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2013年12月号より

テレビ用液晶で業績悪化も成長エンジンはやっぱり液晶

ドコモのスリートップ

NTTドコモは10月に入り、今年の携帯秋冬モデルを発表したが、春夏商戦で見せた「ツートップ戦略」は終了、それに代わってソニー、富士通、シャープの3機種のスマホの値引きを他機より優遇するとした。事実上のスリートップである。

この決定をどこよりも喜んでいたのがシャープだろう。シャープの携帯端末は、春夏商戦でツートップに選ばれなかったため、販売台数を落としていた。9月からはドコモもiPhoneを売り出したため、シャープのスマホもそのあおりを食う可能性は高いが、それでもソニーのエクスペリアと同じ土俵に立てたことで、今後の展望が明るくなった。

シャープにとって、スマホ販売が拡大するのは、他のメーカーとは異なる意味を持つ。言うまでもなくシャープは、稀有となった、液晶までも自社生産する垂直統合モデルを持つ会社だからだ。

昨年、シャープが経営危機に陥り、台湾の鴻海集団との間で出資を巡るやり取りがあったことは記憶に新しい。シャープの株価が下落したことで、予定していた増資を引き受けてもらえず、資金調達に苦しみ、一時は倒産必至とまで語られたものだった。

経営危機に陥った理由は、リーマン・ショック後に明らかになったテレビ事業の不振である。価格競争で韓国勢に歯が立たず、シャープの液晶テレビは販売台数を落としていく。それが液晶パネル価格の下落を招き、ひいては増強を重ねてきた液晶工場の稼働率の低下につながった。業績もつるべ落としに悪化していった。

つまりシャープの場合、最終商品の売り上げの増減が液晶販売の増減に直結するため、悪い時はダブルで効いてくる。その悪い面が出た結果の経営危機だった。

前3月決算では、最終赤字が5453億円。その前年にも3760億円の赤字だったから、2年で9000億円を超える赤字を垂れ流したことになる。おかげで自己資本比率は6%にまで低下したのだから、存続を危ぶまれるのも当然だった。

シャープが液晶テレビしか生産しないと決めたのは1990年末のこと。当時はまだブラウン管テレビ全盛で、画質も液晶を上回っていた。それでもシャープが液晶テレビへと大きく舵を切ったのは、液晶メーカーとして生きていくことを決めたからだ。以前にもシャープは、ビデオカメラ「液晶ビューカム」で、液晶の新しい使い方を提案し、以後のビデオには、ほぼ100%液晶が組み込まれていくのだが、液晶テレビもそれと同じで、液晶の薄さ、省電力を自らのテレビで広めていくことがシャープの戦略だった。

この作戦はまんまと成功。それまでのシャープは三洋電機とほぼ同規模の大阪のローカル電機メーカーとしか認識されてこなかったが、液晶テレビの成功によって、国内ではパナソニック、ソニーをもしのぐテレビメーカーへと成長を遂げた。「世界の亀山モデル」のステッカーが貼られたシャープのテレビは、ライバルメーカーより高くても売れるという神話も生みだした。

しかしその神話はもう通用しない。テレビに代わる新たなビジネスモデルを構築しなければならない。ただ、そのベースになるのは、やはり液晶だ。

シャープの液晶工場の稼働率は、一部を鴻海グループに売却したことに加え、円安によって競争力を増したことで、国内外の携帯メーカー向けに販売を伸ばしている。かつては3割ほどしかなかった稼働率が、最近では7割を超えたともいう。

第1四半期で、シャープは営業利益30億円と黒字転換を果たした。四半期ベースでの黒字の確保はこれで3四半期連続。続く第2四半期もこの黒字は続いており、9月には、中間決算の営業利益が従来予想の倍の300億円になると上方修正。その最大の要因は、液晶部門の赤字が大幅に縮小したことだ。第1四半期でも液晶部門は95億円の営業赤字だったが、それでも11年前と比べると539億円も改善されている。

しかしいまのままでは、シャープは安心できない。再び市況が悪化したり、万が一、再び円高に振れることがあれば、以前と同じ状況に戻ってしまう。

IGZOに託した未来

それを防ぐ切り札としてシャープが期待しているのが、「IGZO」という省電力、高精細な液晶だ。スマホの最大の弱点は、すぐに電池がなくなることだが、IGZO搭載スマホなら、従来の約3倍の時間、使い続けることができる。

一時の経営危機を乗り越え、反撃に転じるシャープの高橋興三社長。

スマホはいまでもiPhoneとアンドロイド勢との間で熾烈な覇権争いが続いているが、機能面に限ってみれば、そろそろそれも限界に近づきつつある。それぞれの機能が似てくれば似てくるほど、最後は使いやすさといった、マシンとしての機能が重視されるようになる。となると、これからIGZO搭載スマホの出番である。

ところが現段階では、IGZOパネルは従来型液晶パネルより高いため、ほとんど外販できていない。そこで必要になってくるのが、かつての液晶テレビと同様に、シャープが自らの商品を通じて、IGZOの魅力をユーザーに伝えることだ。ただし高精細であることは店頭で確かめることも可能だが、電池の持ちについては、実際に使ってみなければわからない。

だからこそ、冒頭に記した、ドコモのスリートップに選ばれたことは大きな意味を持つ。auやソフトバンクに追い上げられているとはいえ、いまだドコモは45%のシェアを持つ携帯キャリアの巨人である。その「推奨銘柄」に入るか入らないかは販売実績に大きく響く。

現にシャープ自身、夏のツートップに入れなかったことで販売台数を落としたし、パナソニックとNECは、今度のスリートップに入れないことがわかったこともあり、スマホからの撤退を決意した。逆にソニーはツートップに入ったことで独り勝ちと言っていいほど販売台数を伸ばし、スリートップに留まることにも成功した。

シャープはスリートップに入ったことで、拡販のチャンスを得た。あとは電池の持ちの良さなどが、ユーザーレビューなどで広がっていけば、IGZOに対する興味と関心は一段と大きくなるし、それによって他社も搭載に踏み切る可能性が高まる。シャープとしてもここはぜひとも、IGZO搭載スマホの販売台数を伸ばし、反攻の狼煙としたいところである。

9月の取締役会で、約1500億円の第三者割当増資を決議した。これによって自己資本比率は6%から10%へと上昇。ここで得た資金を中小画面液晶の高精細化のための設備投資に充てるとしているという。

このことからもわかるように、シャープは自分たちの未来を、IGZOを中心とした高精細液晶に託している。

幸い、液晶以外の事業も、最悪期を脱した。テレビ事業も赤字は続いているが、販売台数を追わずに構造改革を進めたことで、収益は大きく改善した。テレビと携帯電話を合わせたデジタル情報家電部門は、昨年の第1四半期は202億円の営業赤字だったのに対し、今期の第1四半期では13億円の赤字まで改善、通期では50億円の黒字を見込む。太陽電池事業も、前年は69億円の赤字だったものが今期は68億円の黒字へと転換を果たした。またエアコンや空気清浄器を中心に、白物家電も堅調だった。

あとは成長エンジンとして、液晶が再び輝きを取り戻せるかどうかにかかっている。

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