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特集記事

2013年12月号より

「重電の雄」は今は昔  今や「社会インフラ」が代名詞

話題は社会インフラばかり

日立製作所はこの夏、東京・京橋に新しいショールーム「日立コラボレーションスクエア京橋」をオープンした。この施設は、「エネルギー」「交通」「水環境」を中心とした日立の社会インフラ事業への取り組みや技術を紹介するものだ。

ショールームの中には、日立の社会インフラ事業の軌跡を紹介するコーナーがあるほか、大型スクリーンを活用して、社会インフラ事業をインタラクティブに紹介するコーナーがあるなど、ここに来れば、日立の社会インフラの概要がわかるようになっている。

このショールームを開設したことからもわかるように、日立にとって社会インフラ事業は、屋台骨そのものといっていいほど重要な事業となっている。

テレビなどを見ると、いまでも日立は人気アイドルグループの嵐を起用した白物家電のコマーシャルが放映されている。しかし日立の白物家電の販売額は2500億円程度。日立全売上高9兆円に占める比率は3%にも満たない。ここに薄型テレビなどの民生品を加えても、5000億円には届かない。つまり日立の膨大な製品のうち、直接、消費者に届くのは5%程度しかないということになる。

それに対して、発電、鉄道、ITシステムなど、広義の社会インフラ事業は5割を優に超す。この特集の中でも取り上げているが、日立以外の電機メーカーも、最近では社会インフラへの注力を口にする。しかし、この路線を真っ先に表明したのは日立であり、その分だけ、他社を大きくリードしている。

日立が新聞などで大きく報じられるのも、ほとんど社会インフラ関連ばかりである。

たとえば今年4月に『GE日立連合、米で原発採用内定 三菱重を逆転』という見出しが日経新聞を飾った。米バージニア州の原子力発電所に新設する原子炉として、米GEと日立の合弁会社の沸騰水型軽水炉の採用が決まった。これは、内定していた三菱重工の加圧水型軽水炉を逆転したものという記事だ。

あるいは、2011年には日立と三菱が企業統合を行うという記事が日経新聞1面を飾った。これは企業規模で劣る三菱側の反発が強く、実現しなかったが、今年4月には両社の火力発電所のインフラ事業を統合するというパーシャル連合へと結びついた。

以上2つとも社会インフラに関する動きである。

日立といえば、昔から発電所などで高いシェアを維持してきた会社である。また電電ファミリーとして、日本の通信業界のインフラを支えてきた企業でもある。その意味で、日立が社会インフラを事業の主軸とするのは、保守本流にすぎないと見ることもできる。

しかし、わずか10年前の日立は、自分たちの本流が何なのかわからず右往左往するばかりだった。バブル崩壊後は業績も長期低落し、1999年3月期には、創業以来初の赤字という屈辱を味わう。

「日立の落日」といったタイトルの記事が散見されたほか、「大砲巨艦主義の失敗」「巨体すぎて絶滅した恐竜」等、日立を形容する言葉はかんばしくないものばかりだった。

2000年の頃の日立は、絶滅を避けるために自ら変わろうと必死にもがいていた。このままではダメになる、というのは日立の全社員が共有する思いだった。ところが、もがけばもがくほど、身動きがとれなくなるというのもよくある話で、日立の業績は一向に改善しなかった。

つまりは変わろうとしている方向が間違っていたのだ。

当時の日立が志向していたのは、「重電の雄」からの脱却だった。重電という言葉は、日立の重くて動けない体質を象徴しているかのようだった。そこで日立は、IT分野に大きく舵を切った。社長も非重電分野の人材が続く一方で、IBMからHDD事業を買収するなど、重電の日立ではなくITの日立になろうと考えたのだ。

しかし、これは日立最大の強みをないがしろにするものだった。結果として、この改革は失敗。日立は2009年3月期に最終赤字7873億円という日本製造業史上最悪の赤字を計上することになった。しかも、赤字の原因となっていたのはIT分野。この分野は価格下落のスピードが速く、少し油断すると巨額の赤字を計上してしまう。日立もその陥穽に墜ちていた。

そこで再び日立は大きく舵を切る。就任からわずか3年しかたっていないコンピュータ部門出身社長を更迭。すでに社外に去っていた重電出身者を呼び戻し社長に据えたのだ。

こうして09年に就任した川村隆社長のもと、日立は自らを社会インフラの会社と位置づけ、本流に回帰していく。ただし、過去の重電偏重時代は「工場プロフィットセンター制」と言われる、工場単位で利益を生み出す体制にあったが、社会インフラの場合、各事業部の強みを持ち寄り、そこにITを絡めることで、システムソリューションを提供することを目指した。強みを最大限に活かしつつ、そこに新しい付加価値をつけていった。

他社に先駆けV字回復

リリーフ登板だった川村氏は、わずか1年で社長の座を中西宏明氏に譲るが、中西氏はさらにその路線を進めていった。その結果日立は、8000億円弱の赤字を出した2年後の11年3月期、2388億円の最終利益を出してV字回復を遂げる。当時の電機業界は、まだリーマン・ショックの悪夢から抜け出せておらず、大半の企業が赤字を計上していた。その中で日立だけがいち早く、立ち直ったのだ。

いち早くリーマン・ショック禍から立ち直った日立の中西宏明社長。

日立の場合、幸いだったのは、リーマン・ショックが起こる前から問題が表面化したことで、翌年の大赤字をきっかけにすばやく舵を切ることができたことだ。

中西社長は昨年4月、組織を5つの領域に再編した(インフラシステム、電力システム、情報・通信システム、建設・機械システム、高機能材料システムの5グループ)。

「ITプラス社会インフラの融合、スマートシティ事業のグローバル展開、ビッグデータを用いた蓄積、検索・分析予測するニーズへの対応、これらを重点的にやっていく」(中西社長)狙いがこめられている。

前3月期決算は福島第一原発事故の影響で国内原子力事業が不振に陥ったこともあり、売上高は前々期から6000億円以上減って9兆410億円、営業段階では増益を確保したものの(97億円プラスの4220億円)、経常段階(2132億円マイナスの3445億円)、最終段階(1718億円マイナスの1753億円)では減益となった。

今年第1四半期も、国内原子力に加え中国など新興国での需要が落ち込んでいることもあって、減益が続いている。しかしそれでも、当初の計画よりは上振れしていると言い、中間決算での営業利益も、当初見込みの1300億円から1450億円に上積みした。また今後はアベノミクス効果も期待できる。

ただ、日立の営業利益率は4.7%(前3月期)にすぎない。これは国内電機メーカーとしては相当高い水準ではあるものの、GEやドイツのシーメンスの10%前後などと比べると、まだまだ見劣りする。

今年、発表した中期経営計画によると、15年度の売上高目標は10兆円、営業利益率は7%以上を目指す。海外売上高比率も現状の40%から50%に伸ばす計画だ。

この計画どおりに構造改革が進んだ時、日立はグローバルカンパニーとしての位置を確立することになる。

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