービスを生み出しています」

こうした流れのなかで、親会社であるセコムが仕切ることのない商品の共同開発が盛んになってきているという。

セコムは新しい形のグループ戦略に挑む。

「いま会議で活発になってきているのは、たとえば保険と防災を組み合わせたらどうか、保険と空間情報を組み合わせられないか等、2社間で新規事業はできないかという協議です。アイデアだけでも50個くらいは出てきています。ふつうはセコムが真ん中に入って、グループ企業の間を仕切ると思います。ALL SECOM会議もふつうならセコムの人間が司会をする。しかし、実際はグループのほかの人間が司会をしています。セコムもグループの一企業という考え方です。

グループ企業には防災がありセキュリティがあり病院があります。そこにはそれぞれの伝統や文化があって、社風も違う。40人以上の人間が集まって会議をしても話が合うわけがない。だからこそ、回数を重ね、会う頻度を高くしてコミュニケーションをとっていく。やり方が違うことも汲み取ったうえで、安全・安心で快適・便利な社会をつくろうとしている。自分たちの知見で何ができるか、使えるのかを議論しています」

セコムグループは持ち株会社がなく、本体であるセコム株式会社がその役割を果たしているが、グループ内で親会社・子会社という表記はせず、その言葉も使わない。

「ALL SECOMが打ち出されてからは、さらに風通しがよくなってきて、意見交換が活発にされるようになりました。グループ内には日本一、世界一と呼ばれる技術がたくさんあります。基本的にイノベーションは組み合わせからできるものです。社会システム産業として必要な9つ目のセグメントができるのであれば、このALL SECOMからつくっていこうと考えています」
前例のないグループ体制の構築は果たされるか。ALL SECOMの動向に注目だ。

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