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経営者インタビュー

2014年8月号より

東京五輪を追い風に外資系ホテルを積極誘致
伊達美和子 森トラスト・ホテルズ&リゾーツ社長

伊達美和子
森トラスト・ホテルズ&リゾーツ社長

だて・みわこ
1994年聖心女子大学文学部卒業。96年慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。同年長銀総合研究所に入社。98年森トラストに転じ、2000年取締役に。03年常務、08年専務。11年6月に森観光トラスト(現・森トラストホテルズ&リゾーツ)社長に就任。父親は、森トラスト社長の森章氏。

2020年の東京五輪に向け、客室単価も稼働率も軒並み上昇中のホテル業界が、さらにヒートアップしてきた。今後も続々と外資系ホテルが日本への上陸を予定するほか、日本勢も名門、ホテルオークラ東京が、1000億円超の投資額で建て替えられることになったからだ。そんな中、年々存在感を増してきているのが森トラスト・ホテルズ&リゾーツ。同社の伊達美和子社長(森トラスト専務も兼務)に、多彩な独自戦略や経営方針などを聞いた。

パストラル再開発の行方

―― インバウンド(訪日外国人)がようやく1000万人を超え、6年後の東京五輪に向けて弾みがついてきました。受け皿となるホテル業界もホットな話題が続いています。
伊達 昨年は、訪日外国人が1000万人を超えた記念すべき年でした。今年はさらに、毎月20~30%上昇し、過去最高を更新しています。韓国のように外国籍添乗員(クルー)も含めれば、1400万~1500万人はさほど遠くない数字だと思っています。

五輪開催は、東京を魅力的にし、さらに開催後も「観光都市・東京」を定着させるための手段にしなければならないでしょう。そのため、東京の経済的魅力と都市的魅力の両方を維持しながら、海外向けの積極的なプロモーション戦略の継続が必要だと思います。

―― まず、昨年2月に社名を森観光トラストから森トラスト・ホテルズ&リゾーツに変更された、狙いや思いを改めて聞かせてください。
伊達 大きなきっかけは昨年、創業40周年の節目を迎えたことですね。旧社名は日本語でしたが、最近の当社の展開を考えますと、ホテルズ&リゾーツと呼んだほうがグローバルに対応していく上でも相応しいと考えました。

今年4月にはコートヤード・バイ・マリオット東京ステーションがオープン。

当社の歴史は、日本で初めてとなる法人会員制のラフォーレ倶楽部創業以降を第1ステージとして、第2ステージが日本の歴史あるホテルとの提携を深めた時期(軽井沢の万平ホテルへの資本・経営参加や関西のリーガロイヤルホテルグループとの資本・業務提携など)、第3ステージが国際ブランドのホテル展開の時期(コンラッド東京やシャングリ・ラホテル東京、ウェスティンホテル仙台など)、そして現在は、これまで得てきた運営ノウハウを融合し、戦略的チャレンジを行う第4ステージに入っています。既存施設もグローバルブランドに変えていくという思いも込めて社名を変えました。

―― 昨年12月に実施した、ホテルラフォーレ東京から東京マリオットホテルへのリブランド戦略は、かなり前から検討されていたのですか。
伊達 構想としては、汐留にコンラッド東京を誘致(05年)した約10年前からですね。それまではラグジュアリーな客室が少なく、東京の今後の国際競争力を考えて、宿泊主体型のラグジュアリーな施設が必要との観点で誘致した、先駆け的なホテルでした。誘致を進める中で、東京は今後、さらに外資系ホテルが増えるだろうと予測していました。事実、現在東京にある客室の9%が、36平方メートル以上のラグジュアリーな客室で、その内55%が外資系ホテルです。しかも、そのほとんどが2000年以降の進出で新しい。ラフォーレ東京の次の展開を考えると、競合と戦うためには外資系ブランドにすることが重要だろうと考えました。

―― ホテルが入るのかどうかわかりませんが、森トラストが07年に約2300億円で落札した、虎ノ門パストラルの跡地再開発の展望は。
伊達 あのエリアの課題は、六本木通りと桜田通りをつなぐ道路が足りず、特に桜田通りに抜ける道路が城山通り1本しかないことです。そういうインフラの問題が1つ。周辺の開発はどんどん進んで混雑し、最寄り駅となる神谷町駅のキャパシティも足りなくなってきてますから、そういう地下鉄との接続性をどう高めるかが2つめ。さらに3つめとして、駅前の広場的なスペースの不足も課題です。その3つの要素を、我々が手がける再開発の中でうまくソリューションしていくことが役割だと思いますね。

建物の構想につきましては当然、主力事業のオフィスビルが中心になります。これまで、たとえば京橋OMビルや京橋トラストタワーという2つのビルを作る過程で、エネルギー環境と防災面に優れた技術を盛り込みましたし、新しいビルでも高い技術を取り入れることになるでしょう。大街区と言われる虎ノ門、神谷町エリアに、防災ビルとしての価値あるビルができるわけです。

さらに、滞在機能は確実に入れようと考えています。その際、住宅の方向に特化するのか、あるいは最近、サービスアパートメントという形態も出てきていますが、そういう少しホテルに近い機能にするのか、そのあたりはこれからです。

―― サービスアパートメントは、三井不動産や三菱地所も本格的に手がけていくようです。
伊達 アジアのヘッドクオーターとしての東京において、サービスアパートメントのニーズは確実に増えていくと考えています。今後、日本の労働人口がさらに減少する中で、グローバル人材はもっと増やさねばいけません。

