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2013年11月号より

トヨタも認める技術力 低燃費・低価格へのこだわり

低燃費競争の火付け役

いま国内の自動車業界で、もっとも熱い戦いが繰り広げられているのが軽自動車。8月の新車販売ランキングを見ても、ベスト10のうち、実に7車種を占めている。うち3車種がダイハツ車だ。

軽自動車市場で7年連続シェアトップに君臨しているダイハツだが、近年はライバル・スズキに加え、ホンダが本腰を入れて軽自動車に参入、日産・三菱自連合も初の共同開発という肝いりの新車を投入したことで、かつてないほど競争が激化している。

今年1~8月の軽自動車販売のシェアをみると、トップがダイハツ(31.4%)、2位がスズキ(29.6%)、3位がホンダ(19.5%)と、ダイハツは首位を堅持しているものの、12年度の33.1%、11年度の35.7%と比較するとかなりシェアを落としていることがわかる。しかし、ダイハツ自体は販売台数を右肩上がりで伸ばし続けており、軽自動車総体が登録車から顧客を奪っていると言えるだろう。

軽自動車業界の競争は、他の業界で多く見られる単なる値下げ競争ではなく、他社との差別化、商品力強化によって行われている部分が大きい。それ故、総体として競争力が高まり、登録車の小型車と比較しても遜色ない、もしくは車種によっては上回るレベルにまで達している。登録車からの乗り換えが進んでいるというのもうなずける話だ。

こうした軽自動車業界の商品力競争の引き金を引いたのが、ダイハツだった。

2004年から08年にかけて、原油価格が大幅に高騰した。リーマン・ショックによる景気減速もあって、世の中のクルマへの関心はもっぱら燃費に絞られるようになる。必然的に燃費を売りにしたハイブリッド車(HV)が脚光を浴び、トヨタ「プリウス」、ホンダ「インサイト」などHV専用車が台頭。政府のエコカー減税や補助金の効果もあって、ラインナップにHVを加えなければ見向きもされない時代に突入する。

このような風潮に危機感を抱いたのがダイハツだった。低燃費が売り文句の一つだった軽自動車が、HVの台頭によってストロングポイントを消されてしまった。いかに競争力を高めるかが喫緊の課題として浮上したのである。

09年の東京モーターショーでダイハツが出品したのが「イース」だった。10・15モードで30km/L(JC08モードなら約27km/L)と、当時、ノーマルエンジンで世界最高の燃費を達成させた。ただ、軽自動車でHV並みの燃費を実現させたことで注目はされたものの、そのままで市販すると価格が130万円ほどになってしまう。HVの低価格化が進んでいたこともあり、これでは勝負にならない。

そこでダイハツが打ち出したのが、JC08モードでの30km/Lを達成しつつ、価格はHVの半分以下、80万円程度に抑えたクルマづくりを目指すことだった。しかも通常の新車開発なら3年かかるところを1年半に短縮させ、11年秋には発売させるという挑戦だった。

ダイハツはこの「ミライース」の開発にあたり、従来とはまったく異なる開発チームを結成。部署間の壁を取り払い、指揮系統を一本化させてスピードアップを図る。単純に燃費性能と言うと、エンジンを思い浮かべがちだが、その達成には車体の軽量化や空力など総合的に取り組まなければならず、部署間の連絡に手間取れば作業は進まない。チームとして一体となって取り組むことで、従来にはなかったクルマづくりが可能になった。

11年9月に行われた「ミライース」の新車発表会では「30km/L、79.5万円」と、低燃費、低価格を実現して見せた。このクルマに使われた低燃費技術は「e:sテクノロジー」として、「ムーヴ」をはじめ他の車種にも展開し、「第3のエコカー」としての軽自動車の存在を決定づけた。

ミライースはその後も改良を重ね、今年8月には33.4km/Lまで燃費を伸ばし、さらに廉価グレードでは74.5万円と低価格化も一段と押し進めている。

6月に就任した三井正則社長は「いまや低燃費・低価格はお客様にとって当たり前。この流れを作ったダイハツが、『第3のエコカー』を定着させたと自負している。今後も燃費技術を磨いて先頭を走る」と、さらなる燃費性能の向上を宣言している。

技術のグローバル化

ミライースの開発効果は、軽自動車だけにとどまらない。

ダイハツは昨年10月にインドネシア新工場カラワンアッセンブリー プラントを稼働させている。この工場では9月9日に発売した小型車トヨタ「アギア」、ダイハツ「アイラ」を生産する。ダイハツがトヨタに対してアギアをOEM供給することになるが、ベースとなるアイラは軽自動車に採用してきた「e:sテクノロジー」を活用したクルマだ。

「今後も燃費技術を磨いて先頭を走る」と三井正則社長。

インドネシア政府が発表した低価格・環境対応車(ローコスト・グリーンカー=LCGC)政策に対応するため、トヨタがダイハツの持つ低価格・低燃費技術をインドネシア向け小型車に活用させたわけだが、これがダイハツにとって新境地を開くことになった。

アイラは1000ccのエンジンを搭載した小型車で、価格は7610万~9750万ルピア(約66万~85万円)。LCGC政策はその名のとおり低燃費だけでなく低価格でなければならず、トヨタの進めてきたHV戦略では高額になってしまう。そこでダイハツの培ってきた低価格のノウハウが活かされることになった。軽自動車の技術が小型車にも通用することが、このクルマの開発で証明されたわけだ。

「値段を上げずに燃費を向上させるには、細かい積み重ねが必要になります。アイラはインドネシアでつくった、インドネシアのためのクルマですが、日本の軽のモノづくりがつまっている」(ダイハツ関係者)

こうなってくると、軽自動車そのものを規格変更し、アジア等新興国に展開できるクルマにすれば、高い競争力を発揮できそうなものだ。しかし、ダイハツはあえて規格変更を肯定しない。

「軽自動車は、国内市場向けですから、多くの部品も国内で作られたものを使用しています。そのぶん部品のクオリティも高いわけです。その意味では、軽自動車業界は国内のモノづくりに大きく貢献していると言えるでしょう。軽自動車は国内工場だから現在のクオリティで作れるのであって、海外の工場ではつくれません。モノづくりの総合力は国内工場を上回ることはできません。

仮に規格がグローバル対応した時に、現在のモノづくりが維持できるでしょうか。国内から輸出すると、必然的に価格が上がり、勝負できませんから、現地調達・現地生産を進めることになります。

なかには海外で軽自動車を生産して日本にも持ち込むメーカーも出てくると思います。そのようなクルマが現在と同等の商品力を保てるのか。他メーカーのコンパクトカーには、グローバル戦略車としてアジアでつくり低価格化を進めて逆輸入しているクルマもありますが、明らかに商品力が落ちているから売れていません」(ダイハツ関係者)

技術的なノウハウは海外に移せても、高いレベルを求められる日本基準を移転することは難しい。軽自動車はガラパゴス化しているからこそ、日本市場で売れているという一面もあるのだろう。ただこれはトヨタグループの一員として、海外戦略はトヨタと連携しながら進めるというダイハツならではの意見でもある。経営資源を一本化できるに越したことはないというメーカーも多いはずだ。ダイハツは業界の盟主だけに、どのような対応を採るのか興味深い。

(本誌・児玉智浩)

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