2014年4月号より
消費税が上がることで、いちばん頭を痛めているのが、小売業者だ。何しろ消費者といちばん近いところにいるわけで、その影響を真っ先に受けることになる。
1997年に消費税率が3%から5%へと上がった時、97年度の消費支出は前年より1.3%減少した。バブル崩壊後も消費支出はコンスタントに1~3%伸びていたが、この年、一気に落ち込んだ。バブル崩壊後、日本の景気が悪化したような記憶があるが、実際には、消費税増税をきっかけにして景気はどんどん悪くなった。ヤオハンやマイカル、ダイエーなどのチェーンストアの経営破綻に向かって突き進んでいくのもこれ以降のことだ。
それだけにチェーンストア各社は、消費税の取り扱いに極めてナーバスになっている。
現在、スーパーなどでは、特集冒頭の記事でも触れたように、商品価格を税込みで表示している(内税方式)。しかし来る消費税率アップに備え、昨年10月から特例で税抜き表示が認められている。つまり、総額でも本体価格でも、表示方法は販売業者が選べるわけだ。
いまのところ、イオンやセブン&アイグループなど、大手チェーンストアは4月1日以降、税抜き表示を行うことを決定している。
来年10月にもう一段の引き上げが予定されていることに加え、商品価格が高くなったことをできるだけ消費者に印象づけたくない、というのがその理由だ。たとえば税込み105円で販売していた商品の値札は、4月1日以降、総額表示なら108円だが、税抜きなら100円となる。1997年の悪夢を再現させないためにも、増税インパクトを少しでも小さくする表示方法を選ぶのは当然だろう。
しかしそれでも心配でしかたがない、というのが大半の小売業界だろう。アベノミクス効果がこれから消費に向かおうという時に冷や水をかけられてはたまらない、というのが本音である。
そこでイオンでは、プライベートブランド(PB)の大半を、生活支援のために値下げすることを決断した。
イオンの売上高は今期約6兆円となる見込みだが、そのうち1兆円が「トップバリュ」などPBの売り上げだ。これを値下げすることにより、消費離れを食い止めようというわけだ。
イオンは2007年から08年にかけて、原油価格や穀物価格の高騰に伴う物価高に対し、トップバリュを値下げすることで消費者の支持を集めたという歴史がある。今度も同様の手段によって、消費者の味方であることを明確に示した。
具体的には、トップバリュシリーズの中でも低価格帯の「ベストプライス」を、現状の600品目を900品目へと1.5倍に強化するという。またその一方で、こだわり商品への人気は続く、いわゆる消費の二極化が起きると判断、高付加価値PBの「セレクト」も、300品目を500品目程度へと拡充する方針だ。
ただしそのためには、当然のことだが仕入れ価格を引き下げなければならない。PBの場合は、大量発注と完全買い取り、そして包装費や広告費の削減で低コストを追求しているのだが、今度の値下げによって、もう一段、無駄を削ることになる。
現在、水面下で、イオンとメーカーの間で激しい交渉が行われているのだが、低価格PBによって小売業トップの座に君臨するイオンにしてみれば、生活支援の値下げは当然の戦略である。ここで引くわけにはいかない。