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企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2014年11月号より

“富士フイルムが領域拡大 ナノテクでヘアケア市場へ 富士フイルム ライフサイエンス事業部長 山口 豊

「アスタリフト」を拡大

富士フイルムが、社名から「写真」の文字を取ったのは2006年のこと。デジタル化の急速な進展で急縮小した主力事業を補うため、大がかりな事業再編に挑んでいった。そして、期待の新規事業の1つとして取り組み始めたのが化粧品関連ビジネスである。

社名変更した06年、まず「ナノフィルト」という商品を投入した。これは15種類のアミノ酸を配合し、肌の角質層をケアするもの。だが販売後の売り上げはパッとしなかった。

そこで新たなチャレンジでは、写真フィルムと皮膚の主成分がどちらもコラーゲンであることに着目。写真の黄ばみを防ぐ技術は、老化やシミの原因になる活性酸素を抑える技術に生かすことができる。また、成分を肌に馴染ませるため、粒子をナノサイズにして乳化させる技術も持ち合せていた。藻などに含まれる「アスタキサンチン」という天然の抗酸化物質に注目。肌に浸透しやすいよう、ナノ技術でナノ化して配合したエイジングケア製品が生まれた。

「ナノテク、抗酸化、コラーゲンの基幹技術を今後も活かす」と語る富士フイルムの山口豊・ライフサイエンス事業部長。

こうしてエイジングスキンケアの「アスタリフト」シリーズが誕生、07年から商品を送り出し、イメージキャラクターに松田聖子を起用して一定のポジションをつかんだ。フィルム技術のコラーゲン、抗酸化、ナノテクの3要素の応用が化粧品市場で花開いたのだ。

そしてこの9月24日、領域をヘアケア市場にも広げる。商品名は「アスタリフト スカルプフォーカス」で、頭皮用美容液、シャンプー、コンディショナーの3種で構成。いずれは店頭販売にも拡大する見込みだが、まずは自社の通販サイトで売り出す。富士フイルムの山口豊・ライフサイエンス事業部長はこう語る。

「アスタリフトシリーズをご利用いただいているお客様の声がだんだん集まってきて、スキンケアに関心の高い方は、その続きである髪にも関心、というかお悩みが深いことがわかりました。このスカルプケア市場は170億円強でそれほどく大きくはないですけど、この10年ぐらいで規模自体は3倍ぐらいに拡大しており、さらに広がる市場です。ならば当社でも真剣に取り組んでみようと。そこでベースになるのは、当社製品の特徴でもありますが、技術に裏付けられたもので効果・効能をきちんと出すということです」

髪の悩みで一番多いのは、加齢とともに髪のハリ、コシ、ボリュームがだんだん薄れていくこと。では、なぜそれが起きるのか。

「原因は、いわゆるヒト型ヘアセラミドが加齢によって減ってくるからです。要は、髪の毛の内部がスカスカになってくる。それで潤いがなくなりボリュームも減ってくると。そこで、このヒト型ヘアセラミドを補給してあげようという考え方が1つ。

もう1つは、育毛という観点からどう対応したらいいのかということでした。育毛目的で広く使われているのはグリチルレチン酸です。確かに有効ですが、水にも油にも溶けないので、エタノールを使わないとうまく配合できない。ところが調べていくと、髪にグリチルレチン酸を浸透させるために、エタノールで角質をある程度、壊すというか乱れさせるというメカニズムになっている。となると、頭皮自体にダメージを与えています。

さらに調べていくと、エタノールは逆に育毛を阻害する物質を含んでいることもわかってきました。我々は技術やサイエンスで、できるだけ体に優しい商品にしたいというのが根本にありますので、エタノールを使わないでどうやるかというのが出発点です。そこで出てきたのがナノテクでした。今回は粒子を小さくするナノテクだけではなくて、グリチルレチン酸が溶ける特殊な液体の中に入れ、なおかつ高濃度で封じ込める、ナノシェル技術を新たに開発しています」(山口氏)

それが、独自開発した成分の「ナノグリチルレチン酸」である。ただ、封じ込めてシェル化するというコンセプトは早い段階でできたものの、商品化の過程では技術的なブレークスルーが相当必要だったようだ。

「実際に、グリチルレチン酸をいかにシェルの中の液体に溶け込ませるか、配合するかというところで、いろいろな掛け合わせを試し、本当に試行錯誤で何百通りとやって、ようやく最適なものに辿り着いたんです。グリチルレチン酸が水にも油にも溶けず、エタノールしか溶けない。では、溶かせるものをまず、何にするか。次にシェルの成分はどうやったら安定するのか。ここでいろいろ組み合わせを試していきました」

商品の値付けについては、頭皮用美容液が5700円、シャンプー、コンディショナーが各2000円(いずれも税別)となっている。スカルプケアの商品としては、競合他社の製品の平均価格が、たとえば頭皮用美容液が6000~7000円という価格帯なので、若干だが安めに設定してある。

エイジングケアに照準

富士フイルムではトータルなエイジングケア、あるいはトータルなヘルスケアに軸足を置き、メイク商品のジャンルは考えていない。あくまで肌、頭皮、あるいは体の内面からケアの強化を図っていくという。

「いまは、コラーゲンドリンクなど当社で手がけるサプリメントとアスタリフトの世界とでは若干、距離がありますが、今後はそこをもう少し融合していきたい。体をケアすることで美しさにつなげていくという視点で商品力を強化していきます」

富士経済のデータでは、エイジングケアの分野で富士フイルムはすでにナンバー5の位置にいる。将来、ナンバー1の座を奪取していくには、さらなる商品力の強化と同時に、より、マスのファンをつかまえなくてはいけない。

「私の周りを見ても、アスタリフトって何? 富士フイルムに化粧品なんてあるの? と言う人もまだ多いですし、いろいろな調査結果から言えば、アスタリフトの認知度は60%ぐらいなんですね。当社が化粧品をやる意義がどこにあるのか、またなぜ当社製品がいいのかについて、言い尽くしてはいないし、伝わり切れてもいません。今後は、トータルエイジングケアとしての効果・効能をさらにお求めになる方が増えていくと思いますので、当社には追い風だと思っています」

日本人の平均年齢が年々上がっていることを考えれば、エイジングケア市場はのびしろの大きい成長マーケット。ただし、それだけに大手化粧品メーカー、さらにサントリーウエルネスといった異業種組もこの分野には力を入れていくことになる。その主戦場で大きな武器となるのが、フィルム技術を応用した横展開と深掘りというわけだ。

最近は、前述したナノテク、抗酸化、コラーゲンという3要素に加えて、くすみのない透明肌の印象を演出する、独自光学粉体の「サクラ オーラ パウダー」も開発しており、これらの技術の掛け合わせで、さらなる新商品開発も視野に入れている。

また、将来的にはメンズ市場への参入もあるかもしれない。富士フイルムはオンリーワンの独自技術で、これからも化粧品業界で異彩を放つ存在になっていきそうだ。

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