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特集記事|月刊BOSSxWizBiz

2014年12月号より

ソフトバンク流 人と事業の選び方|月刊BOSSxWizBiz

「情報革命で人々を幸せに」――というのがソフトバンクの社是である。だからインターネット事業や携帯電話事業を手がけるのはよくわかる。ところがソフトバンクは今年に入りロボット事業に進出すると表明した。来年2月には市販も開始する。震災のあとにはメガソーラー発電など、エネルギー事業にも参入している。これらは本業とどう結びつくのか。いったいどういう基準で事業領域を定めているのか。そしてそれを司る人材をいかにして確保・発掘しているのか。ソフトバンクの強さの根源を探った。

7割の勝率で動き出し走りながら考える|月刊BOSSxWizBiz

ジャック・マーとの出会い

中国でECサイト等を運営するアリババ(外部リンク)が、9月19日、ニューヨーク取引所に上場した(詳細は別稿を参照)。

この上場でアリババの時価総額は25兆円に達し、30%以上を所有する筆頭株主のソフトバンクは、8兆円の含み益を持つことになった。ソフトバンクの時価総額は8兆円あまり。単純に考えれば、企業としてのソフトバンクの価値のほとんどが、アリババの含み益で占められる。

ソフトバンクがアリババに出資したのは2000年のこと。どうやって金の卵を生むニワトリを見つけたか、孫正義・ソフトバンク社長は次のように語っている。

「2000年に中国に行き、インターネットの若い会社20社ほどと10分ずつ会いました。その中に出資を即決即断した会社があった。それがアリババで、(創業者の)ジャック・マー(外部リンク)に最初の5分だけ話を聞いて、残りの時間は私の方から出資をさせてほしいと。彼は『じゃあ1億か2億円なら』と。僕は『20億円受け取ってほしい』と。『お金は邪魔にならないだろ』という押し問答を繰り返して、出資に至った」(5月の決算発表会見で)

14年たって、その20億円は4000倍の価値を持つまでになった。

リーマンショックの直後(08年)、ソフトバンクの経営危機説が流れた。その2年前のボーダフォン(現ソフトバンクモバイル)買収で生じた2兆円超の多額な借金によって、身動きが取れなくなるのではと危惧されたのだ。

そこで孫社長は08年秋、「14年までに借金を返済し終える。それまでは大きなM&Aは行わない。返済後もキャッシュフローの範囲内での投資に収める。これは僕の人生プランの中でも大きなコミットメントだ」と宣言せざるを得なくなった。

しかしその4年後、孫氏は今度は米携帯業界3位のスプリント・ネクステル(現スプリント)買収に踏み切る。

スプリントの契約者数は5600万人を超え、ソフトバンクの4000万加入者を上回る。言わば小が大を飲む合併だ。この時までソフトバンクは必死になって借金を返し続けてきたが、スプリント買収費の216億ドルが加わり、再び大借金を背負ってしまった。

それでもこの段階ではアリババの上場が視野に入っており、それが多額の含み益を生むことも確実視されていたため、今度は経営危機説が浮かぶことはなかった。アベノミクスの追い風があったとはいえ、スプリント買収表明からの1年で、ソフトバンクの株価は3倍近くに伸びている。

逆に言えば、アリババの存在がなければソフトバンクはスプリント買収を決断できなかったかもしれない。あるいは決断したとしても、市場はその借金の多さに対してノーを突きつけたかもしれない。よくぞアリババに目をつけたものだ。

その理由はこうだ。

「20名くらい会ったなかで、ジャック・マーが、圧倒的に伸びる予感を与えてくれた。別に数字を見せてもらったわけじゃない。プレゼンの資料があったわけでもない。言葉のやりとりと、目のやりとりだったわけですが、やっぱり彼の目つきですね」

孫氏とマーCEOは非常に似たタイプだという。孫氏は、マー氏の中に自分と似た匂いを感じたとも語っている。

「やっぱり匂いを感じるってあるんですよ、不思議に」

ヤフーとアリババの共通項

これと同じような話をかつて聞いたことがある。1995年にヤフーに出資した時のことだ。

孫氏はヤフー創業者のジェリー・ヤン氏らに会い、その構想を聞いた段階で2億円の出資を決めている。

翌年、ソフトバンクはさらに100億円を出資し、持ち株比率は35%となる。孫氏が言うには「ヤンはそんなにいらないと言ってきたけれど、何が何でも受け取ってくれ。もし出資させないというのなら、このお金をライバル企業に投資する、と脅して受け取ってもらった」。その後、ヤフーが上場したことで、ソフトバンクはやはり兆円単位の含み益を得た。

