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企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2014年12月号より

“世界初「GPSソーラーウオッチ」「ASTRON」の名前に込めた思い セイコーウオッチ セイコー第一企画部 古城滋人

世界初の技術で精度革命

いまでは携帯電話やスマートフォンなどで代用できるとはいえ、ビジネスパーソンにとって欠かせないアイテムの1つが腕時計だ。腕時計は単に時刻を見るという実用品としての機能の一方で、装飾品としてファッション性やステータス性からこだわりの持つ人も多い。最近では機械式の海外ブランドの人気も高い。

そんななか“世界初”のメイド・イン・ジャパンの技術力によって、スマッシュヒットとなったのが、世界のどこにいようとGPSを利用して、自動的に自分のいる地域の正確な時刻を表示するセイコーウオッチのGPSソーラーウオッチ「ASTRON」である。

これまでも正確な時刻に自動的に修正する時計として、電波時計があった。しかし、電波時計は日本、中国、北米、欧州の世界5~6カ所で発信する標準電波を受信し時刻を合わせている。そのためアフリカ、オセアニア、南米など電波の届かない地域では機能しない。これに対してASTRONの時刻修正は、GPSの衛星のみで行う。

その仕組みをおおざっぱに説明すると、衛星に搭載されている原子時計の時刻と4つ以上の衛星の電波を受信。時計内にある各地域のデータと衛星から送られてくる位置情報を照合して瞬時に演算処理して、現在いる地域の時刻を表示する。つまり、ASTRONはアマゾンの奥地や北極、南極でも、いってみれば、地球上にさえいれば、常に正確な時刻を表示することができる。

社長の指示で開発スタート

古城滋人さん。左=第2世代・チタンモデル(本体価格24万円)/右=第1世代・チタンモデル(本体価格19万円)古城滋人さん。左=第2世代・チタンモデル(本体価格24万円)/右=第1世代・チタンモデル(本体価格19万円)

ASTRONの開発がスタートしたのはおよそ10年前のこと。服部真二・セイコーウオッチ社長の「セイコーエプソンとの共同開発でGPS腕時計をつくれないか」という強い意思の元、プロジェクトが立ち上げられた。

「限られたスタッフが会議室に集められ『これなら商品化できる』とプロトタイプを見せられました。そのときのものは四角というか、腕時計と呼べない形状で文字盤の外側にバッテリーボックスがあるようなかたちをしていました。それを見たときは、商品化はできても市場性やマーケティングの観点からビジネスにならないと思いました」

と話すのは、プロジェクトチームに参加していたセイコーウオッチ第一企画部の古城滋人さんだ。その後、急ピッチで“腕時計のかたち”にするための改良が進められる。

「衛星からの電波を受信するGPSモジュールは、電波時計のモジュールに比べ消費電力が200~300倍も多いんです。この消費電力をいかに小さくするかが大きな課題でした。具体的なことについては、特許などのこともあるので詳しくはお話しできませんが、開発を進める考え方としては、衛星からの電波の受信感度を高めることで受信時間を短縮して、消費電力を抑えようとしたのです」(古城さん)

改良が進められた結果、電波時計では文字盤の下に置いていた四角いアンテナを、ASTRONのGPSアンテナは、形状をリングにして時計上部にあるベゼル(ガラス面周囲に取り付けられるリング状のパーツ)の下に移し、360度どこからでも受信できるようにした。さらに素材についてもさまざまなものを試し、ベゼルの素材が金属よりもセラミックのほうが感度が高まることがわかったため、これを採用。アンテナが時計内部から移動したことで生まれたスペースを活用して、蓄電池の仕組みから再考し、容量の大きい蓄電池へと変更した。

「ASTRONのかたちはデザインを優先したのではなく、技術的な背景から設計値のベストなサイズ感、デザインに追い込んだものです。いままでの時計のクリエーションとは違ったアプローチから生まれたのがこの時計の特徴です」(古城さん)

ASTRONの開発は、社内でもごく一部の人しか知らない極秘事項で、社内で明らかになったのは発表の1、2カ月前と、情報管理が徹底された。そして、12年4月、スイスのバーゼルで開かれた世界最大の時計の見本市「バーゼル・ワールド」でASTRONは発表された。

「この年は当社が腕時計の製造をはじめて101年目にあたりました。また、当社は1969年に世界ではじめてクオーツの腕時計を発表。機械式の1日10秒から、クオーツになったことで1カ月10秒の誤差という腕時計の精度革命を起こしました。ASTRONの登場は、第2の精度革命と位置づけ、ネーミングも世界初のクオーツ腕時計に付けられていた『クオーツアストロン』から『ASTRON』と付けられました」(古城さん)

実用だけではない付加価値

販売開始直後から「垂直立ち上がり」(古城さん)というように、売れ行きは好調に推移し、その反響は大きかった。

古城さんによれば、その購入層は海外出張によく出るいわゆる「グローバリスト」という人たちと、ファッション性の高いデジタル時計を使っていた人たちを中心としたメカ好きの時計ファンなどからの乗り換え、の2つに分かれるという。

「ご購入いただいたお客さまのお話をうかがうと、海外出張が多いエクゼクティブの方は、すでに50万、100万円という高級な時計をお持ちです。しかし、『高級な時計を、ビジネスで海外に持ち出すのは抵抗がある。かといって、安い時計では……』という思いをもっていらっしゃる。そうしたお客さまにとってASTRONは、海外出張の際にはGPSという実用的な機能があり、価格帯も20万円を中心としたもので、ちょうどよいと話される方が多かったですね」(古城さん)

こうしたASTRONを持つ一人が地球儀を俯瞰する外交を展開中の安倍晋三首相だ。閣議や外遊先での記者会見などでASTRONを身に着けていることが、ネット上でもしばしば話題になっている。

さらにASTRONは、「受信のときの針の動きがユニークなため、ビジネスシーンでのコミュニケーションツールになっている」(古城さん)という。

発売から2年がたち、ライバル各社からはGPS搭載の電波時計が発売され追撃がはじまった。セイコーウオッチでは「GPS単独はASTRONだけ」とライバル各社との差別化を強調。9月には直径を47ミリから44.6ミリ、厚さを16.5ミリから13.3ミリと小型化させた第2世代モデルを発売した。

セイコーウオッチには、「グランドセイコー」というフラグシップモデルあり、その下のモデルがこのASTRONになる。

この2つの腕時計の位置づけについて古城さんはこう話す。

「グランドセイコーは、時計職人の技によってつくり出される時計。ASTRONはメイド・イン・ジャパンの先進技術によって生み出された時計として、グローバルにアピールしていきたい」

匠の技が凝縮される腕時計。その技術を牽引してきた同社が生み出したASTRONは、グローバリスト、時計好きの心をつかんだ。GPS腕時計という新たな市場を拓き、さらなる進化を遂げようとしている。

(本誌・小川 純)

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)


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