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特集記事

2014年3月号より

私が事業の賞味期限に抗えなかった理由
國重惇史 楽天副社長

安田佳生 元ワイキューブ社長

やすだ・よしお 1965年大阪府堺市生まれ。18歳で渡米、オレゴン州立大学卒業後、88年リクルート入社。90年ワイキューブを設立、代表取締役に就任。採用コンサルティング事業を展開するも、2011年3月に経営破綻。現在は“境目研究家”として執筆活動等を行っている。著書は『千円札は拾うな。』(06年)、『採用の超プロが教える できる人できない人』(03年、いずれもサンマーク出版)『私、社長ではなくなりました。』(12年、プレジデント社)、『疑問論 なぜ今日も会社に向かってしまうのか?』(13年、ぼくら社)等多数。

2011年3月30日、経営難を理由に民事再生法の適用を申請し、経営破綻したワイキューブ。中小企業向けの新卒採用コンサルティング企業として名を馳せたが、20年で企業活動に終止符を打った。元ワイキューブ社長の安田佳生氏は発行部数30万部を突破した『千円札は拾うな』など、ベストセラー作家でもある。その安田氏に企業の終わりについて語ってもらった。

ビジネスモデルの終焉

企業が永続することが正しい、というのが一般的な人の意見でしょう。でも私はそういうふうには思っていません。事業には必ず賞味期限があるからです。

以前、不二家でコスト削減のために賞味期限切れの牛乳を使うという不祥事が起きました。かつて不二家には、日本全国に美味しい洋菓子を届けるというミッションがあったからこそ規模が拡大できたと思いますが、いまや日本全国いたるところに洋菓子店があるなかで、その役割は終えてしまっていたわけです。無理に存続しようと思うとコストを下げて利益を出さなくてはならなくなるので、前述のような不祥事が生まれてくるわけです。企業を存続させようと思えば、新たな別の事業、別のミッションに転換していかなくてはいけません。

富士フイルムのように、うまく事業を転換していくという例はありますが、本来、会社というのは一つの事業を行うために人を集めています。事業がまったく変わってしまうのであれば、人も変わらなくてはいけない。大手企業がものすごいリストラをやっているでしょう。これはやらざるを得ないんです。いままでと仕事の中身が違うわけですからね。

もし私に社員を総入れ替えする覚悟があれば、ワイキューブを潰さずに続けられたと思います。でも、そんなことをする意味がわからなかったし、社員を含めて会社だと思っていましたから、できなかった。そこを割り切れる人でないと、ビジネスモデルを変えて会社を継続させていくのは難しいのではないでしょうか。

私が社長として20年間経営した間に、何度も潰れそうになりました。表立って発表しているのは2、3回ですが、潰れそうになかった時期のほうが短い。

私たちは知名度を上げるのがすごく上手かった。社内にビリヤード場をつくるなど、メディアに取り上げられるような仕掛けをしていました。これにより、2000年代前半は売り上げも伸び、新卒採用の需要もあって、新入社員でも、いきなり新規で1500万円くらいの仕事を取ってくることが普通に行われていたのです。この時、私はとにかく社員の給料を社長並みに高くしたいと思っていた。売れていることもあって、商品をさらによくしていくとか、改善していくほうに力を入れず、社員の平均給与を750万円まで上げましたが、そこで力尽きた。

直接的には、リーマン・ショックがキッカケでした。売り上げが2年で3分の1にまで落ちたんです。もうどうしようもない。でも実は、その前から緩やかに売り上げは落ちていたのです。すでに新卒採用のコンサルで成長できる時代ではなかった。仮にリーマン・ショックがなかったとしても、存続できていたのかはわかりません。最終的には、自分のつくった新卒採用のコンサルティングというビジネスモデルが終わりを迎えていたのです。

いまや小さい会社でも新卒採用を行うようになり、採用には社長が前面に出るといったノウハウも、当たり前のことになってきました。私たちが声をかけたことによって、5000社くらいは新卒採用を行ってくれたと思います。ワイキューブという会社の当初のミッションは終わっていた。

経営破綻の前、ビジネスモデルの限界を感じていた私たちは、ワイキューブの強みは採用だけでなく、中小企業に新しい価値を提供することだと、企業のブランディングにビジネスを切り替えようとしたわけですが、採用をコンサルするために集めた人材と、ブランディングをコンサルするために集めた人材はやはり違う。彼らは、採用はできたけども、ブランディングはできなかった。

新卒で優秀な人材を採ることについて、会社のビジネスモデルまで踏み込んで、組織をどう変えていくのか、ビジネスモデルをどう変化させていくのか、そのためにどういう人材を採るのか、というコンサルをしていれば、ワイキューブは潰れなかったと思います。残念ながら、我々はそのレベルのコンサルではなかったということですね。いずれ破綻する運命だったのでしょう。

余談ですが、いまだからこそ、正直にネタばらしをすると、当時、ワイキューブの社員は優秀な人が多いと、よく中小企業の社長に言われました。実は、中小企業の社長から見て、優秀そうに見えるヤツを集めていたんです。

目の前にワイキューブの1年目の社員が来る。社長は自分のところの社員と比べて、なぜコイツは社会に出て1、2年目でこんなに立派なんだろうと思う。ウチにも欲しいということになったら、「新卒採用をやるしかないですよ」ともっていける。いらないと思っていても、潜在的に欲しかったものが目の前に現れると、やはり欲しいと気づくわけです。中小企業の社長から見て、コイツはできそうだと思えるタイプはだいたい想像がつくでしょう。

中小企業ほど現状に固執

ワイキューブは終わりを迎えましたが、採用自体がなくなるわけではなく、新卒採用をやりたいという中小企業のニーズはまだあります。社員もいましたし、採用でしかやっていけない人もいる。また採用を頼まれているお客さんもいました。これは残さねばならないと思いました。事業譲渡という形で、カケハシソリューションズという会社に残すことができ、これらがきちんと残ってくれたことで、私的には悔いはありません。自分で会社をつくって、やりたかったことは全部やりつくした感があるので、もういいですね(笑)。

現代は、会社の規模が大きくなるということが、安定とは正反対のものになっています。電機業界は家電が売れないとリストラばかりしていますが、仮に全社員を残してまったく違うことをやろうとしても、それだけの人員が賄えるマーケットをゼロから作るのは無理です。人数が多ければ多いほど、融通の利かない組織になる。仮に5人くらいなら、まったく別のことを始めるのも可能ですが、100人、200人の規模になれば、もう無理でしょう。安定という意味では、いまは小さなことが大事になっています。

だから中小企業は変化しやすいはずなのですが、現実的には中小企業の経営者ほど頭が固く、固執してしまう。小回りが利くはずなのに、何十年も同じ仕事を同じやり方でやって、ちょっとずつ売り上げが下がっていく。

多くの経営者は、他の人がやっているのをマネしているだけで、自分の売り方や独自の商品を考えている人は少ない。

企業を存続させるには、大胆なビジネスモデルの転換、もしくは事業のやり方に対する絶え間ないイノベーションが必要です。それができなければ企業の寿命は終わりを迎えるということでしょう。(談)

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