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特集記事

2013年12月号より

個人向けビジネスから撤退  社会インフラに活路を見出す

ビッグローブを売却

本誌発売日(2013年10月22日)のわずか10日ほど前、「NECがビッグローブを売却」というニュースが日本中を駆け巡った。

ビッグローブはNECが株式の78%を握る国内有数のインターネットサービスプロバイダ(ISP)。その歴史は古く、1996年にNECのパソコン通信サービスPC-VANなどが統合して誕生した。いわば日本のISPの草分けで、会員数は300万人以上を誇る。

そのビッグローブをなぜNECが手放すかというと、ビッグローブ単体では大きな成長が見込めないことと、売却によって得た資金を、社会インフラ分野などに集中投資するためだという。

ビッグローブ単体では黒字を維持していること、ISPの中でも富士通傘下のニフティと並んで高い知名度を誇っていることなどを考えると、この売却はもったいないようにも思えるが、ここ数年、NECが行ってきた「個人向けビジネスから社会インフラビジネスへ」という動きを考えると、ある意味で自然な流れということができる。

下の写真は、2011年1月のもの。右はNECの遠藤信博社長。左は中国レノボのヤン・ユアンチンCEOだ。この日、NECとレノボは日本国内のパソコン事業で提携、合弁会社を設立すると発表した。設立された新会社、NECレノボ・ジャパングループの出資比率は、NEC49%に対してレノボ51%。このことからもわかるように主導権はレノボにある。

NECといえば、1990年代までは日本パソコン界の巨人だった。中でもPC98シリーズは、累計で2000万台を売る史上空前のヒットとなり、NECのパソコン市場におけるシェアは、コンスタントに6割を超えていた。

マイクロソフトのOS、ウィンドウズの誕生でその天下は終わりを告げるのだが、その後も長らく、NECはシェア1位の座を守り続ける。日本のユーザーにとって、パソコンとNECは同義だった。

そのNECの顔ともいうべきパソコンで、レノボに主導権を渡したことは衝撃だった。NECの遠藤社長はこの提携の狙いについて、(1)製品力の強化(2)スケールメリットによるコスト競争力の強化(3)NECのビジネスパソコンの海外展開拡大――をあげている。

国内のパソコン市場は人口減少もあり大きな伸びは期待できない。しかも若い世代の中には、スマホがあればパソコンは要らないという人も増えている。だとしたら、個人向けには見切りをつけ、ビジネス用途で付加価値の高いパソコンをつくるほうが、NECとしてのメリットは大きいと判断したのだ。

さらにNECは今年の夏に、個人向けスマホからの撤退も発表している。NECはかつて、携帯端末市場シェアで、断トツの実績を誇っていた。日本におけるスタンダードになった2つ折りケータイも、最初に世に送り出したのはNECだった。

ところがスマホの出現がすべてを変えた。

iPhoneが日本に登場したのは2007年。しかしNECを含め日本のメーカーは静観の構えを崩さなかった。当時はまだ、その後のスマホ革命を、どこも予見できなかった。そのため、開発でも後手を踏んだ結果、iPhoneとサムスンにスマホ市場を牛耳られることになった。日本メーカーも遅ればせながら参入したが、今ではソニーを除けば存在感はないに等しい。NECもその中の1社である。

決定的だったのは、ドコモがこの夏に行った「ツートップ戦略」だ。ソニーの「エクスぺリア」とサムスンの「ギャラクシー」のみを格安で販売するこの戦略は、他のメーカーを直撃。NECのスマホもまったくと言っていいほど売れなくなった。

苦境から脱するために、NECはスマホ事業でもレノボとの提携を模索した。しかし結局条件が合わずに断念。残された道はスマホからの撤退だった。

このように撤退の歴史を羅列していくと、NECは縮小均衡に陥っているかのように見える。事実、NECの売上高は、2002年3月期には5兆円を超えていたが、前3月期には3兆716億円にまで落ち込んでいる。約10年で6割の規模にまで縮んでしまったのだ。

そして今度のスマホ撤退、ビッグローブ売却である。縮小均衡路線はまだまだ続く、と思われてもしかたがない。

今後100年間の礎

ただ、過去10年の戦線縮小と、最近の撤退には大きな違いがある。過去が出血を抑えるためのやむなき縮小=リストラだったのに対し、最近の縮小は、経営資源を重点投資するための戦略的構造改革と見ることができるからだ。

レノボと提携するなど事業構造の見直しを進めてきた。右が遠藤信博社長、左はレノボのヤン・ユアンチン代表。

今年4月、中期経営計画を策定したが、その冒頭につぎのような一文がある。

《人が豊かに生きるための安全・安心・効率的・公平な社会の実現に向け、ICTを活用した高度な社会インフラを提供する「社会ソリューション事業」に注力し、社会の様々な課題解決に貢献するとともに、中長期的な事業規模の拡大と収益性の向上を目指します》

そのうえで遠藤信博社長は次のように語った。

「社会ソリューション事業を推進するため、常に市場と顧客を意識したスピード感のある組織体制に再編した」

この再編は4月1日付で行われており、この時以降、NECは社会インフラ提供会社へと、経営の舵を大きく切った。また借り入れによって1300億円を調達、そのうち1000億円を社会ソリューション事業へ投じるという。当然、それ以外の事業のプライオリティは低くならざるを得ない。

個人向けスマホの撤退や、ビッグローブの売却も、この延長線上にある。個人向け事業で将来性が見えないのであれば、そこにこだわる理由は何もない。その経営資源を、社会インフラに振り分けたほうが企業の目的とも合致するし成功の可能性も大きい、というわけだ。

もともとNECは、電電ファミリーの1社として、日本の通信を支えてきた。つまり、そのルーツは社会インフラ提供会社である。中興の祖、小林宏治氏が唱えたC&Cも、コンピュータと通信を融合して、世界中の人たちがつながる社会インフラのことを意味していた。

その意味からすれば、いまのNECは、先祖返りをしようとしていることになる。

バブル経済以降、身についてしまった贅肉を、過去10年間にわたって削ぎ落し、昔の姿に戻り、再び成長路線に転じようとしているかのように見える。

ただし、中期経営計画の目標は、前期3兆716億円の売り上げを、15年度で3兆2000億円、1146億円の営業利益を1500億円という、極めて歩みのスピードがのろいものになっている。これは成長よりも体質強化を優先させた結果である。

「今後100年間の礎を築く」と遠藤社長。次の飛躍のための3年が始まった。

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