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2014年4月号より

4月1日消費税増税 あなたの会社は値上げできますか?

あと1カ月あまりで、消費税が5%から8%に引き上げられる。財政を健全化させるためにやむを得ない選択であることは理解できる。ただしそれは消費税分が価格に転嫁され、国民がそれを負担してようやく、意味を持つ。しかし物価の下方圧力はいまなお高く、増税後、さらに高まるのは必至の情勢だ。まもなく迎える4月1日。あなたの会社は値上げできますか。

売れ始めた家電製品

2月のある休日、都内の家電量販店をのぞいてみた。前日に雪が降ったこともあり、外出を控えた人が多かったのか、それほど人では多くない。店員が語る。

「この雪は痛いですね。2週連続ですからね。天候に恵まれたなら、もっと多くのお客さんに来てもらえるはずなのに。でも1月の売り上げはよかったし、2月はあまり伸びないかもしれないけれど、3月には大いに期待したいですね」

最近、よく動いているのが、冷蔵庫や洗濯機などの大型白物家電だという。10万円を超える炊飯ジャーもよく売れているという。消費税アップを目前に控え、いまのうちに高額商品を買っておこうという動きが、確実に起こっている。

「2009年から10年にかけてのエコポイント、11年の地デジ完全移行の時以来、売り上げは低迷していたけれど、久しぶりに高額商品を中心にモノが売れている。ただしそれだけに反動が怖い」

本誌発売日から約5週間後の4月1日午前0時を期して、これまで5%だった消費税率が8%に切り替わる。1989年に導入された消費税の税率は当初3%だったが、97年に5%になった。今回は以来17年ぶりの消費税率アップである。それを目前に控え、駆け込み需要と、4月以降の反動への対策に、多くの企業が追われている。

特に、小売業など、消費者との接点が多い業種は頭を悩めている。というのも、17年前のトラウマが、いまだ尾を引いているからだ。

昨年秋、安倍首相が税率アップを決断した背景には、アベノミクスにより経済が順調に回復に向かっていた状況がある。消費税率を8%に上げる法案は、一昨年、民主党政権時代に成立していたが、「経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」との付帯条件がついていた。

その条件をクリアした、と安倍首相は考えた。しかし、これが日本経済にどのような影響を与えるのか。4月になってみないとわからないところも多い。

初めて消費税が導入された89年はバブル経済がピークに向かい始める時だったため、その影響は最小限に抑えることができた。しかし97年の税率引き上げの時は状況が一変していた。当時の景気認識はけっして悪いものではなかった。住専問題にも一応の決着がつき、猛烈な円高も一服、株価も上昇に転じていた。当時の橋本首相はその状況を勘案したうえで、自信を持って5%に税率を引き上げた。

ところが、そこから日本経済はガタガタと音を立てて崩れていった。この年の秋には三洋証券、北海道拓殖銀行、山一証券といった金融機関が経営破綻を起こす。翌年には日本長期信用銀行と日本債券信用銀行が相次ぎ国有化されるなど、日本金融界は未曾有の危機に陥った。これをきっかけにしてみずほ銀行が誕生、三井住友銀行がそれに続くなど、金融大再編が起こっていったのは記憶に新しい。97年以降、日本の金融地図は一変した。

PBで生活防衛策

流通業界も同様だ。90年代後半には、世界的流通業として名を馳せていたヤオハンが倒産、マイカルもそれに続いた。2000年代に入るとダイエーの経営危機が表面化、産業再生機構入りを余儀なくされた。もともとバブル崩壊後業績が悪化していたとはいえ、決定的になったのは消費税増税後、消費不況と金融不安が起こったためだ。

このほか様々な業界が影響を受けている。日産自動車がルノーの傘下に入り、三菱自動車が三菱グループの支援に頼らざるを得なかったのも、消費税増税以降のことである。自動車業界も再編に向かい、電機業界は中堅以下が苦況に陥った。

そして増税を決断した橋本内閣そのものも、その直後に行われた参院選で惨敗、政権を追われることになる。その後就任した小渕首相によって、日本が世界最大の借金大国の道を進んでいったのは周知のとおりだ。実際、97年4月1日以降、民間消費、民間投資も大きく落ち込み、日本はデフレに突入した。

この不況は、消費税増税の影響よりも、同時に行った、公共事業費の4兆円削減や、特別減税の廃止2兆円、健康保険の負担増2兆円の影響のほうが大きかったという分析もある。しかしやはり消費税増税のインパクトは大きく、多くの国民が、消費税増税が不況を呼んだ。つまり人為的な不況だったと認識している。

禁止された「還元セール」

そうした過去があるために、今度は安倍政権も慎重だ。すでに5兆円規模の景気対策を決めているほか、日銀も、4月にも昨年に引き続き追加の金融緩和を実施すると見られている。とにかく、97年の轍を踏まないために準備を進めている。

しかし、そうはいっても、消費税増税になれば、夫婦と子供2人の家庭で年間10万円ほどの負担増となる。これで給料が上がらなければ、生活防衛のためにも家計支出を削減させることになる。

国民の生活防衛の動きは、当然、企業経営にも大きな影響を与えることになる。百貨店やチェーンストアなどの小売業は、毎年のように売り上げを落としている。最近、その傾向にようやく歯止めがかかってきているが、消費税増税によって再びマイナスのスパイラルに入る可能性があるだけに対策に余念がない。

