2014年7月号より
特集の冒頭でも触れたように、ソフトバンクの前3月期決算は、営業利益が1兆円を超えた。
「営業利益1兆円を超えた日本企業は、過去にNTTとトヨタだけ。NTTは118年、トヨタは65年かかったが、ソフトバンクは創業33年で到達した」
孫正義・ソフトバンク社長は決算発表の席上、こう語って胸を張った。
前期の利益1兆円のうち2000億円については、ガンホーとウィルコムの子会社化に伴う一時的な利益であり、いわば水増しされた1兆円と言っても過言ではないが、孫社長は、今期は「営業活動だけで1兆円を達成する」と語るなど、勢いは止まりそうにない。
しかも今期からは、昨年買収した米携帯3位のスプリントの業績が、まるまるソフトバンクの業績に乗っかってくる。スプリントは、今期第1四半期こそ利益が出たものの、契約者の流出が続いている。いまのままでは業績に寄与するどころか足を引っ張ることになりかねないが、孫社長は「日本国内では、固定電話の日本テレコム(現ソフトバンクテレコム)、携帯のボーダフォン(現ソフトバンクモバイル)、PHSのウィルコムの3社の経営を引き受け、いずれも再建に成功した。その経験をアメリカでも活かす」と自信満々だ。
まずは設備投資によって通信品質を上げ、年末あたりから戦略的料金によって契約者増を目指していくという。しかも孫社長は、スプリントを買収したばかりであるにもかかわらず、米4位のTモバイルUSの買収も目論んでいる。実現するには、米連邦通信委員会の承認が必要となるが、もし認められれば、ソフトバンクはいきなり、ホライゾン、AT&Tを凌いで全米1位の契約者数を獲得することになる。
しかも、ソフトバンクが30%以上を出資する中国のアリババがニューヨーク市場に上場することが決定。孫社長は「株は持ち続ける」としているが、アリババの含み益は間違いなくソフトバンクの資金調達に有利に働くはずで、2兆円とも言われるTモバイルの買収資金にもこれでメドがついたことになる。
このように、ソフトバンクの視界に、すでにドコモはない。日本の小さな市場ではなく世界で勝負する会社に成長したのだ。
価格戦略は二の次
ただし、それが日本市場においてはソフトバンクの弱点となるかもしれない。
孫社長の長所でも欠点でもあるのだが、とにかく飽きっぽい。新しことを始めると、それまでのことにはまるで関心がなくなってしまう。つまり米国に本腰を入れれば入れるほど、日本はないがしろになる。そしてすでにその兆候は現れている。
ソフトバンクの携帯事業が伸び始めたのは、ホワイトプランなど、他社より価格競争で優位に立ったことがきっかけだった。当時、孫社長は「他社が安い料金を出したら、24時間以内にそれより安い料金を提示する」と語っていたほど、価格に執着をみせていた。
ところが、今回、ドコモが定額料金を出してきたにもかかわらず、孫社長は「出す以上はドコモに見劣りするつもりはない」と語っているものの、対抗策を出すのは、ドコモの経過を見てからのことになりそうだ。以前の孫社長にはあり得ない行動だ。孫社長の日本市場への無関心こそが、ソフトバンクのアキレス腱となりそうだ。