ビジネス誌「月刊BOSS」。記事やインタビューなど厳選してお届けします! 運営会社

特集記事

2013年12月号より

B2CからB2Bへの変身も幸之助流「お役立ち」は変わらない

水道哲学にはこだわらない

パナソニックがプラズマディスプレイから完全撤退する。すでに昨年にはプラズマテレビからの撤退を表明、神戸に2つあった工場のうち最新鋭の1つを閉鎖した。残る1つの工場で産業用ディスプレイなどへの活用を模索したが、それもうまくいかず、来年3月までにここも工場を閉鎖し、売却すると見られている。

このニュースが流れた時、多くのメディアが、「パナソニックのプラズマテレビが液晶テレビとの戦いに完全敗北した」といった論調で報じていた。確かにそれはそのとおりなのだが、プラズマ対液晶の戦いという意味では、7年ほど前にとっくに勝負はついていた。

2000年代初めまでは、大型テレビはプラズマ、中小型は液晶という棲み分けができていたが、技術進化により液晶が欠点をどんどん克服。40インチ以上の大型画面でも十分プラズマと勝負できるようになった瞬間から、液晶に凱歌があがるのは見えていた。パナソニックはそれまで注ぎ込んできた経営資源が無駄になってしまうことを恐れて、その現実から目を背けた結果、傷を大きくしてしまった。

ただ、この失敗を教訓に、パナソニックは新たな道を歩み始めた。

ひとつは、垂直統合モデルからの訣別だ。

「これまで我々は自分たちで部品をつくるなど、内部の活動に多くの時間とお金を使ってきました。でも、テレビを買うお客さんにとってみれば、中の部品をどこが作っていようが関係ない。そういう目で見ると、労力のかけ方、コストのかけ方がお客さんにわかりにくいというのがありました。そのやり方を変える必要があると考えています」(津賀一宏・パナソニック社長)

そしてもうひとつが、B2Cビジネスにこだわらない姿勢である。

パナソニックの創業者・松下幸之助の水道哲学はあまりに有名だ。家電製品を大量生産することによって、水道のように安く、誰にでも使ってもらえるようにする、というものだが、津賀社長は、それが普遍の考えではないという。

ついにプラズマディスプレイからの完全撤退を決めた津賀一宏・パナソニック社長。

「創業者の普遍の考えというのは、お客さんのお役立ちを考えるということです。求められることは時代時代によって変わっていきます」というのである。

日本が貧しかった時代は、家電製品を隅々まで行き渡らせ、少しでも生活を豊かにすることが社会の役に立つということだった。ところが、今や日本は十分に豊かになった。となると、お役立ちの意味も違ってくる。しかも物が足りない時代は、大量に作ってシェアを取れば、利益はあとからついてきた。しかし今ではシェアを目指せば目指すほど赤字になりかねない時代である。

そこで津賀社長の打ち出したのが、「家電製品への依存脱却」だった。毎年1月に、米ラスベガスで世界最大のエレクロトニクス見本市「CES」が開かれる。今年のCESでは津賀社長が基調講演を行ったが、その冒頭に語ったのが、「みなさんが知っているパナソニックとは異なるパナソニック」の姿であり、B2Cではなく、B2Bビジネスにかける思いだった。

3月末にパナソニックは2015年度を最終年度とする中期経営計画を発表したが、その内容のベースには、CESでの基調講演があった。

経営計画でもB2Bビジネスを拡大していくことが盛り込まれ、中でも自動車産業向けビジネスと住宅用ビジネスを、それぞれ18年度には2兆円規模にまで拡大すると宣言した。

自動車産業向けビジネスも住宅用ビジネスも、ともに現在の実力は1兆円前後。これをM&Aという手段を使いながら、5年間で倍増するというのである。

3月にこの話を聞いた人の多くが、大風呂敷を広げたと思ったものだが、ここに来て可能性を感じさせる事例も出てきている。

米でEVが大ヒット

アメリカにテスラモーターズという、シリコンバレーに拠点を置く電気自動車(EV)メーカーがある。これまではスポーツカータイプのEVを生産していたこともあり、販売台数も限られていた。ところが昨年発売した4ドアセダン「タイプS」が大ヒット。今では月間1500台以上を販売するまでになった。

大人7人が乗れて、家庭用電源(200V)2時間でフル充電ができ、走行距離は500キロ、しかも価格が600万円前後なのだから、売れないほうがどうかしている。タイプSのヒットによって、テスラはついに黒字化を果たした。来年には日本でもタイプSの発売に踏み切る予定で、さらにその先には、クロスオーバータイプの「タイプX」の発売も控えている。

また日産自動車のEV「リーフ」も、日本国内ではいまだ販売が伸び悩んでいるが、アメリカでは今年になってから火が付き、今は月販2000台ほどとなっている。今や西海岸を中心に(電気料金が安いことに加え、気温が氷点下に下がることがないためバッテリーが劣化しにくい)、完全に普及期に入っている。

このムーブメントは、やがて世界中に伝播するだろうし、日本でも遅かれ早かれ、数年の違いでEVブームが起きることだろう。テスラの大ヒットは、世の中の流れを大きく変えようとしている。

そのテスラになくてはならないバッテリーは、そのすべてが、パナソニック製リチウム・イオン電池である(リーフは日産とNECの合弁会社製リチウム・イオン電池)。EV用リチウム・イオン電池は、容量が大きいだけに発熱する可能性があり、高水準な技術が求められるため、そう簡単に参入できる分野ではない。

それゆえこの市場を最初に抑えておけば、EVが普及すればするほど、パナソニック製電池の販売先が増えることにつながる。

加えて、EVそのものが走るコンピュータのようなもの。テスラの本社がシリコンバレーにあるのもそれが理由で、そうであるなら、普及すればするほど、電機メーカーが活躍する場面は増えてくる。パナソニックだけではないが、大きな市場がそこには広がっている。

住宅部門もそうだ。

この9月、神奈川県藤沢市の「Fujisawa サスティナブル・スマートシティ(以下FSST)」において、住宅建設が始まった。来年4月までに100戸の住宅が誕生する見込みで、まもなく人の住む街として動き始める。

FSSTは、もともとパナソニックの工場があった跡地に、住宅1000戸(集合住宅400戸、戸建600戸)、商業施設、健康・福祉・教育施設を建てようという再開発プロジェクトだ。ただし通常の再開発とは違い、徹底してエコにこだわっている。住宅からのCO2発生はゼロに抑え、街全体でも1990年比でCO2排出量70%削減、生活用水30%削減、再生エネルギー率30%以上の目標を掲げている。ここにパナソニックの持つ、HEMS(家庭内エネルギー管理システム)の技術のすべてを注ぎ込み、今後、日本全国で建設が進むと予想されるスマートタウンのモデルケースにしようと考えている。

これも、いままでパナソニックが目指してきたものが具現化した例である。

B2CからB2Bへと、パナソニックは大きく舵を切った。家電王国の復活はもしかするとないかもしれないが、しかし生活の様々な場で、パナソニックはユーザーとかかわり続けることになる。それが津賀社長の考える、お役立ちの形ということなのだろう。

経営ノート | 社長・経営者・起業家の経営課題解決メディア

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

 

0円(無料)でビジネスマッチングができる!|WizBiz

WizBizセミナー/イベント情報

経営者占い