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経営戦記

「企業は人なり」――。大企業から中小企業まで、どんな企業であってもそれを動かしているのは人であり、意思決定するのは経営トップである。言葉を変えれば、どんな優良企業でも社長が変われば倒産するし、低迷企業も不死鳥のように蘇る。すなわち経営とは日々の戦いであり、経営者に求められるのは不断の努力と決断力だ。話題の企業の経営者はいったいどのような戦いを勝ち抜いてきたのか――

2015年1月号より

変身しながら企業価値を上げることが自分の使命 三浦善司 リコー社長
三浦善司 リコー社長

三浦善司 リコー社長

みうら・ぜんじ 1950年青森県生まれ。76年上智大学大学院修士課程を修了しリコー入社。93年リコーのフランス法人の会長兼社長。2000年にリコー執行役員経理本部長、04年常務、05年専務兼CFO、06年総合経営企画室長、11年副社長を経て、13年4月に社長に就任した。

リーマンショック後、経営不振に苦しみ、1万人の人員削減を余儀なくされたリコーだが、ここにきて業績が急回復している。経営危機をバネに、事業構造の大転換に踏み切った効果がここにきて出始めているためだ。2013年4月に就任した三浦善司社長に、これからの戦略を聞いた。

サービス化に方向転換

〔10月27日、リコーは2015年2月期中間決算を発表した。それによると、売上高は前年同期比3.2%増の1兆800億円、営業利益は同7.6%増の558億円となった。通期見通しはそれぞれ、前期比2.9%増の2兆2600億円と16.3%増の1400億円。リコーは12年3月期に180億円の営業赤字を計上したが、前期は634億円の黒字、そして今期はさらにそれを伸ばすことになりそうだ〕

決算はまずまずでした。下期はさらに手応えを感じています。もともと当社の売り上げは、上期より下期が厚い。しかもさらに円安に振れていますから、通期見通しよりもう少しいくかもしれません。

でも手放しで喜んでばかりもいられません。というのも、ビジネスモデルが変わってきているからです。先進国ではペーパーレス化が進んできています。幸い、ドキュメントのボリュームとしては、それほど落ちているわけではありませんが、方向性として減っていくのは間違いない。ですからいまのうちにサービスの領域に移行しなければなりません。

〔リコーの主力製品である複合機のビジネスは、機器販売と、メンテナンスやサプライ用品によって売り上げを立てていた。ところがネットワークとつながったことで、ビジネス環境は大きく変わった。アウトプットの手段は従来の紙だけでなく、パソコンやタブレット、プロジェクターが加わり、扱うドキュメントも文字や画像だけでなく、音声や動画へと広がった。その結果として、紙にドキュメントを印刷するという機能から、複合機を核としたソリューションを提供するビジネスが求められるようになってきた。こうした変化を受け、リコーは14年4月に16年度を最終年度とする第18次中期経営計画を策定した。その内容は売上高は2兆5000億円以上、営業利益は2000億円以上。毎年4%以上売り上げを伸ばすという計算になる〕

この計画を達成するため、先進国ではオフィス向け文書管理や、ITサービスを強化していきます。当社の強みは、イメージングとIT、コミュニケーションの3つの領域をワンストップで提供できることです。これにより、前3月期で3000億円だったこの分野の売り上げを、17年3月期には1.3倍に伸ばそうと考えています。

一方、新興国は、従来のビジネスがまだまだ伸びていきますから、3年間で2倍の規模を目指します。しかしそれと同時に、サービス化も同時並行で進めていく計画です。

〔とはいえサービス化に舵を切るのはそんなに簡単なことではない。最大の問題は社員の意識をどう変えていくか。これまで機器販売をやっていた人間にサービスを売れといってもなかなかむずかしい〕

日本人社員の場合はまだいいんです。器用ですからサービス化へも対応できる。ところが海外の人にサービスを売りなさいと言っても、なかなか理解してもらえない。ですから私はトランスフォメーションが必要だと言っています。

そのために各国でITサービス会社を買収しています。最近でもインドやオーストラリア、アメリカの企業を買いました。その数はここ数年で10社程度にのぼります。この会社で、サービスを販売するというビジネスモデルをつくる。この会社にトランスフォームの核となってもらい、それをリコーに移植するというシステムです。

