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特集記事

2013年11月号より

ガラ軽 狂騒曲

参入障壁と呼ばれて

いまや国内販売の4割を占める軽自動車。その存在感は自動車業界の競争の枠を越え、政治、外交問題にまで影響を及ぼし始めている。

日本国内でしか売られない軽自動車は、ガラパゴス携帯ならぬ「ガラパゴス軽自動車(ガラ軽)」と揶揄されることが増えてきたが、その理由は軽自動車の規格が日本独自のものであるからにほかならない。改めて軽自動車の規格を見てみると、

・全長3400mm以下
・全幅1480mm以下
・全高2000mm以下
・排気量660cc以下
・定員4名以下
・貨物積載量350kg以下

これらのうち1つでもオーバーすれば、「登録車」の扱いになる。

日本国内で軽自動車がこれほど人気を呼ぶ理由は、自動車税や保険料の安さだ。

なかでも自動車税は、軽の場合、自家用乗用で年7200円。1000cc以下の登録車の2万9500円と比較しても、その差は歴然としている。自賠責保険についても、登録車2万4950円に対し、軽自動車は2万1970円だ。

そのほか、購入時に車庫証明が不要なこと(自治体による)、高速道路料金も割安に設定されている等々、かなり優遇されていることは間違いない。

この優遇について、海外メーカーが非難の声を上げているのだ。

国内市場の4割を占めるとはいえ、ざっくりと言えば約200万台にしかすぎない市場に、わざわざコストをかけて軽自動車を開発する欧米メーカーはない。TPP交渉のなかでも“参入障壁”としてアメリカ側からヤリ玉に挙げられ、軽自動車の規格を変えるか、優遇税制を変えるか、もしくは両方を変えるのか、政府としても何らかの対応に迫られているのが現状だ。

しかしながら、軽自動車の優遇はいまに始まったことではなく、排気量が360ccから660ccに規格改定されたのは1990年と、20年以上も前の話だ。98年に普通車と同様の安全規格を採用したことから車体の大型化が進んだが、それ以降は大きな規格変更が行われていない。なぜいま、軽自動車に矛先が向いているのか。

答えは日本市場での圧倒的な伸び率にある。

1家に1台の県も

全国軽自動車協会連合会の集計によると、2013年3月末現在の世帯当たり軽四輪車の保有台数は、100世帯に51.8台となっている。2世帯に1台以上軽自動車が保有されていることになるが、実は、保有台数は1977年以降、37年連続で右肩上がりを続けている。

75年3月末の100世帯当たり保有台数は18.0台にすぎなかったが、88年に31.9台、2000年に40.8台に達し、11年には50.3台と、大台を突破した。

地域別に見ると、世帯当たり普及率が高いのは、第1位が佐賀県の100.2台で、第2位に鳥取県が100.1台でつづく。この両県については、1世帯に1台以上の軽自動車が保有されていることになる。ちなみに、佐賀県が首位に立ったのは、史上初。昨年まで27年連続で鳥取県が首位を守ってきたのだが、今年ついに、入れ替わった。

表を見ていただければわかるとおり、上位は軒並み地方部であり、都市部ほど保有率は低くなっている。全国平均の51.8台より下回っているのは東京都、神奈川県など9都道府県しかない。

「地方での軽自動車の使用状況を分析すると、1日当たりの走行距離は約10 kmほどでした。これはつまり、遠距離の移動としてではなく、生活のなかでの足として、日常的に使われていることを表しています」(ダイハツ関係者)

実際、地方ではメインに登録車を据え、セカンドカーとして軽自動車を保有するケースが多い。2世代、3世代が同居する大家族にあっては、3台目、4台目の保有も珍しい話ではなく、維持費を抑えるために、軽自動車を選択することは大いにあり得る。

都市部と違い、鉄道やバスなどの公共交通機関が発達しておらず、むしろ廃線や廃路線が増えつつあるなかで、軽自動車の存在価値は非常に高いことがうかがえる。

世帯当たり台数だけみれば、都市部の軽自動車人気が低いように思われがちだが、近年は、都市部でも軽自動車への乗り換え需要は高まっているという。

商品力も向上

都市部での人気上昇のキッカケとなったのが、11年11月にホンダが発売した「N BOX」だ。

「従来の軽自動車のマーケットは、やはり地方が中心でした。スズキ、ダイハツといったメーカーも、地方の顧客を見てクルマづくりをしてきたように思います。ところが、ホンダは従来の軽自動車づくりとは異なる視点から開発したわけです。登録車と遜色ない乗り心地と、走りを持ち込んだ。これが、従来のミニバンやコンパクトカーのユーザーの軽自動車への乗り換えに促した。地方ではいまだにスズキ、ダイハツが強く、ホンダはそこが不満のようですが、都市部でも売れる軽自動車という、かつてない商品の存在が、軽自動車業界に刺激を与えました」(自動車ジャーナリスト)

さらに、11年はダイハツが「ミライース」を発売し、軽自動車業界における燃費競争に火をつけた年でもある。9月に発売された同車は、JC08モードで30km/Lを達成した初の軽自動車。ハイブリッド技術を使わずに「軽量化・低燃費・低価格」を目指して「第3のエコカー」をコンセプトに発売されたクルマだ。

それまでの軽自動車と言えば、登録車に比べれば低燃費だが、安全性能を重視した半面、車体重量が重くなり、燃費効率という意味では1000ccクラスの登録車より劣るクルマになっていた。ハイブリッドカーの登場で、低燃費という軽自動車の個性が失われるのを危惧したダイハツ陣営が「第3のエコカー」と銘打ち、燃費性能の改善に着手、燃費競争の先鞭をつけた。

これに呼応したのが、かつての軽の盟主スズキで、「アルトエコ」をはじめダイハツに対抗する形でモデルチェンジを繰り返し、燃費競争では常に肩を並べる存在になっている。遅れてやってきた日産・三菱自動車連合の軽自動車「デイズ」「ekワゴン」も発売するや軽トールワゴンクラストップ(当時)の29.2km/Lで追撃をかけてきた。

「価格や税金といった軽自動車の従来の利点に加え、競争の激化で商品力自体が急速に上がってきています。以前は『軽なんて…』というドライバーも多かったですが、排気量の違いがあるとはいえ、性能や使い勝手が登録車と遜色ないレベルに近づいている。乗り心地や使い勝手に差がなければ、維持費の安い軽自動車に消費者が流れるのも、自然な流れだと言えます」(自動車ジャーナリスト)

この商品力向上こそが、「ガラ軽」といわれる所以だ。

日本市場でのみ通用する高性能かつ至れり尽くせりの商品開発は、グローバル基準の小型車からはかけ離れていく一方。他国メーカーからの参入がない代わりに、自分たちもグローバル展開できないという、携帯電話市場と同様のジレンマに陥っている。

最近、話題になってきたのが、軽自動車を海外展開できないかというもの。そのためには規格改正が必要で、TPPなどをからめて規格についての議論も取りざたされるようになってきている。

このまま、わずか200万台しかない軽自動車市場を国内メーカーだけで奪い合うのか、それともグローバルカーとして飛躍を遂げる展開になるのか。次頁から、「ガラ軽」の動向を検証していきたい。

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