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2013年11月号より

初の共同開発車は好調 関係継続は日産の気持ち次第?

今年6月に発売された日産「デイズ」、三菱自「ek」は、両社が折半出資した軽自動車の企画・開発会社NMKVで企画が進められたクルマだ。自動車メーカーが国内でジョイントベンチャーを組むのは初めての試み。どんなクルマが飛び出してくるのか、大いに期待されていた。

実際に6月に登場したクルマは、いかにも軽自動車らしい軽自動車という印象。ホンダが「N BOX」を出した時のような斬新さはなく、その意味では期待倒れだったと言えなくもない。ただ、燃費性能には重きを置いており、発表当時はクラストップの29.2km/L(1カ月後にスズキが「ワゴンR」で30.0m/Lにモデルチェンジ)を達成。軽自動車の王道のクルマだけに、日産・三菱の販売力をもってすれば大外れはないとの見方が有力だった。

8月末までの販売台数を見ると、両社とも販売前に1万2000台もの受注を抱えていたこともあり、好調な滑り出しをみせている。デイズは3万5788台、ekも3万1598台(旧型含)を販売し、両社で7万台近い成果を挙げた。合算すればN BOXやダイハツ「ムーヴ」に匹敵するヒット車種になっている。

特にデイズは月別ランキングでも上位に入る健闘を見せ、月販目標の8000台を大きく上回るペースで推移。日産は月別の軽自動車市場でのシェアが10%前後にまで上昇してきている。ここまでの動きを見る限り、両社の共同開発は成功だったと言えるのではないだろうか。

一方で、9月2日、三菱自動車が軽商用車の開発生産から年度内に撤退すると報じられた。これによって三菱自は軽について日産との共同開発に一本化することになり、単独での開発を打ち切ることになる。軽商用車については、日産は三菱自からOEM供給を受けていたが、これによって、日産、三菱自ともにスズキから軽商用車のOEMを受けることになった。

ここで気になるのは、NMKVに対する両社の温度差だ。

2010年12月、軽自動車の協業を発表したゴーン社長と益子修社長。

三菱自が軽自動車の開発をNMKVに一本化するのに対し、日産はスズキからのOEM車「モコ」を存続させ、「デイズ」と共存させる方針を示している。軽商用車の調達も三菱自からスズキに移ったことで、日産とスズキの関係もより深まることは確実だ。

14年初頭に共同開発車第2弾となるスーパーハイトワゴン(日産「ルークス」、三菱「トッポ」の後継車)が発売されることは決まっているものの、それ以後の発売計画は明らかになっていない。一部報道では第3弾として三菱「パジェロミニ」の後継車が企画されているとあったが、日産側からは具体的な明言がないのが現状だ。

日産にしてみれば、一極集中によるリスク回避も視野に入れつつ、軽自動車の戦略を組み立てているのだろうが、三菱自はNMKVへの依存を高めているように見える。

日産と三菱自の大きな違いは、その企業文化にある。現在の日産の強みは、現場と経営陣の意思疎通のスピードが極めて高いことにある。何か議題があれば、クロスファンクショナルチームが各部門を横断して課題解決に取り組み、その声はエグゼクティブコミッティに届けられる。CEO、COOの決断を仰ぐまでに階層は少ない。

対して三菱自は、現場の状況が経営トップに伝わるまでに時間がかかる、もしくは伝わらない可能性すらある。過去のリコール問題が大型車の三菱ふそうトラックバス、昨年末の軽自動車、今年のSUVなど、異なる開発部門で起きていることからも、横軸の連携が取れていないことがわかる。三菱自の意思決定の遅さ、横軸の連携の不備は致命的。日産にとって組みやすい相手ではないのは明らかだ。

デイズの滑り出しが順調だったことで、当面の協力関係は続くだろうが、仮に軽の規格改定などが行われれば、決して安泰とは言えない。日産にとってグローバルカーをわざわざ共同開発する理由もないからだ。

三菱自は、組むメリットを日産にアピールするしかなく、今後のプロジェクトはすべて失敗が許されない状況がつづきそうだ。

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