ビジネス誌「月刊BOSS」。記事やインタビューなど厳選してお届けします! 運営会社

特集記事

2014年4月号より

消費税が上がればスズキが沈む? 税金だらけの自動車販売

自工会は慎重な見通し

2013年の国内自動車販売は、想定よりも活況だった。従来、日本自動車工業会の需要見通しによると、13年の四輪車総需要は474万台とみられていた。それがふたを開けてみれば、アベノミクス効果もあったのか、537万6000台と、エコカー補助金終了の影響は軽微に抑えられ、前年並みの水準まで持ち直している。

消費税が8%に引き上げられる今年は、やはり自工会の需要予測も慎重だ。四輪車総需要は485万台と、前年比90%程度にとどめる。なかでも軽自動車については前年比87.6%と大幅減を見込んでいる。

ある自動車アナリストは次のように語る。

「13年の販売は、消費増税を見込んでの緩やかな駆け込み需要という側面もあったと思います。なかでも軽自動車は、軽自動車税が上がるという話が出ていました。実際に上がるのは15年4月ではあるものの、消費税と両方が上がる前に買っておこうという心理が働いたのでしょう。先に延ばせば、どんどん高くなるかもという不安がある」

自動車を購入する際には3つの費用がかかる。1つめは本体価格+オプションパーツ。2つめは自動車取得税、自動車重量税、自動車税、消費税の4つの税金。3つめは車庫証明や自賠責保険といった税金以外の諸費用だ。消費税の引き上げにともない、これら3つの費用はすべて何らかの影響を受けることになる。

ちなみに自動車購入時にかかる消費税は新車・中古車問わず、登録日または納車日の税率が適用される。3月31日までに購入を決めても、納車が4月1日以降であれば8%の消費税がかかる。

自動車諸税のうち、消費増税にともなって、自動車取得税の見直しが図られる。登録車は現状の5%から3%へ、軽自動車は3%から2%に軽減される。しかしながら、近年の低燃費競争からエコカー減税対象車が増加しており、ハイブリッド車や低燃費車はもともと自動車取得税はゼロ。取得税見直しは、実質的にほとんど恩恵がない。

エコカー減税は、来年3月31日までに新車を取得する場合に取得税が減税され、同じく4月30日までに新車登録、および最初の車検を受ける場合に重量税が減税される。燃費によって自動車税も50%および25%減税されるというもの。ただ、政府の指針としては消費税率10%に引き上げ時に取得税は廃止、自動車税は燃費性能に応じた課税に切り替える予定だ。

結論から言えば、8%に引き上げられる前に購入するのが、もっとも安く買えることになる。しかし、登録車の場合、本体価格は上がるものの、10%引き上げ時の自動車諸税の税制改定次第では、税金部分がかなり安くなる可能性もある。少なくとも現状維持か、微増程度で済む可能性が高い。

対して軽自動車は、15年4月に軽自動車税が、新車に限り、現行の1.5倍にあたる年1万800円に引き上げられることが決定済み。最近の軽自動車はほとんどエコカー減税対象車のために取得税と重量税の減税の恩恵はなく、単純に消費増税と軽自動車増税が負担増になる。軽自動車のほうがダメージが大きいことは一目瞭然だ。

軽自動車に影響大

国内自動車販売が衰退に向かうかと言えば、意外に楽観論もある。

「4月以降、数ヵ月は販売台数が落ちるのは間違いないでしょう。しかし自動車業界自体は、海外の伸びも堅調で、円安効果もあり、潤っている。日本経済の全体を見ても、設備投資や研究開発費の上昇も見込め、一時金が中心とはいえ賃金の上昇も見込めることから、3%から5%に引き上げられた97年の時のような落ち込みにはならないのではないか」(同)

実際、増税後の反動減も限定的という見方が強い。というのも自動車はエコカー補助金などで買い替えがすでに進んでおり、消費増税を見据えて補助金終了後も堅調に販売が進んでいた。急激な駆け込み需要が起きないぶん、反動減も大きくないと予想されている。

「昨年12月にフルモデルチェンジで発売されたトヨタ『ハリアー』は受注が好調で、納車は5、6カ月待ちと言われています。日産が2月13日に発売した軽自動車『デイズ ルークス』も事前受注が2万台あったそうです。消費増税前の納車ができない可能性があるにもかかわらず、新車は好調な受注を続けていることから、消費者は欲しいクルマがあれば時期を気にしないようになっている。駆け込み需要が大きくない代わりに、反動減は新車効果で補えるのではないでしょうか」(同)

興味深いのは、矢野経済研究所が予測している14年の販売台数だ。なんと前年比プラスの614万台との見通しを出している。その根拠は、自工会が前年比87.6%と予測する軽自動車で、逆に年後半に軽自動車税引き上げ直前の駆け込み需要が起こるとみている。4月からの落ち込みを踏まえつつ、軽自動車の駆け込み需要次第で、総需要が前年比横ばいからプラスで推移すると予測しているのだ。言い換えれば、不安なのは15年以降の軽自動車業界なのかもしれない。

軽自動車税は四輪の増税に目がいきがちだが、実は二輪車の増税のほうが市場には厳しい。軽自動車は新車に限り、1.5倍の増税だが、二輪車は全排気量が新車も中古車も保有も関係なく、一律で1.5倍の増税となる。消費税も同様に引き上げられるわけで、ただでさえ縮小している二輪車市場は大きな打撃を受けることになりそうだ。

99年に100万台を切り、12年に44万2000台にまで落ち込んでいた二輪車市場は、ようやく底を打ち、13年は前年比104%の46万台に回復、14年も前年比100.6%の46万3000台の予測と増加の兆しを見せていた。回復基調にあった矢先の消費増税、軽自動車増税のダブルパンチになる。
これらの軽自動車税の動きに対し、自動車に詳しいジャーナリストはこのように指摘する。

「弱いものいじめ」発言で注目を集めた鈴木修・スズキ会長だったが…。

「軽自動車税の増税は、超小型モビリティ制度の新設が何らかの影響を及ぼしているように思います。超小型車の税額を、現状の軽自動車税である7200円に抑えることで、各メーカーのガス抜きをしようとしているのではないか」

超小型モビリティはトヨタ、日産など軽自動車を生産していないメーカーも競って開発をしている。軽自動車と二輪車の中間のような存在だ。この分野は12年に国土交通省が「超小型モビリティ導入に向けたガイドライン」を発表しており、全国で実証実験が進められている。現状では軽自動車の規格に組み込まれ、黄色ナンバーを付けているが、実用化が進めば何らかの税制にかかわってくるのは間違いない。

国土交通省が規格の正式決定をするのは16年の予定だが、何かにつけ軽自動車は今回の税制改革であおりを食う形になっている。トヨタの子会社であるダイハツはともかく、国内販売の9割を軽自動車に依存し、二輪車も販売しているスズキにしてみれば、消費税と合わせてトリプルパンチの痛手となる。

スズキの鈴木修会長は、日本市場のシェア41%の軽自動車が狙われたことに対し、
「消費税増税は日本の将来を考えればやむなし。しかし、自動車取得税の廃止に伴い、財源を軽自動車税の増税で穴埋めしようなど、仕組みがなっていない。残念というより本当に悲しい」と嘆く。

今後2年間の販売動向次第では、スズキのひとり負けになる可能性も十分あり得る。

(本誌・児玉智浩)

経営ノート | 社長・経営者・起業家の経営課題解決メディア

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

 

0円(無料)でビジネスマッチングができる!|WizBiz

WizBizセミナー/イベント情報

経営者占い