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特集記事

2014年4月号より

消費税10%は“第1歩”借金返済は甘くない

消費税引き上げの意義

―― 4月1日から消費税率が8%に上がります。あらためて今回の消費増税の意義とはどういったものでしょうか。
野田 いま最大の課題は何かと言うと、社会保障経費なんです。世界の中でも日本の少子化、高齢化は高いレベルにある。これにかかるお金が、政府の財政の能力を超えています。いくら無駄遣いを減らすと言っても、2015年には団塊の世代が70歳以上に突入していくわけで、さらにお金がかかる。

野田毅・自民党税制調査会長
のだ・たけし 1941年10月生まれ。64年東京大学法学部卒業後、大蔵省(現財務省)入省。72年12月衆議院議員初当選。当選14回。89年建設大臣、91年国務大臣・経済企画庁長官、99年自治大臣・国家公安委員長など歴任。現在は自民党衆議院議員総会会長、自民党税制調査会長などに就いている。

この10年ほどをみると、社会保障は基本的に保険料と自己負担が財源です。保険料とはいっても、あまり重くなると中小企業が社会保険料を払いきれなくなります。しかし、いま以上に年金を減らしたり、医療費を減らしたりはできない。

お金がないからといって所得税、法人税を増税できるかといえば、むしろ減税論のほうが強い。ですから、防衛費、研究開発費、農業予算、公共事業、ODA等々、他の予算を削ってきました。それでも足りないから国債で借金をしたわけです。その借金のレベルが、15年前ならせいぜいGDPの半分くらいでしたが、いまはGDPの2倍になっている。世界でこんな国はありません。国債金利が低い(2月6日時点で長期金利0.6%)からなんとかなっていますが、アメリカやドイツ並みの金利になればどうなるか。かなり限界だと言えます。

高齢化は足踏みしてくれませんから、消費税を財源としてお願いするしかないだろう。その代わり、消費税の使い道は法人減税には充てない。かつては競争力強化のために法人税を下げて消費税でカバーするという話はあったのですが、社会保障に100%充てます。逆に社会保障の伸びも消費税の上げられる範囲で抑えてもらわなくては、どうにもならない。これが消費税と社会保障の一体改革という考えです。

―― 1997年の3%→5%の増税時にくらべ、反対意見もあるにせよ、今回の増税のほうがある程度、国民の理解があるように見えます。半面、国税の新規発生滞納額5935億円のうち、3180億円が消費税の滞納と54%を占めています(2012年度)。経営の厳しい中小企業が多いことを表しているわけで、今回の増税で滞納額がさらに増えるとの見方もあります。
野田 法人税は黒字企業にしかかかりませんが、消費税はお客さんからお預かりしているすべての企業が払わなくてはいけません。徴収を強化すると、破綻に追い込まれる企業が増えかねない。かといって許すわけにもいかない。消費者は消費税を払っているわけですから、国に納めてもらわなくてはいけない。滞納が出るのは間接税の宿命でもありますが、若干の時間差があっても徴収はしていきます。

中小企業がきちんと消費税を払えるように、下請け叩き、納入先いじめを防ごうと消費税転嫁対策特別措置法という法律をつくり、優越的地位の濫用等に対して、経済産業省、公正取引委員会等、いままでになかった体制を組んで、具体的かつ徹底的にやってもらっています。

―― 下請けに対し、消費税の価格転嫁を拒否する、もしくは下請け側が価格転嫁できないケースが、実際にはあるようです。
野田 実は、すでにイエローカードを出している企業もあります。まだ引き上げ前ですからレッドカードにはできませんが、今回は厳しく取り締まっていきたい。

もっと制度を活用せよ

―― 消費税率引き上げの4月1日以降、消費が落ち込むことが予想されています。
野田 3月末までに駆け込み需要が高まると、その反動は少なからず起こるでしょう。3カ月くらいの影響は不可避だと思います。97年の引き上げ時を教訓として、自動車(取得税減税)や住宅(住宅ローン減税)など大物については、対策を用意しています。いまのところ駆け込みのレベルは以前に比べ抑制されていて、いい流れになっているのではないか。

―― アメリカの株価が下がると日本の株価が下がるなど、外的要因による景況感の悪化もあります。
野田 アメリカの金融の状況、靖国神社参拝による中国との関係など、何がどのように経済状況に影響を及ぼすのか、影響について過大に言うわけにはいかないし、過少に言うわけにもいかない。昨年、消費税の引き上げを決めた時点で展望できる経済状況を念頭に置いて、十分に自信をもって対応できると判断しています。

―― 大手企業の決算はよい数字が出てきていますが、まだ給料として、国民全体の景況感には至っていません。10%に引き上げる現実味についてはいかがでしょうか。
野田 私は上げなくてはいけないと思っています。10%にしたからといって、日本の財政や高齢化の進行に対応できるかというと、極めて難しい。ただ、10%にするのは一歩前進であるということです。

