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2013年9月号より

価値観を共有できない東大生

マネックスグループ社長・松本大氏の経歴は異色だ。開成高校から東京大学法学部を経て、1987年当時、新卒としては珍しい米投資銀行のソロモン・ブラザーズへと進んだ。90年にゴールドマン・サックス証券に転じると、94年30歳の時に最年少でゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任している。

99年にマネックス証券を起業した際には、「10億円を捨てた男」として話題になった。ゴールドマン・サックスのストックオプションを有しながら、その株式公開を待たず、99年の株式売買委託手数料自由化に合わせて退職、起業したからだった。いまやオンライン証券としてグローバル展開するようになったマネックスグループだが、松本氏は「東大卒が自らのキャリアにおいて影響を及ぼしたことはない」と言い切る。外資系金融を経験したからこそ感じる松本氏の東大観とはどんなものなのだろうか。

外資系金融に就職

―― 東大法学部生の進路と言えば、官僚や弁護士、または超大手企業などが浮かびます。松本社長はなぜ異なる道を選んだのでしょうか。
松本 もともと私は、断崖絶壁の脇を通るような狭い峠道をクルマで行くならば、他人の運転では行きたくないタイプなんですよ。他人の運転では嫌で、自分でハンドルを握り、運転します。

東大からの協力要請には「できる範囲で何でもする」と語る松本氏だが、道の険しさも指摘する。

大学を出る時に、私は官僚や大企業が自分に向かないと思いました。なぜなら官僚や大企業は、上司に恵まれなければ何ともならない、個人としての自分をなかなか見てもらえない、コネであったり上司との関係であったり、自分の努力や実力以外のところでキャリアが決まっていく。そういう部分が多いのではないかと思い、それは自分に取れる選択肢ではなかった。

当時、噂によると外資系の金融というのは、実力の世界らしいと。うまくいかないかもしれないけれど、自分が原因だったらあきらめもつきます。自分以外の要因で物事が決まっていくのは嫌だ。そんなリスクは取れない、という理由でした。いまでこそ、外資系証券などは有名になりましたが、当時は完全にドロップアウトのイメージ。私がソロモン・ブラザーズに行った時は、実質新卒第1期生でした。他人は「リスクを取るね」と言いますが、自分としては違う。リスクを排除した結果の選択だったんです。

私自身、外資系企業に行くことは、もともとは考えていなかったんです。ゴールドマン・サックスを辞めて起業する時も、起業しようと考えていたわけではありません。どう考えてもオンライン証券はこれからの時代に重要になってくると思い、会社に提言してきたわけですが、インターネットやリテールはゴールドマンでは関係ないと言われまして、やむにやまれず、仕方がないから会社を作ろうかと(笑)。

―― 同級生の進路はどうでしたか。松本社長のほかに起業した人はいるんでしょうか。
松本 いないですねえ。私は法学部だったんですが、官僚とメガバンクが多い。あとは弁護士とか。
小さい時からディファレントな子供で、変わっていたんですよ(笑)。東大に行けば「俺が日本を背負って立つんだ」みたいな、尖った考え方を持った奴がいっぱいいるのかと思い、それが楽しみで学校に行ったんですが、全然そうではなかった。長いものには巻かれよう的な人が多くて、それが自分としてはすごく残念でした。

逆に言えば、そういう人たちが官僚や大企業に行っているので、自分には合わないと思ったんです。自分の持ち味が出せないのであれば、そんなところに入っても仕方がない。官僚や大企業はまったく考えなかったですね。

―― 外資系金融ではいかがでしたか。東大というブランド力はあったんでしょうか。
松本 まったく関係ない。裸ですよね(笑)。ソロモンに行った時はトーキョー・ユニバーシティなんて言っても、「は?」ですよ。周りはハーバードとかばっかりですから、大学なんて関係ない。ソロモン、ゴールドマンと進んで、学歴が何かしら自分のキャリアに影響を与えたと思ったことは、1回も、微塵もない。完全にゼロです。

―― 日本でも起業家という括りでは東大卒を意識することは少ないように思います。
松本 いいか悪いかは別として、東大という大学は、卒業生のコミュニティビルディングができていない学校ですよね。同窓だから誰かに聞きに行けるとか、そういうネットワークはゼロに等しい。その点、慶應や早稲田のような私立は強い。

少なくとも、ビジネスの世界ではゼロですが、官僚の世界では、たまに、ごくまれに同窓という意識がありますね。ビジネスの世界で感じたことは1回だってありません。

共通価値観がない東大

―― ビジネスの世界に進もうと思えば、東大を卒業する必要がないと言う人もいます。
松本 そうでしょうね。あまり役に立たない。ただ、東大に入るための勉強は役に立つかもしれない。科目数が多いので、苦手なこともやる。ビジネスって、苦手なことがいっぱいあるんですよ。苦手を我慢してこなす姿勢を身につける意味はあるかもしれない(笑)。

研究をするためには役に立つものはあるんでしょうけど、ネットワークもないし、ビジネスをするにはほとんど役に立たないですよね。

―― 最近は東大にも産学連携本部ができて、「アントレプレナープラザ」も整備しているようです。
松本 周りを見て始めていると思うんですけど、根本的に難しいと思います。京都大学などは、「アンチ東大」で芯ができる。ノーベル賞は俺たちだ、みたいに。東大はそれがないから、ベンチャー支援と言っても、体を成さない。大きなムーブにはならないでしょうね。探せば東大出身の起業家はいるはずですから、そこを軸に小さいネットワークはでき得る。ですが、1つの共通価値観がある学校ではないので、先輩が後輩を助けようという動きになるかどうか。ハードルは高い。

―― 共通価値観ですか?
松本 そもそも国立の大学というのは、あまり「色」がないんです。経営基盤も教育方針も、何もかも「国立」が拠り所。創業者のいる学校は福沢諭吉や大隈重信など求心力がありますが、国立にはそれがない。私立は経営基盤に拠り所がないので、寄付金を集めるなど、自分たちで拠り所をつくらなければいけません。

私は開成高校から東大なんですが、開成のほうがすごく仲間意識が強いんです、タテもヨコも。開成は創業者もいていないようなものですし、経営基盤もない。何もないから人間たちが繋がらないと崩壊してしまいます。だからOBたちの結びつきが強くなる。私立は価値観の共有ができています。東大は成績がよければ行けるだけで、価値観の共有を求めていない。京大や一橋大には、「アンチ東大」がありますが、東大には何もない。だって校歌がない学校ですからね。応援歌だけです。そのくらい共通圏意識がない。辛口になりましたが、そういう気がしますね。

(聞き手=本誌・児玉智浩)

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