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特集記事

2013年12月号より

「地味な優良企業」は卒業し成長戦略で目指す売上高4兆円

90年代の失敗を反面教師に

「地味な優良企業」。三菱電機をひと言で表すならこの言葉しかないだろう。

日立、東芝と並ぶ総合電機(この言葉もすでに死語となりつつある)の一角を占めてきただけに、商品分野は幅広く、社会インフラやエレベーターなどから、白物家電、AV機器などまで手掛けている。しかし、こと民生品にかぎれば、シェアトップの製品はなく、エアコンの「霧ヶ峰」など、一部を除けば知名度もそれほど高くない。しかし、その地味さとは裏腹に、業績は手堅い。何しろリーマン・ショック後の2009年3月期と翌10年3月期において、ともに黒字を確保した、唯一の大手電機メーカーである。

本特集の日立の稿で、日立が他社に先駆けV字回復を果たせたのは、リーマン・ショック前に危機に陥っていたことが逆に功を奏した、とある。三菱についても同じことが言える。ただし、三菱の場合は、その危機が訪れたのは、はるか昔、1990年代のことだった。

80年代まで、世界の半導体の覇権は日本メーカーにあった。日立や東芝、NECは、世界最先端のDRAM(メモリ)を市場に投入、大きな利益をあげてきた。三菱もそれに負けじと、半導体事業に入れ込んだ。90年代半ばには、半導体に明るい北岡隆社長が誕生したことで、それがさらに加速、1000億円を超える設備投資を決断している。

結果からすればこれが大失敗。大型投資の直後から半導体市況は暴落。三菱の半導体部門は96年度、97年度の2年間で1500億円の赤字を計上、98年3月期の同社決算は1000億円を超える赤字に陥り、有利子負債も1兆7700億円にまで膨らんだ。

しかしこの事態が三菱が生まれ変わるきっかけとなった。大赤字を出した98年、北岡社長が辞任するが、これは三菱グループが結集して退任に追い込んだといっていいほどの政変劇だった。

成長戦略に乗せることが使命の山西健一郎・三菱電機社長

後継の谷口一郎、野間口有、下村節宏の3代の社長は、ひたすら堅実に、企業の立て直しに専念していく。北岡氏はメディア露出も多い「派手な」社長だった。しかし以降の社長は、ITバブル崩壊後の2001年度、02年度と2期にわたって最終赤字に陥ったこともあり、ほとんどメディアに出ることなく、不採算事業からの撤退など、内向きの仕事に精を出していく。

まず1999年にパソコン生産から撤退。2003年には、かつてあれほど熱を上げたDRAM事業をエルピーダメモリに売却、さらにはシステムLSI事業をルネサステクノロジーに移譲した。エルピーダもルネサスも、ここ数年、業績悪化で話題になった企業である。もし三菱がそのまま持ち続けていたら、その傷がさらに大きくなったことは容易に想像がつく。

08年には携帯電話事業から撤退。ここ数年、携帯から撤退するメーカーが相次いでいるが、皮切りは三菱だった。

こうしたリストラ策と、それによって浮いた経営資産を、ファクトリーオートメーションやエレベーターなど産業用機器や社会インフラなど、もともと強かった部門に振り分けた結果、三菱の業績は回復を果たしていく。リーマン・ショックで赤字転落しなかったのは前述のとおりだし、時価総額においても、一時、日立、東芝を抜いて総合電機トップの座についている(現在は日立に次いで2位)。

M&Aも視野に

その一方で三菱には、過去10年の売り上げがほとんど変わっていないというジレンマがある。かつてのように「売り上げはすべてを癒す」という時代ではないが、やはり企業規模が成長しないことには、社内のモチベーションも上がらない。

前3月期の業績は、売上高3兆5672億円、営業利益1521億円、最終利益695億円となっているが、売り上げ、利益ともに2年連続で減少している。07年3月期には、瞬間的に売上高4兆円を達成しているが、いまはそこから4000億円近く減ってしまっている。

現社長の山西健一郎氏は、10年に就任した際、13年度に売上高4兆円の目標を掲げている。その直近の売上高は3兆6651億円だから、毎年1000億円ずつ伸ばしていけば余裕で到達する、それほどハードルの高くない目標だった。ところが現実には、売上高はむしろ減少、どう考えても今年度での目標達成は不可能になった。

今年5月に経営戦略発表会で山西社長が明らかにしたところによると、今期の売上高は3兆8100億円にとどまる見通しだ。しかし山西社長はその発表の席で、売上高4兆円は14年度で達成すると明言した。当初の計画よりも1年遅れになるが、それでも山西社長は成長路線に意欲を見せる。というより、過去10年間以上にわたって堅実路線を歩んできた三菱を、再び成長路線に乗せることこそ自らの仕事だと考えているフシがある。

そのための方策が、「強い事業をグローバルでより強く」(山西社長)というものだ。

三菱の「強い事業」とは、(1)電力システム(2)交通システム(3)ビルシステム(4)FAシステム(5)自動車機器(6)パワーデバイス(7)⑦空調システム(8)宇宙システム――の8分野。これをそれぞれ世界市場で大きく伸ばすことによって、成長エンジンにする考えだ。

それに伴い海外売上高比率も、現在の35%から40%へと伸ばしていく方針だが、中でも新興国での展開が急ピッチで進んでいる。例えばトルコには、昨年12月に現地法人を設立、本格的参入を始める準備をしたと思えば、今年3月には、FA機器販売やシステムインテグレーションを手がけるGTSという会社を買収した。インドでは、昨年8月にエレベーター事業の新会社を設立したほか、今年3月にはFA開発センターの業務開始に漕ぎつけた。インドネシアには昨年11月に総合販売会社を設立し、空調システムや白物家電、FA機器の販売を本格化させている。

メキシコでは今年4月、FAセンターを開設したほか、来年には自動車機器製造販売会社を立ち上げ、北米向けの製造・販売を開始する予定だ。さらにブラジルでは、昨年7月に新会社を立ち上げ、NC装置の販売サービスを開始する一方で、FA機器や電力システムのアフターサービスを行う総合販売会社を設立した。このような動きが世界各地で始まっている。

また三菱が国内シェア8割を誇る重量子線治療装置(がん治療装置)の輸出にも乗り出す。経営戦略発表会で山西社長が明かしたところによると、すでにフランス、中国、シンガポール、サウジアラビア、ロシアから購入の打診があったという。同装置はそれほど台数が出るものではないが、1台100億円前後と高額なうえ、周辺装置を含めると200億円の取引となる。また、この装置とは違うタイプの陽子線治療装置などのがん治療装置の輸出も目指していく。

もっとも、既存事業の伸長だけでは、14年度1年間で、売り上げを2000億円以上伸ばすことは容易ではない。そこで可能性が指摘されているのはM&Aによる事業規模の拡大である。

三菱は10年にドイツの半導体メーカーを買収している。これが20年ぶりのM&Aだった。しかし買収金額は数十億円にすぎないから、M&Aによって4兆円を目指すのであれば、これよりはるかに大型の企業買収を目指さなければならない。山西社長が一部報道機関に語ったところによると、複数の案件が頭の中にあるという。これが具体化すれば、待望の4兆円が現実のものとなる。三菱電機の成長戦略が軌道にのるかどうかは、M&Aの成否にかかっている。

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