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特集記事

2013年9月号より

京、早、慶のベンチャー支援

大学発の電気自動車

「トミーカイラZZ」という国産スポーツカーがある。1995年に開発され、200台強が生産された。モノコック製の軽いボディに2000ccを積んだ車体のシャープな走りはいまでもファンが多い。

この外装はそのままに、エンジンの代わりにモーターを積んだトミーカイラZZ・EVが今年、発売された。製造・販売するのはグリーンロードモーターズという企業で、京都大学キャンパス内に本社を持つ、京大発ベンチャーだ。

この特集の冒頭で、東京大学のベンチャー支援制度を紹介したが、そのような取り組みは東大の専売特許ではない。グリーンロードモーターズも、京大のベンチャー支援を受けた1社である。

京大のベンチャー支援システムは東大とよく似ている。産官学連携本部を軸として、イノベーション・マネジメント・サイエンス研究部門という組織が、教育プログラムやコンサルティングを行う。また京大の持つ技術を、民間企業によって事業化することにも積極的に取り組んでいる。

さらには京大ベンチャーファンドを立ち上げ、京大教員や大学院生、卒業生などが設立したベンチャー企業、京都大学と関連のあるベンチャー企業などに投資している。今年1月現在で、投資先は18社。メガソーラー事業を行うリサイクルワン、創薬のファルマエイトなどがその対象だ。

京都大学に負けじとベンチャー支援を行っているのが大阪大学だ。阪大では、産学連携本部総合企画推進部が、その任にあたる。阪大発ベンチャーの数は、国立大学の中では東大に次ぐほどの実績がある。

このほか、筑波大学、東北大学、九州大学、東京工業大学、北海道大学なども、ベンチャー支援に積極的に取り組んでいる。

慶応大学は湘南藤沢キャンパスを中心にベンチャー支援を行っている。

私学でも変わりはない。

たとえば慶応大学の場合、湘南藤沢キャンパス(SFC)内に起業家育成施設として「慶應藤沢イノベーションビレッジ」を開設している。これは、大学発のシーズの事業化を支援する施設であり、学生、大学研究者による起業、大学連携により起業を目指す中小企業や、第2創業を目指す中小企業を支援する。

その特徴は、大学だけにとどまらず、中小企業基盤整備機構、神奈川県、藤沢市、経済産業省までもがサポートしていることだ。大学、支援機関、地域が一体となって連携することで、ベンチャー支援がそのまま地域支援にもつながっている。キャッチフレーズが「革新的起業家を輩出する場の創造 クリエイターズ梁山泊」というところからも、その意気込みがわかるだろう。

実際イノベーションビレッジには、数多くのベンチャー企業が入居し、研究・開発を続けている。

慶応大学は、知的資産を元にしたベンチャー創造にも積極的だ。その代表例が、シム・ドライブ。この会社は、電気自動車(EV)開発を手がける会社で、慶応大学の清水浩教授が開発した、「コンポーネントビルトイン式フレーム」(シャーシ部分にバッテリーを配置)と「インホイールモーター」(各タイヤの内側にそれぞれモーターを設置して制御する)を装備したEVを開発している。これまですでに3台のEVを試作したが、毎回、この事業に数10のメーカーが参加するほどの盛況ぶりだ。ここでのノウハウを元に、全く新しいタイプのEVが誕生するのもそう遠い先のことではないだろう。

最年少社長は早大発ベンチャー

早稲田大学のベンチャー支援でリブセンスが生まれた。

早稲田大学も負けてはいない。

昨年10月1日、リブセンスという求人情報サイトを運営する会社が東証1部に上場した。その時、リブセンスの村上太一社長は25最。史上最年少での1部上場となった。このリブセンス、早稲田大学インキュベーションセンターに入居していた。

同センターは、ベンチャー企業を支援のために2001年に誕生した早稲田大学インキュベーション推進室が運営するもの。施設は早大キャンパス内に設置されており、オフィススペースや会議室を備える。ここに入居したベンチャー企業は、施設を利用できるとともに、専門家の経営相談サービスも受けることができる。リブセンスはすでに退去したが、現在も7社のベンチャー企業が入居している。

さらにこのセンターを利用した、インキュベーションコミュニティという制度もある。会員になると、同センターの共用スペースや会議室、プリンタや無線LANなどを無料で利用できる。さらには郵便の受け取りや個別のロッカーでの書類保管も可能だという。しかも会費は月額1万円。レンタルオフィスを借りるのさえ負担な創業間もないベンチャーにとって使い勝手は非常にいいようだ。

このほか早大には、有志が結成した起業研究会などもあり、セミナーやビジネスモデルコンテストなどを開いてバックアップをしている。

以上見てきたように、各大学はそれぞれベンチャー支援に力を入れるようになった。そこには経産省が01年に「大学発ベンチャー1000社計画」を発表したことも影響している。これは02年から04年までの3年間で大学発ベンチャーを1000社設立しようという計画だったが、実際には1099社のベンチャー企業が誕生している。この頃が大学発ベンチャーのひとつのピークだった。

ちなみに大学別にベンチャー設立累積数を比べると(09年度末現在)、1位は151社の東京大学だった。2位以下は早稲田大学(111)、京都大学(81)、大阪大学(81)、筑波大学(80)、東北大学(68)、九州大学(60)、東京工業大学(56)、慶応大学(52)、北海道大学(47)で、以上がベスト10である。(「産学官連携データ集」より)

気になるのは、各大学ともここ数年、設立件数が減っていることだ。年度別設立件数をみると、04年度、05年度は252件。しかしこれをピークに減り始め、06年度210、07年度166、08年度90、09年度74と急落している。

また設立はしたものの、清算、廃業、解散、倒産、休業するところも増えており、これまでに設立された累計2000社のうち、約1割が現在は活動していない。

リーマン・ショックに伴う世界不況がこういうところにも影を落としていることがわかる。不況は学生をより保守的にする。

しかし日本経済の活性化には、若い起業家の活躍が不可欠だ。それだけに大学のベンチャー支援に対する期待は強まるばかりである。また大学発ベンチャーでなくても、アントレプレナーシップを持った学生を輩出することは、これからの大学にますます求められるようになってくるはずだ。

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