ビジネス誌「月刊BOSS」。記事やインタビューなど厳選してお届けします! 運営会社

特集記事

2014年3月号より

「無理をするな、先を読め」中小企業経営者へのアドバイス

頑張りすぎた悲劇

残念ながら、どんなものにも寿命はある。人間でもしかり、会社でも同様だ。

一時、「会社寿命30年説」という言葉がよく使われた。成長期10年、成熟期10年を経て最後の10年は衰退期に向かうというものだ。これは、企業経営者の年齢とも関係してくる。30代で起業した場合、若いだけにどんな無理もきく。40代に入り成熟期を迎えるが、徐々に経営者自身が保守的になってくる。創業から30年がたつと経営者も60歳。すでに老境に入りつつあり、新しいチャレンジはむずかしい。同時に会社も衰退に向かう、というわけだ。

この30年の寿命を乗り越えて発展し続けるには、不断の努力と時代の恩恵、そして創業者の意思を引き継ぐ継承者がいなければむずかしい。

特に中小・零細企業の場合、企業体力はないうえに、会社の存続自体が経営者自身の双肩にかかっている場合が多いため、これを継続するには大企業以上の努力と幸運が必要になってくる。

すべての企業が、その幸運にあやかるのはむずかしい。そうであるならば、最悪の事態を想定して、上手な企業の終わらせ方を考えるのも、経営者の責務である。

経営者の最大の使命は、企業を存続させ発展させていくことだ。それだけに大半の中小企業経営者は頑張りすぎてしまう。しかしそれが結果的に最悪の結末を招くことも多い。

たとえば、これまできちんと利益を出していた会社が赤字に陥ったとする。ほとんどすべての経営者は、なんとかして苦境を乗り切ろうと努力する。特に高度経済成長時代を知っている経営者なら、いずれ景気はよくなる。それまでの辛抱だと、自己資金をつぎ込みながらも、状況が回復するのを待つというのがよくあるパターンだった。

しかしながら、バブル経済が破裂してからのこの四半世紀は、そんな過去の常識が通用しない時代になった。むしろ「頑張りすぎる」ことの弊害が目立つようになったのだ。

黒字だった会社が赤字に転落した直後なら、債務超過になっていることもなく、資金的蓄積も多少なりともある。もしこの段階で会社を清算してしまえば、社員には退職金を払うこともできるし、再就職の斡旋も可能となる。

何より経営者自身が、多少のたくわえを持って引退することができるため、豊かな老後を暮らせるし、やる気があるなら、再チャレンジすることもできる。

ところが「頑張りすぎる」と資金を調達するため、金融機関から借り入れることになる。当然、金融機関は担保を求めるため、経営者は個人資産を差し出さなければならない。それで業績がよくなればいいが、最悪の場合、あがくだけあがいて倒産という末路を迎えることになる。こうなると悲劇である。金融機関は担保権を行使するため、経営者は倒産と同時に無一文になり、住むところさえ奪われてしまう。そこまでせっぱつまった状況では、会社にキャッシュがあるはずもなく、社員に対して退職金も払うこともできずに解雇することになる。経営者も社員もみな不幸になる結末だ。

このような不幸を避けるためには、もっと早い段階で見切りをつける必要がある。そうすれば、経営者も社員も不幸にならないような形で会社を終わらせることができる。

ひと口に会社を終わらせるといっても、いくつものやり方があるが、中小企業の場合、
  (1)M&A
  (2)分割
  (3)民事再生法
  (4)清算
  (5)破産
が主なケースである。

キャッシュの動きを注視せよ

M&Aは、企業をまるごと他社に買ってもらおうというものだ。経営者は売却資金を手に入れることができるし、従業員を守ることができる。ある意味、いちばんベストな会社の終わらせ方と言えるだろう。

中小企業の経営を数多く見てきた本郷孔洋理事長。

ただし、『会社整理・清算・売却・合併・分割マニュアル』という書籍の監修を務めている辻・本郷税理士法人理事長の本郷孔洋氏(公認会計士)によると「中小企業の中でM&Aの対象になるような企業はほんの一部でしかない。大半の企業は、売りたくても売れないのが実情です」というほど現状は厳しい。もっとも、考え方を変えれば、買い手がつくように、会社の強みを発揮できる企業であるべく、常日頃から努力しておくことが必要になってくる。

個人の場合でも、絶対的なスキルを持っていれば再就職はむずかしくない。それと同じことである。

また、会社まるごとを売ることができなくても、一部の事業部門だけを譲渡するケースもある。

(2)分割は、第二会社方式と言われるもので、現在ある債務は現在の会社に残したまま、新会社を設立し、事業を新会社に譲渡するというものだ。新会社は利益の一部を旧会社に支払い、旧会社はそれを返済に充てる。また旧会社は債権者に対し債務の減免を求めていくというものだ。

(3)の民事再生法は法的整理だが、雇用が確保できると同時に、経営者も存続できるのが最大の特徴だ。ただし債権者集会で承認されることが前提となるため、しっかりとした再建計画が必要だ。

(4)、(5)は、本当の意味での会社の終末である。どちらの場合でも、組織も社員も残らない。

(4)清算は、債務超過に陥ってない企業の終わり方。単純に資産から負債を引いて、残った資産は株主に還元する。

(5)破産は債務超過の会社の終わらせ方。経営者自身が会社の連帯保証人になっていた場合、経営者個人も破産しなければならないケースが多く、できれば避けたい会社の終わらせ方だ。

ただし現在、年間に13万件ほど、中小企業が倒産しているが、圧倒的に多いのが、破産によるものだ。

「経営者というのは、みなヘトヘトになるまで頑張ってしまうものです。ピカピカの企業の終わり方を選ぶことなど、ほとんどないといっていい。そして最後になると、やめたくてもやめられない状況になってくる。

会社をたたんだところで、残るのは借金だけ。再就職しようにも、経営者というのは経営以外のことはあまりできないので、就職先をみつけるのもむずかしい。だから必死になって頑張っている。それが多くの中小企業の実態ではないですか」(前出・本郷理事長)

現実は厳しい。だからこそ、自分の事業を客観的に見ることが、経営者には求められる。

「中には、先を見据えて上手に会社を終わらせた経営者もいますよ。徐々に社員を減らしていって、最後はフェードアウトするように会社を清算した。資産を残すことにも成功し、幸せな老後を送っています」(本郷理事長)

では、どうやったら、客観的な判断を下すことができるようになるのだろうか。中小企業経営者にとっては、それが最大の問題だ。

「中小企業の場合、バランスシートや損益計算書に基づいて判断してもあまり意味はない。それよりもキャッシュだけで考えたほうがよほどわかりやすい。いくらお金が入って、いくら出ていったのか。資産のうちどれだけ現金化することができるのか。それと、景気のいい時期に、年金代わりになるような資産を持っておくべきです。これに手をつけなければならないようなら、その段階で会社を整理することを考える。こうしておけば、会社がなくなったあとでも、なんとか生活することはできますから」

高度成長の終焉とともに、日本人の働き方は大きく変わった。同様に、経営者の会社に対する考え方も変えるべきなのかもしれない。

経営ノート | 社長・経営者・起業家の経営課題解決メディア

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

 

0円(無料)でビジネスマッチングができる!|WizBiz

WizBizセミナー/イベント情報

経営者占い