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2014年7月号より

メダリストの父親が始めたフィンランドのドーナツ屋
竹内 亨 アーノルド日本エリア総本部代表

アーノルド日本エリア総本部代表 竹内 亨

たけうち・とおる 1962年生まれ。長野県出身。生家は冠婚葬祭業を営んでおり、東京商科専門学校を卒業後、家業を継ぐ。現在は株式会社大竹社長として、冠婚葬祭業のほか、福祉介護、居酒屋、学習塾など手広く事業を行っている。フィンランドのアーノルド本社と掛け合い、昨年東京・吉祥寺にアーノルドドーナツの1号店を開店した。

五輪メダリストの留学先

―― 竹内さんはフィンランド生まれのドーナツ店、アーノルドの日本エリア総本部の代表ですが、アーノルドを日本に持ってくることができたのは、今年のソチ五輪ジャンプ団体銅メダリストの長男・竹内択選手の存在があったからだそうですね。
竹内 ええ。私は長野県で冠婚葬祭業や居酒屋、学習塾などを経営しています。それがアーノルドを始めることになったのは、択が中学卒業後、2003年にフィンランドの高校に留学したことがきっかけです。

留学を希望したのは、地元の飯山市がジャンプ競技の強化のために、一時招いていたフィンランド人のコーチに教わるためです。択は単身で、日本人の誰もいない町で高校に通いながらジャンプを学ぶ生活を送っていました。私には弱音は吐きませんでしたが、誰も知る人のいない、言葉も通じない異国での暮らしは、さぞつらかったと思います。そんな択の数少ない楽しみが、トレーニングが終わったあと、小遣いで買ったアーノルドのドーナツを食べることだったそうです。

―― アーノルドのファンになったわけですね。
竹内 その話を択から聞いて、これは日本でもビジネスになるのではと考えました。択は、日本のドーナツにはない食感だというし、女房もフィンランドに行った際に食べておいしかったと言っていましたからね。

―― 竹内さんは食べなかったんですか。
竹内 2010年に、私はアーノルド本社を訪ね、日本での展開を直談判しています。でもその時はまだ一度も食べたことがなかった。訪問後、初めて食べたのですが、とてもおいしかった。もしおいしくなかったらどうしようかという気持ちもほんの少しありましたから、正直ほっとしました。

―― 食べる前に、よく自分でやろうと考えましたね。日本ではミスタードーナツが大量に出店しているし、10年頃にはアメリカ生まれのクリスピー・クリーム・ドーナツも進出し、人気となっていました。勝算はあったのですか。
竹内 食べていただければわかりますが、アーノルドの最大の特徴は生地にあります。他のドーナツにはない、モチモチとした食感で、塩が入っていてあまり甘くないため、甘党でない人にも好まれます。さらには卵と牛乳を使っていないので、アレルギーを持つお子さんにも食べさせることができる。だったらやってみる価値はあると考えたのです。加えて、息子が世話になったフィンランドと日本の懸け橋になりたいとの思いも強く持っていました。

―― 日本での展開を打診した時の本社の受け止め方はいかがでしたか。
竹内 フィンランドは大変な親日国です。ですから本当に日本でアーノルドを出店してくれるならうれしいとは言っていましたが、その半面、どこまで本気なのか疑っている感じもありました。

帰国後はメールで交渉を続けたのですが、なかなか真意が伝わらない。向こうが要求するロイヤルティは高すぎる。暗礁に乗り上げてしまいました。そこで本社に対して、我々にはお金がないから招待はできないが、ぜひ日本に来て日本のマーケットの魅力に触れてほしいと訴えたのです。飛行機代や宿泊代は出せないけれど、最大限のもてなしをすると。そうしたところ、11年9月に、社長と副社長が来日。私は成田空港まで迎えに行き、渋谷や青山、六本木などを案内。そのうえで私の知り合いのコンサルタントのオフィスで再交渉に臨みました。でもやはりうまくいかない。

私の要望は、ロイヤルティをもっと下げてほしいことに加え、ドーナツのサイズを日本人用に小さくしたいということなどでした。フィンランドで売っているアーノルドドーナツは、日本で売られているものの1.5倍ほどもあり、日本人には大きすぎる。このダウンサイズを申し入れたのです。ところが本社の回答は、ロイヤルティもサイズ変更もノー。結局、この時もまとまりませんでした。

日本人向けにサイズを変更

―― なかなか前に進みませんね。どうやって乗り切ったんですか。それとも相手の言いなりになった?
竹内 彼らが帰ったあと、再びメールやスカイプで交渉を続けましたが、はかばかしくない。ところが、ある日突然、「お前は友達だ。サイズは日本人向けに変えてもかまわない。ロイヤルティも、いくらまでなら払えるのか」と言ってきた。それで交渉が一気に動き始めました。

ひとつには、交渉を重ねることでこちらの本気度が伝わり、信頼関係が構築できたということがあったと思います。そしておそらくは、択の活躍のおかげもあったのでしょう。

フィンランドはジャンプ王国です。それだけにジャンプ選手に対しては最大限の敬意を示します。択は2010年のバンクーバー五輪に出場したほか、ワールドカップでも表彰台に上がるなど活躍していて、本社の人たちも択のファンになってくれたようです。それが交渉で有利に働いたのではないかと思っています。

―― 息子さまさまですね。そこからはとんとん拍子ですか。
竹内 12年4月にフィンランドに行き、日本における事業契約に調印しました。この時には社員3人も連れて行き、ドーナツ製造の研修も受けています。そして1年後の13年5月、東京・吉祥寺に1号店をオープンして今日にいたります。

―― なぜ、吉祥寺だったのですか。
竹内 都心に近いところでは家賃が高すぎる。その点、吉祥寺は、都心ほど高くはないし、訪れる人も多い。公園があって池があるところがなんとなくフィンランドに似ているし、北欧関連のショップも多くある。しかも住んでいる人、商売をしている人も優しいし人情味がある。それで吉祥寺に決めました。

―― サイズを変更したのはわかったのですが、それ以外はフィンランドに出しているのと一緒ですか。
竹内 変えています。フィンランドのアーノルドは、生地は甘くないものの、その上に乗っているジャムなどのグレージングはとても甘い。そこで日本ではたとえばリンゴジャムに長野のリンゴを使うなど、あまり甘くない素材を使っています。またフィンランドはメニューが1年中ほとんど同じですが、できるだけ季節ごとに違う商品を提供したいと考えています。

―― 1年間やってみて手応えはどうですか。そして今後の展開は。
竹内 リピーターも増えてきましたし、週末にネットを見たと言って遠くからおいでになる方もいます。子供がアレルギーでいままでドーナツは諦めていたというお客さんにも喜んでいただいています。これまでのところ、だいたい予定どおりに進んでいるのではないでしょうか。

いまは吉祥寺のお店と、百貨店などの催事に出店し、より多くの人たちに味わってもらおうとしてます。いずれはFC展開や通販などで、できるだけ多くの方にアーノルドドーナツを味わってほしい。

択は4年後の平昌冬季五輪を目指すと言っています。その時までには、日本の誰もが知るドーナツ店になっていたいですね。

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WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

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