いまの状況は、GDPの倍の借金があり、その借金が毎年、大幅に増えている。毎年上乗せしているなかで、借金返済に向かう話ではない。それを2020年までには何とか、借金の増え方をゼロにしたい。借金ゼロではなく、増え方をゼロにする。15年には増え方を半分くらいに減らしたいというのが目標です。高齢化はさらに進むわけですから、10%にするだけでは万全ではなく、医療費の自己負担を増やすとか、かなりのことをやらなければいけない。10%にすることによって、増え方を半分にするのが第一歩であり、8%では半歩前進したにすぎない。借金返済は甘い話ではないんです。

借金は次の世代に行ってしまう。これが行かないとすれば、国が破綻するということ。そうならないようにしなければいけない。

―― 10%には抵抗感を持つ人も多いようです。仮に引き上げるのであれば、公明党が主張する軽減税率の導入が必要との見方もあります。
野田 消費税は、毎日の買い物、特に食料品などに“痛税感”を持つようです。特に女性はシビアにみています。消費者の立場からすれば、食料品は安くするのが当然だという思いはある。6割以上の人が軽減税率には賛成しています。

消費税引き上げについて語る野田税調会長。

しかし、食料品を買うのは低所得者だけではありません。高額なご馳走を買う金持ちもいる。抱き合わせ商品も多い。そして実際のビジネスをする人たちからみれば、自分の扱う商品がどちらに分類されるのか、税率によってビジネスも変わるでしょう。新聞に軽減税率を適用するかどうかという話もありますが、では雑誌はどうするのか、何が違うのか、書籍はどうなるのか、地方紙は? 専門新聞は? と業界のなかでも線引きが難しい。食料品とダイエット食品、また医薬品はどうなのか。対象を政治家が勝手に決めるような話ではありません。丁寧に扱って、みなさんがある程度納得、合意しなければいけないでしょう。

2月から自民党と公明党で軽減税率制度調査委員会を開き、議論を始めていきます。4月には基本的な考え方をまとめていきたい。公明党は是非にということでしたから、我々は一緒に勉強していくことになります。

よく欧州ではできていることを日本でなぜできないと言われますが、欧州にはもともと付加価値税の前に取引高税というものがあったんです。仕入れ控除をせず、売り上げだけに課税するというもの。これには軽減税率を導入しやすい。ベースがあれば改良することはやりやすいですが、何もないところからつくるのは容易ではありません。

民間はもっと制度の活用を

―― 月刊BOSSの読者には企業経営者や経営幹部が多い。政府として日本経済のために取り組んでいる施策についてお聞きしたい。
野田 安倍政権の最大の仕事は、当面は、成長戦略もさることながら、デフレ脱却だと考えています。これまでの20数年間、経済全体、心の持ち方がずいぶん内向きになっていました。値下げ競争ばかりして、気持ちが外に向かっていなかったように思います。バブル崩壊以降、過剰債務、過剰雇用、過剰設備、いわゆる3つの過剰に苛まれて、日本企業は借金返済、人件費抑制、研究開発予算や設備投資をガマンしながら内部を厚くするということをやってきました。それが結果としてデフレスパイラルに入った。賃金が入らないから消費も増えないという悪循環ですね。

銀行は不良債権の重圧に打ちひしがれて、お金を貸すより回収ばかりになり、企業も借りるより返すほうに熱心で、体力強化を一生懸命やってきた。結果、日本の大企業は内部留保が厚くなった半面、賃金が減っていったわけです。

これではいけない。日本経済全体がバックギアに入っていたものをいかにギアチェンジして前に進んでいくのか。クラッチが錆びついてきていたものを、荒っぽいですがアベノミクスでギアチェンジさせて、ようやく前に進み始めました。

その最大の手法が金融分野への取り組みです。経済の主体は民間ですから、民間がお金を貯め込むのではなく、有効に使ってもらわなくてはいけない。金融緩和で銀行に、もっとお金を貸してやれと。もう一つが税制で、研究開発や設備投資にお金を使えるよう、研究開発減税と投資減税。そして賃金を上げてやれと、従業員の給与やボーナスを増やした企業の法人税を減税する「所得拡大促進税制」を始めました。賃金を上げたら減税するという税制は世界にも例がありません。

アベノミクスの3本の矢は金融と財政と成長戦略と言っていますが、デフレ脱却の3本の矢は、金融と税制と民間のお金を動かすことです。動かなければ財政でやる。

これらの税制を活用するのは民間企業です。我々が思っていたよりも減税幅が大きければ、経済効果も大きくなっているはずです。民間が使わなければ減税にもならないわけで、大いに活用していただきたい。

(聞き手=本誌・児玉智浩)

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