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2014年4月号より

非課税ゆえに苦悩する負担増の保険会社

保険料は非課税

消費税が課税されない保険料。消費者にとっては税率引き上げによる影響はないものの、どうやら保険会社やその周辺ビジネスにとっては、“負担増”という形で影響が出てきそうだ。

そもそも消費者が保険会社に支払う保険料は、消費税を含む課税対象にはなっていない。そのため、現在支払っている保険料は、消費税が何%になろうとも、契約した保険料から増額されることはない。

しかし、保険会社はそうはいかない。2012年7月、日本損害保険協会は税制改正について要望書を提出している。

 (1)受取配当等の二重課税の排除
 (2)消費税等の仕入税額控除の見直し
 (3)損害保険業に係る法人事業税の現行課税方式の継続
 (4)確定拠出年金に係る税制上の措置
 (5)課税の公正化・簡素化、の大きく5点の要望だ。

ここでは(2)に注目してみる。消費税は導入以来、損害保険を含む金融サービスは非課税とされている。これは諸外国でも同様に非課税とされていることが多く、保険商品の性格上、課税されることはそぐわない。問題は、保険会社が支払う物件費、手数料等に消費税がかかるという点だ。

一般的に消費税は、事業者が預かった消費税額から、事業者が自ら支払った消費税額を差し引いて、納付税額が決定される。しかし保険会社の場合、保険料が非課税であるために、預かる消費税が存在しないことになる。一般の企業であれば、預かり消費税より支払った消費税の方が多ければ、還付金が受けられることになる。

本来なら保険会社は、還付を受けるべき存在なのだが、課税売上の割合が95%未満の保険会社が支払う消費税は、ほとんど仕入税額控除の対象にはならないため、消費税の税率が上がれば上がるほど、保険会社の負担が増えるという仕組みになってしまっている。

前述の要望書では、仕入税額控除を認めろと言っているわけだが、「結果として、損害保険料に転嫁せざるを得なくなります」との脅し文句まで添えられている。このまま税制の改正が進まなければ、消費者が支払う保険料の値上がりに直結する可能性があるということだ。

建前上は、
「負担が増えるのは事実だが、消費税率引き上げによって、保険料を値上げするようなことはない」(損保業界関係者)
とのことだが、消費税は8%にとどまらず、10%への引き上げも決まっている。今後、さらなる引き上げの可能性も排除できない。収益を圧迫するような状況になれば、保険料の値上げも十分あり得る話だ。

実際、昨年から、消費税引き上げから1年前倒す形で、損害保険会社各社の自動車保険の保険料が改定されている。

「自動車保険は、いわば不採算部門なので、従来の保険料ではやっていられないというスタンスだった。そもそも優良なドライバーは値上げする必要はなく、事故を起こす人というのは何度でも事故を起こす。事故を起こした人は保険料が上がるスキームをつくった。差別化した保険料を求めるというのは、企業としては当たり前の話。ただ、消費税の負担を考慮して値上げに踏み切った可能性はある。死亡事故よりも物損のほうが、消費税がかかる可能性は高い」(損保業界関係者)

保険業界が抱える問題はそれだけではない。保険会社が支払っている消費税のなかには、いわゆる代理店に支払う“手数料”について付加されるものが多く含まれている。消費税率引き上げは保険会社の負担増だけでなく、代理店側にも大きな影響を及ぼす可能性がある。

代理店にとっては死活問題

代理店手数料について語る勝本竜二・アイリックコーポレーションCEO。

来店型保険ショップの「保険クリニック」を全国で160店舗運営しているアイリックコーポレーションの勝本竜二CEOは、次のように語っている。

「消費税率が引き上げられると、代理店に対する手数料を、これまで5%だったものを8%分、お支払いしていただく必要があります。これは保険会社の経営を3%分圧迫することになります。

実は、いま議論が行われているのは、手数料を支払う時に、内税にするか、外税にするか、という判断なんです。保険会社によって、その対応がバラバラになっています」

仮に1万円の保険の手数料を10%とすると、外税なら10%+消費税で1050円が代理店に支払われることになるが、内税なら手数料のなかに消費税が含まれるため、手数料は実質953円に消費税が47円ということになる。これが3%分引き上げられると、外税では影響はないが、内税の場合は手数料926円+消費税74円となり、実質的に手数料の引き下げになってしまう。

「保険料のように継続性のある商品の場合、契約は長期にわたって結ぶものですから、消費税が上がったからといって、途中で勝手に手数料を変えられても、代理店のほうは困ってしまいます。たとえば10億円の売り上げがある代理店でしたら、3%違えば3000万円、20億円なら6000万円の影響が出てしまう。下手をすると利益が吹っ飛んでしまいます。そういう意味では、外税か内税かの意味は重い」

業界の慣例として、手数料は内税にするのが一般的だという。保険会社が10社あれば、外税は3社ほど。7社は内税で代理店と契約を結んでいるそうだ。

政府の方針としては、消費税引き上げによる便乗値上げは許されず、また下請けに対して値下げの強要も許されない。適正な価格転嫁が求められている。しかし保険会社と代理店の関係は、決して発注側と下請けの関係ではない。

「メーカーである保険会社から商品をこの手数料で卸しますと提示されたものについて、販売するかどうかを判断するのは私たちのほうです。手数料率があまりに悪かったり、消費税の極端な負担を強いられると、その商品を選ばないという選択肢もあるわけです。ですから、新規の契約については、売るか売らないのかの判断ができます。問題は、過去の契約にはそれができない。消費税の対応が悪いから、この保険会社を解約してくださいとは、お客様には言えません。お客様にとってよい商品を推奨する責任と義務が私たちにはあるわけですから、保険会社には実質手数料を守っていただきたい。そこを変えられると、代理店経営にかかわってきます」

明治安田生命は現物給付をにらむ。

現在、保険業界では新しい商品のあり方が議論されているという。

たとえば明治安田生命は、12年から介護保険施設の買収に乗り出し、介護事業に本格参入している。介護保険商品は朝日生命や日本生命なども拡充しているが、明治安田生命は金融庁の規制緩和をにらんで、保険の現物給付として、有料介護付き老人ホームへの入居を視野に入れているようだ。施設利用料は保険料から払われることになる。

このような現物給付の保険が増加していくと、当然、保険会社が支払う消費税の額も、相応に増えていくことになる。保険会社にしてみれば、収入自体は消費税のかからない保険料で変わりなく、税制が変わらないかぎり、保険料の値上げが現実的な選択肢になりそうだ。

(本誌・児玉智浩)

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