さらには各国の優れたビジネスモデルの横展開も考えています。従来だったら、いったん本社に吸い上げて、それを違う国に持っていくというやり方でした。だけど現在では、本社を経由せずに横横で広げていけるように変えています。

全天球型カメラの技術力

〔この中期計画の期間は3年だが、リコーではそのさらに3年後の2020年を見据えてこの計画を策定した。東京オリンピックもあり、これから日本も大きく変わる。その変化に、リコーも対応していく〕

絶対にやり遂げなければならないのは、企業価値を上げていくということです。これまで説明してきたように経営基盤は時代とともに変わりますから、自分たちも変わりながら、企業価値を上げていかなければなりません。必要なのは、まず業績を上げていくこと。残念なことに当社は2期前に赤字に転落しています。そこからはV字回復しましたが、もっとよくしていく。中計で示したように、最高益にまで持っていく。

でも、それだけでは株価は上がりません。株価を上げるためには私たちの未来を示す必要があります。中計にはその未来も盛り込んであります。複合機を軸にしたコアビジネスは先ほど説明したとおりですが、それ以外の分野も当然のことながら伸ばしていく。

そのひとつが、プロダクションプリンティング(PP)、つまり商用印刷機です。この分野はいまでも高い伸びを示していますが、これも3年間で1.3倍の事業規模とすることを目標にしています。

さらにインダストリー分野も3年で1.5倍に拡大します。そのために14年10月から新会社(リコーインダストリアルソリューションズ)が活動を開始しています。新会社では「FA(ファクトリーオートメーション)」「車載」「セキュリティ」など、リコーの技術を活かせる分野に注力します。

例えば車載事業では、ドライバーに対する知覚・行動支援を行うモジュールを開発しており、一部自動車メーカーにおいて採用が始まっています。自動ブレーキシステムやレーンキーピングの技術に光学技術は不可欠です。そしてこの分野でリコーは競争力がある。ヨーロッパなどでは自動ブレーキ搭載が義務づけられようとしています。ですからこの分野は、ものすごく伸びていくと考えています。

〔当然のことながら、新規事業も伸ばしていかなければならない。上の写真で三浦社長の右手に注目してほしい。レンズがついているからカメラであることはわかる。でもただのカメラではない。シャッターボタンを押すだけで、瞬間に自分の周囲のすべてを撮影することができる全天球型カメラなのだ。先日発売されたばかりの新製品だ〕

これが全天球型カメラの「シータ」です。先代のシータは画像の撮影だけでしたが、新型では、動画の撮影も可能になりました。それによって可能性が格段に広がりましたし、他社が追随しようとしてもそう簡単にまねはできません。リコーの画像処理技術があって初めて可能となったのです。すでに非常に多くの企業から引き合いが来ています。このカメラを使ったまったく新しいサービスが始まろうとしています。

3Dプリンターにも参入します。すでにリコーは3Dプリンターメーカーにヘッドとインクを提供しています。そこから一歩進んで、自分たちでプリンターを製造・販売することも視野に入れて開発を進めていきます。このほか、ヘルスケアや農業分野へも軸足を伸ばします。

三愛精神と労働裁判

〔かつては『営業のリコー』と呼ばれたように、その営業力によって成長を遂げた。しかし、いまではその画像処理技術において高い評価を受けるまでになってきた。三浦社長が語った新しいビジネスが可能となったのも、技術あってこそだ〕

技術に関しては、ずっと売上高の5~6%を研究開発に充ててきました。赤字の時も続けてきましたし、売り上げが2兆円を超えたいまでも比率を下げてはいません。これは今後も続けていきます。

というのも、イノベーションでしか人間は生き残ることができないという信念があるからです。地球温暖化などの環境問題があるといっても、昔のような生活に戻るわけにはいきません。だとしたらイノベーションによって問題を解決していく。そのためには研究開発は欠かせません。

ただし、単独でのイノベーションにこだわっているわけではありません。特にIT・サービス化を進めるうえでは、他社との連携は欠かせません。自分たちだけでクラウドサービスができるわけではありません。ですから、いままで以上に協業が重要になってきます。様々な企業と機動的にアライアンスを結んでいくことが重要です。