国内携帯ではソフトバンクは常に主役の座にいる(iPhone6の発売日)。

2000年代に入るとインターネットバブルが破裂。ソフトバンクの投資先にも経営破綻するところが相次いだ。その一方で、ソフトバンクは2001年にADSL事業であるヤフーBBを開始(運営会社はソフトバンクBB)。04年には長距離固定電話の日本テレコムを買収(06年にソフトバンクテレコムに社名変更)。そして06年、ボーダフォンを買収して携帯電話事業に参入した(現ソフトバンクモバイル)。

経営資源をインフラ事業に絞り込んだのだ。しかしヤフーBBでは顧客獲得を最優先するため無料で端末を配布したためそのコストがかさみ、3年間にわたり1000億円の赤字を垂れ流している。この赤字を補填するために、ソフトバンクは毎年のようにヤフー株を売却し続けた。ヤフーによってソフトバンクは糊口をしのいだ。

孫氏のアリババやヤフーとの邂逅を、単なる「強運」と片付けることはできるかもしれない。しかし「チャンスの女神に後ろ髪はない」との言葉もある。常に情報を集め、これからの社会の変化を予見し、そして何より事業に対する強い思いがあったからこそ、「匂い」を感じることができたのだろう。

同時に、孫氏自身が強い匂いを発し続けていることもまた間違いない。次稿以降に登場する社員たちの多くも、孫氏の匂いに魅了され、磁力に引き付けられた人たちだ。

そしてこの社員たちの存在が、ソフトバンクの拡大路線に拍車をかけることになった。

自転車操業こそソフトバンク

2014年10月14日、ソフトバンクはアメリカで動画の制作・インターネット配信を手がけるドラマフィーバーを買収すると発表した。その10日ほど前には、今年、日本でもヒットした映画『GODZILLA(ゴジラ)』を制作したレジェンダリー・ピクチャーズへの出資を決めている。さらには、『シュレック』や『マダガスカル』などの映画でおなじみの、ドリームワークス・アニメーションの買収を検討しているとのニュースが流れている。

M&Aだけではない。それぞれ別稿で取り上げているが、エネルギー事業やロボット事業など、これまでまったく踏み込んでいなかった事業領域にまでソフトバンクは足を踏み入れた。

まさに攻勢に次ぐ攻勢ある。前述のように、リーマンショック後、ソフトバンクは大規模な投資を自粛していた。これは金融機関に対する配慮もあっただろうが、同時に孫氏自身が「事業の完成」に向け舵を切ったことが大きい。

孫氏は若い頃に人生50年計画を立てているが、それは50代で事業を完成させ、60代で後進に引き継ぐ計画だった。そして借金を返済することで事業の完成と位置付けたのだ。

しかしそれから間もなく、その考えを見直している。

きっかけは、2000年に発表した「新30年ビジョン」だった。ソフトバンク誕生から30年を迎えたのをきっかけに、次の30年のビジョンを掲げたもの。

このビジョンを策定するにあたり、孫氏は社員から意見を集めた。その上で出てきたのが「情報革命で人々を幸せに」という経営理念であり、「300年後も成長を続ける企業グループ」であり、「30年後に時価総額世界一」という目標だった。

「新30年ビジョンをまとめることで、ソフトバンクが何の会社であるか、再認識することができた」(青野史寛執行役員人事部長)

同時にはっきりしたのが、社員全員が、ソフトバンクが立ち止まることを良しとしないと考えていることだった。

今回取材した社員の中には「落ち着いたソフトバンクになったら辞めたほうがいい」と言い切った人もいた。かつて「自転車操業を抜け出すにはどうしたらいいか」と聞いた社員に対し、孫氏は「もっと早くこげばいい」と言ったというが、新30年ビジョンは、これからもソフトバンクが自転車操業であり続けることの宣言なのかもしれない。

次から次へとM&Aを仕掛けるいまの姿は、1990年代後半のソフトバンクを彷彿させる。当時、孫正義社長は、毎週のように記者会見を開いていた。内容は決まって、アメリカのインターネット企業を買収したというもの。こういう会見を開くごとにソフトバンクの時価総額は膨らみ、次の買収を可能にした。当時、ソフトバンクのこうした手法は「発表会経営」と呼ばれていた。

しかし当時といまでは大きく違うことがある。当時の孫氏は、買収・出資した企業の経営にはあまり関与しなかった。そのため「孫正義は事業家ではなく投資家だ」と揶揄されたこともある。しかし2000年代に入り、孫氏はADSL事業を立ち上げ、日本テレコム、ボーダフォンを相次いで買収、3社とも軌道に乗せている。事業家としても実績を残した。

この経験は大きい。「シナリオを描いて動き、うまくいかなければ軌道修正する」というソフトバンクスタイルが社員の間にも広まっていった。

もともと孫氏は「7割の確率だったら勝負する」という考え方を持つ。7割あったらとりあえずチャレンジし、走りながら考える。そして恐らく7割の確率が想定できる事業領域は、15年前といまでは大きく違っているはずだ。アリババの巨額の含み益もある。次にどんな事業に手を出すのだろうか。

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