そして、そういう方々が住む場所は、より都心でオフィスに近く、それでいて住環境も整い、病院や高度な教育機関も近くにあることが必須条件になるでしょう。そういう受け皿を、我々が作っていければと。

特に、グローバル人材をターゲットにするのが重要で、どんな立てつけにするのがベターなのか、そこは我々の今後の企画力にかかってくると思います。

「全て外資系にはしない」

―― それにしても、コンラッド、ウェスティン、シャングリ・ラ、マリオットと、国際的なホテルを次々と誘致され、国内でも実に幅広い提携をされていて、ほかに似た企業がないという印象があります。
伊達 よく、「今後、全部外資系のホテルに変えるんですか」というご質問を受けるのですが、それは考えていません。外資系ホテルに変える価値のあるところはリブランド投資を視野に入れますが、全てに当てはまるわけではありません。

―― マリオットとの関係で言えば、プリンスホテルも提携(東京・高輪にあるザ・プリンスさくらタワー東京が自社ブランドを維持したままセールスやマーケティングでマリオットと連携)しました。
これまで、森トラストはリーガロイヤルホテルグループと提携し、3%弱ながらホテルオークラにも出資するなど、国内ホテルとの連携も活発です。マリオットとの関係を機に、プリンスホテルとも何らかのコラボレーションや連携の可能性は。
伊達 たとえば、当社は仙台でウェスティンを誘致しましたが、ウェスティンホテル東京のオーナーはまた違うわけですし。我々自身もヒルトン系とマリオット系にも関わっていることを考えると、あくまで個々の物件ごとの選択肢だと思います。

昨年12月にここ(東京・北品川の東京マリオットホテル)をオープンし、今年4月にコートヤード・バイ・マリオット東京ステーションができ、昨年9月にプリンスホテルさんが提携。さらにザ・リッツカールトン京都、大阪マリオット都ホテルも開業し、当社もコートヤード・バイ・マリオット新大阪ステーションをオープンさせる予定ですので、マリオットグループだけでも相当な勢いで日本展開してきています。

ですから “マリオットファミリー”として相乗効果がお互いに生まれてきているという意味では(プリンスホテルとも)情報交換はしますし、サービス面で連携していくこともあり得るかもしれません。

ホテルの「殻」を破る新事業

―― ここまでのホテル展開の原点はラフォーレ倶楽部ですが、このラフォーレというブランドへの思いはどうでしょう。
伊達 不動産賃貸という事業から、不動産を活用するという事業にも打って出たのがラフォーレなんですね。グループの最初のホテル事業という意味では、とても重要です。

もう1つ重要なのは、通常のホテルではなく会員制ホテルを作ったことにより、ラフォーレの仕組みそのものが、独自のチャネルとなったことです。その重要性は、ラフォーレ事業を通してすごく重みを感じており、たとえば今年4月、強羅(神奈川県・箱根町)にある「湯の棲」というホテルをリニューアルオープンさせましたが、ほとんどPRしなかったにもかかわらず、ほぼ満室に近い稼働率で推移しています。これは、やはりラフォーレ倶楽部のチャネルがあるからなんですね。

同じように、ここ(旧ホテルラフォーレ東京)をリブランドする時に、マリオットを提携先として選んだのも、やはりマリオットが抱える全世界4000万人の会員と、4000棟近いホテルチャネルの存在が大きかったわけです。欧米は当然としてアジアや中国など、マリオットは常に経済成長している国にいち早く展開し、チャネルを持っていますから。

その豊富なチャネルを生かして様々な国の方が日本に来ることが、リブランドの相乗効果が最も高いと判断し、マリオットと提携したわけです。ですから、ホテルビジネスを考える時の基礎の中には、ラフォーレの事業プロセスが常にあります。ラフォーレをマリオットにリブランドしたのも、ビジネスモデルの方法論は同じで、あくまで姿を変えているだけです。

―― ラフォーレも含めて、森トラスト・ホテルズ&リゾーツという企業の将来像はどう描きますか。
伊達 さきほど言いました当社の第4ステージの中で、ホテルブランドを超えて、様々なものを融合させて昇華させることが重要です。

リブランドした東京のホテルやリニューアルした強羅のホテルは両方とも大変好調で、4月は昨年比で倍の売り上げとなりました。新規ホテルも早い段階から高稼働でスタートしています。このような投資をしている傍ら、イノベーション事業部という部署も作りました。

森トラストというディベロッパーが、いわば大型トラックのように大きな動きをしているのに対して、もう少し違う、ソフト分野を担う部署としてイノベーション事業部を立ち上げました。ですからこの部署の可能性は多彩で、太陽光発電事業もあれば、アグリビジネス、予防医学に関するプログラムや施設の提案も行っています。

また、コートヤード・バイ・マリオットでは、外部から見える1階レストランの見せ方にも工夫を凝らしていますし、こうしたノウハウを生かしつつ、森トラストの賃貸ビル内で働く方々に提供する、社員食堂的なビジネスの展開についても検討を始めました。

要は、いままでやってきたホテルのホスピタリティ事業を少しずつ分解しながら、ホテル業という殻から抜け出すような活動に結びつけていこうと思っているところです。

(聞き手・本誌編集委員・河野圭祐)

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