〔企業規模が大きくなり、国際化が進めば進むほど、企業統治はむずかしくなる。リコーには「三愛精神」(人を愛し、国を愛し、勤めを愛す)という創業者・市村清が定めた理念がある。しかし全世界に11万人を超える社員を抱えるようになったいま、その理念を伝えるのは容易ではない〕

三愛精神は、いまでも創業の精神としてリコーの根底に流れています。ただし、これをそのまま英訳しても、なかなかその真意が伝わりません。下手をすると宗教のようにとらえられてしまう。そこで「信頼と魅力の世界企業」を目標として掲げる経営理念をもうけています。「人と情報のかかわりの中で、世の中の役に立つ新しい価値を見出し、提供をつづける」「かけがえのない地球を守るとともに持続可能な社会づくりに責任を果たす」を自らの使命としています。これが「リコーウェイ」で、これを世界の社員に対して発信しています。

もちろんそう簡単に伝わることではありません。ですから、私は何十回も何百回も、繰り返し全世界の社員に対して語りかけています。そこまでしないと浸透させることはむずかしい。だけど一度理解してくれたら、海外の社会であっても、一生懸命、働いてくれています。

〔三愛精神からもわかるように、リコーは人に優しい会社として知られている。しかし13年11月、東京地裁の判決によってリコーに衝撃が走った。11年春にリコーは業績悪化を理由に1万人の人員削減を発表するが、それを理由に一部の社員を従来の業務と全く関係ない部署に異動させた。その異動取り消しを求めた裁判で、リコー側は敗訴、控訴を断念した。この裁判は大きな話題を呼び、同時にリコーの三愛精神にも疑問が投げかけられることとなった〕

この件に関しては残念でなりません。いまでも私はリコーは人に優しい企業だと信じています。それなのになぜ、こんなことになってしまったのか。悔しくて夜も眠れないこともありました。

ひとつだけはっきりしているのは、業績が悪化し合理化をしなければならなかったのは事実だったことです。その経営のまずさを大いに反省しています。もう二度と、このようなことは起こしません。

だからこそ、先ほど言ったように企業価値を上げていかなければならない。そうでなければリコーは存在する価値がありません。

過去12年間にわたって、リコーは中計の未達が続いていました。でももうそんなことは許されない。悪い流れを断ち切り、何が何でも言ったことは実行する。不退転の決意です。

使命感、情熱、誠実

〔三浦氏は13年4月1日に社長に就任した。16年に創業80年を迎えるリコーとしては7代目の社長であり、プロパーの財務出身社長はこれまでいなかった。その就任1年前にリコーは赤字を計上。また前述の裁判も抱えていた。厳しい経営環境下でのスタートだった〕

「何が何でも第18次中期経営計画は達成する」と三浦社長。

社長になれるなんて考えたこともなかったし、なりたくもなかった。それでも引き受けたのは、使命感以外のなにものでもありません。

仕事というのは、ミッション(使命感)とパッション(情熱)をもって取り組む必要がある。かつてフランスに駐在していた時に、そのことを学びました。ただ、この2つだけだと、あらぬ方向へ暴走する可能性があるので、これにインテグリティ(誠実)を加えた3つを信条として生きてきました。社長をやれと言われた時も、まずこの信条を思い出しました。

この3つをもって仕事にあたれば、必ずうまくいく。部下に対しても、この思いを一生懸命伝えて、共有することができれば、成し遂げられる。実際、どんな国籍の人間でもそれは変わらない。心に火をつけることができれば、誰もがいい仕事をしてくれる。そう信じています。
ただし、ここに来て業績が回復してきたのは、苦しい時にも研究開発を惜しまなかった、先輩たちがいたからこそで、それがいま花開いてきたのです。

〔学生時代から空手を学び、ヨーロッパ駐在時代も道場に通った。その一方で、能面づくりという意外な趣味を持つ〕

いまでは道場に行くことはなくなりましたが、いまでも毎日筋トレを行っています。能面づくりは、やればやるほど自分の能力のなさを思い知らされますが、朝から晩まで、ひたすら能面に向かいます。彫っている時は無になれる。でも最近は忙しくて、なかなか彫る時間がつくれない。それが少し残念です。

(構成=本誌編集長・関慎夫)

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)


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