小売業各社は値上げの影響を極力抑えるために戦略を練り直している。

いま、小売店店頭での価格表示は消費税込みの価格となっている。100円の価格のものの本体価格は96円で、4円が消費税分だ。しかし1984年に初めて消費税が導入された時は、本体価格表示だった。5%に税率が上がった時もそのままで、店頭では、本体価格のみ、あるいは本体価格と消費税込み価格の併記が一般的だった。

ところが2004年に法律によって総額表記が義務付けられるようになる。欧米などでもそれが一般的だったことに加え、消費者にとっては実際に支払う金額がわかりやすいためだ。さらには、総額表示にすることによって消費税分がいくらなのか見えにくくするという効果も狙っていた。

しかし、今度の消費税増税をきっかけに、特例で本体表示が認められるようになっている。いままでなら本体100円の商品は税込価格で105円と表示されていた。従来の表示であれば4月1日以降、108円としなければならないが、これからしばらくは、100円と表示することが可能だ。見た目の増税感を少しでも緩和しようというわけだ。

それでも、レジを通せば、5%が8%になった分だけ支払いは増える。しかも今回は、前回のような「消費税還元セール」というバーゲンを行うことが禁止されている。そこでいま、流通各社は考えているのが、商品価格を据え置くことで消費者の財布の紐を少しでも緩くしようという戦術だ。

ただし、次ページからのレポートに詳しいが、今回の増税にあたっては消費税転嫁対策特別措置法という法律を制定、大手流通業者による転嫁の拒否は禁止されている。中小企業庁も中小・零細企業いじめが起きないよう、目を光らせている。そうなると、ナショナルブランド(NB)については、価格据え置きはむずかしい。その代わりに、自らが製造にまで関与するプライベートブランド(PB)の価格を引き下げることで、税込価格を維持する方針だ(14ページからの各企業の対策を参照)。

苦渋の選択を迫られているのがパチンコ業界だ。これまでパチンコ店は、建前上、消費税を企業側が負担してきた。89年に導入された時も、97年に増税された時も、従来どおり1玉4円で貸し出し、換金率も変えていない。しかし今回はこれ以上の負担は難しいとみえて、プリペイドカードの価格を上げたり、貸し玉数を減らすなどの動きが出始めた。

パチンコ業界は、かつて30兆円市場と言われたものがいまでは20兆円にまで減っている。今度の増税が一層のパチンコ離れを招く可能性があるだけに、対応がむずかしそうだ。

1円刻みで運賃値上げ

首都圏の鉄道各社は初の1円刻みの料金体系を導入する。

時代の変化が消費税転嫁をやさしくした業界もある。その代表が首都圏の鉄道各社だ。券売機で切符を買うことを考えると、これまでは10円単位で料金設定をするしかなかった。ところが、首都圏ではスイカやパスモなどの電子マネーの利用率が80%までになっている。これによって「1円の呪縛」から解き放たれたため、4月1日以降、首都圏鉄道各社は1円刻み料金を導入する。

JR東日本の場合、首都圏初乗り料金はこれまで130円だったが、4月以降は133円となる。ただし切符を買う場合は140円となるため、割高になる。

ところが幹線や地方交通線の場合は状況が異なり、現在の初乗り140円が、スイカでは144円になるが、切符では140円と、切符のほうが割安だ。これは首都圏区間の切符料金の端数が切り上げなのに対し、幹線では四捨五入のため起こる現象だ。

もっとも、1円刻み料金が導入できるのは電子マネーが普及している首都圏だけで、関西では普及率が2割前後にとどまっているため、従来どおりの10円刻みとなっている。この場合は四捨五入によって切り上げか切り下げを決めることになる。

また、自販機業界もその対応に迫られている。4月1日以降、自販機の飲料の多くが一斉に10円値上げするため、表示の変更やソフトの見直しが始まっている。また、このままいけば来年中にも再度消費税が引き上げられるため、これをきっかけにタッチパネル方式の自販機へ切り替える動きが起きている。これならば、ソフトを変更するだけで価格変更が可能なためだ。消費税増税がプラスに働く業界のひとつだ。

自販機の飲料が値上げされるように、いまのところ、多くの企業が消費税が増えた分をそのまま価格に上乗せする方向で動いている。当然といえば当然だろう。
下請けメーカーにしても、元請けからの値下げ圧力は高まっているとはいうものの、前述のように中小企業庁の監視もあり、露骨な要求は影を潜めているように見える。

しかし問題は4月1日以降である。

「17年前もそうでした。増税前は価格転嫁にたいして元請けも鷹揚でした。ところが増税後、消費が落ち込むと、値下げ圧力が一気に高まった。結局、増税分以上の価格引き下げを飲まざるを得なかった。今度もその二の舞になるんじゃないかと戦々恐々です」(下請け会社経営者)

いくら中小企業庁が監視しているとはいえ、実際の景気が落ち込んだら、中小・零細企業の受ける圧力は半端なものではない。応じなければ切られるし、応じたら応じたで経営が悪化する。行くも戻るも地獄である。その証拠に、消費税増税のあった97年から、中小企業の倒産件数は激増している。

経済原則に照らし合わせれば、価格転嫁による値上げは当然だ。しかしそれもすべて景気動向次第である。場合によっては、一度値上げしたものを元に戻すケースも出てくる可能性がある。4月1日以降、日本が再びデフレへの道を進まないことを祈るのみだ。

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