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2014年4月号より

マンション活況に沸く裏で淘汰や優遇税制見直し気運

謳歌できるのは大手だけ

消費税増税は、当然のことながら住宅という最も高い買い物に一番ひびいてくる。だから増税後の需要落ち込みを防ぐため、住まい給付金や住宅ローン控除の2倍拡充、住宅ローン「フラット35」の融資限度額の引き上げなど、さまざまな施策が打ち出されてきた。

住宅商戦はある意味、昨年9月末で一段落しているともいえる。同時期までに購入や大規模修繕の契約をすれば、この4月1日以降の引き渡し物件でも5%の税率が適用されるためだ。では、今後はどう推移していくのか。

2020年の東京五輪に向け、マンションはいまだ建設ラッシュ。右上は、不動産関連の著書が多数ある、さくら事務所会長の長嶋修氏。

そこでこの稿では、不動産コンサルタントで、さくら事務所会長の長嶋修氏の談話を交えながら見ていこう。同氏は、「消費税増税によるマンション購入の影響は、当然のことながら低所得層ほど影響が大きいので、購入対象となる低額帯物件が苦戦します。都心部や大都市部の一等立地を購入対象としている人には、10%の増税までは影響は少ないでしょう」とした上で、こう続ける。

「首都圏の新築マンション供給戸数は、ピークの2007年で8万戸を超えていました。いまは5万6000戸前後。供給絶対数が落ちている中で契約率が高い水準にあるのは、都心立地を中心とした高価格帯の物件が売れているから。その点、06年から07年にかけて盛り上がった頃は、郊外にもどんどん物件価格の上昇が広がり、最終的には国道16号線の外側までその勢いが膨らみました」

つまり現在は、都心立地と郊外とではいろいろな意味で二極化してきているのだ。郊外の低額物件になればなるほど、昨今の円安による建築資材や人件費の高騰のダメージは大きい。都心物件と違って、その高騰分を消費者に容易に転嫁できず、さらにそこへ消費税増税がプラスされるからだ。

マンションビジネスはある意味、ハイレバレッジな産業と言われる。価格が高くなったマンション用地を仕入れて、もし売れなかったら、そのディベロッパーにとっては死活問題になるからである。

「すでに、中堅以下のディベロッパーの中には、用地仕入れで躓くところも出てきて、実態は相当厳しいんじゃないでしょうか。90年代前半に地価がどんどん落ち、90年代後半になると、割安で仕入れた土地を武器に、カタカナ社名の新興ディベロッパーがいくつも誕生して、上場までしていきました。

でも、今はそういうことは起きていない。ここ数年、大手ディベロッパーによる寡占がどんどん進んでいるからです。たとえば5年前、大手のマンションシェアは30%台だったと思いますが、昨年で5割、へたをすると6割ぐらいまでいっているかもしれません。大手は郊外より都心が得意だし、用地仕入れ情報ルートも豊富です。

何より、資金的な体力があります。売れなかった場合、大手だとある程度、その物件を温存しておくこともできますが、それができない自転車操業的な企業はちょっと厳しい。中小ディベロッパーは、高齢者向け住宅、あるいは中古マンションを買って1棟丸ごとリノベーションするとか、事業を新築分譲から分散させていくしかありません」

だからか、名の通ったブランドマンションは別にして、新築物件では少しでも安く施工してほしいというディベロッパー側の事情がある。そこで、そのノウハウが最もある、マンション建設最大手の長谷工コーポレーションが “駆け込み寺”になっているという話もよく聞く。

極端に言えば、一部人気エリアの郊外物件は除いて、これからの新築分譲マンションは、大手が手がける都心物件だけの話になっていく可能性もある。これから分譲していくにはリスクが高く、ますます進む少子高齢社会を鑑みれば、郊外エリアは中古マーケットにこそ活路があるからだ。長嶋氏も、新築分譲は全体的に先細る一方、中古市場は中長期で見れば、いまの5倍ぐらいに市場規模が拡大しておかしくないと見る。

国策としても、20年までに中古・リフォーム市場を20兆円に倍増させる意向で、優良なリフォームと認定されれば戸当たり100万円から200万円の補助金が出る見込みで、「これが相当、人気化するはず」(同)と言う。

消費者側から見れば、消費税増税後に売れ残った郊外の新築物件を安く買えるチャンスかといえば、
「リーマン・ショック後のような何十%引きといった叩き売りにはならないでしょう。郊外物件そのものも多くはないし、せいぜい10%引きとか、損益トントンで売るくらいではないか」と、長嶋氏は否定的に見ている。

前述したように、中小ディベロッパーが苦しくなってきているとすれば、今後再編が起こっていくのかも注目だが、「エリア的に補完があるとか、よほどのメリットがなければ、あまり現実的ではありません。むしろ、さきほど言いましたように、中古などのストック市場の活性化を考えれば、大手が優良なマンションの管理会社を傘下に収めるほうがいいのでは」(同)

転機の新築優遇税制

一方、海外の主要国と日本との対比で見てみると、そう遠くない将来、住宅にかかる消費税は、グローバルなスタンダードに照らせばゼロ、ないし軽減に向かうという声が多い。海外の付加価値税等と住宅にかかる税率を見ると、米国の標準税率が8.875%なのに対し、住宅は非課税、英国とドイツは、付加価値税はそれぞれ20%、19%だが、住宅はやはり非課税だ。

課税がある国でも、フランスは19.6%の付加価値税が一般の住宅でもそのまま適用されるが、住宅改修などでは7%と軽減される。イタリアも21%の付加価値税に対し一般住宅は4%、豪華な住宅や別荘でも10%となっている。

そうした事情を踏まえて、長嶋氏はこう提唱する。

「住宅購入やリフォームの場合、消費税をゼロにしてあげる代わりに、住宅ローン減税などの優遇を廃止する。日本は新築偏重で来たので致し方ありませんが、住宅ローン減税はやり過ぎです。逆に言えば、他国では新築優遇はあまりないですね」

前述したように、これまで続いてきた新築優遇税制に加え、今後は優良リフォームにも補助金が出るわけだが、財政難の日本で新築、中古両方の優遇はいつまでも続くはずがない。どこかの段階で、財務省も中古優遇重視の税制に切り替えるはず。財務省の「変心」を国土交通省が待っている――そんな見方が、不動産業界関係者の間では日増しに高まってきている。

消費税増税のインパクトは、体力のないディベロッパー淘汰を促し、優遇税制の抜本見直しや消費者の住宅観激変をもたらすことになるかもしれない。

(河)

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