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経営戦記

「企業は人なり」――。大企業から中小企業まで、どんな企業であってもそれを動かしているのは人であり、意思決定するのは経営トップである。言葉を変えれば、どんな優良企業でも社長が変われば倒産するし、低迷企業も不死鳥のように蘇る。すなわち経営とは日々の戦いであり、経営者に求められるのは不断の努力と決断力だ。話題の企業の経営者はいったいどのような戦いを勝ち抜いてきたのか――

2014年7月号より

過去最高益を更新した SBI証券の総合証券化戦略
髙村正人 SBI証券社長

髙村正人 SBI証券社長

たかむら・まさと 1969年2月生まれ。92年慶應義塾大学法学部卒業後、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。2005年イー・トレード証券(現SBI証券)入社。07年取締役執行役員、12年常務を経て、13年社長に就任。

2013年度、証券各社は久しぶりとも言える好決算が相次いだ。なかでもネット証券は過去最高の数字が相次ぎ、アベノミクスの恩恵を大いに受けた業界だと言える。そのネット証券でシェアトップのSBI証券は、好決算を背景に、対面や法人部門の強化をさらに進めている。ネット証券の枠にとどまらないSBIの戦略とは――。

潤った個人投資家

〔昨年は好況に沸いた証券業界。決算発表では各社とも大幅な利益の上積みを果たした。半面、HFT(ハイ・フリークエンシー・トレーディング)等、ミリ秒単位で売買注文を出す超高速高頻度取引が幅を利かせるようになり、個人投資家が積極的に商いができない状況に陥ってしまっている〕

全体的な流れで言えば、去年の年末までが絶頂期でした。株式の売買譲渡益や配当にかかる税金の軽減税率が昨年末で終わり、駆け込みで売り急いだりということもありましたので株価も年末がピーク(1万6320円22銭)。年明け以降、株価は下げトレンドでなおかつ膠着状態に入ってしまっています。

一方で、HFTと言われるような超高速取引が目立つようになってきました。実質的な取引所の売買代金は1日に1兆6000億円前後となっていますが、個人投資家の方に話を聞くと、感覚的にはその半分くらいだそうです。アルゴリズムを使った超高速取引が増えると、マニュアルでしか取引できない個人投資家は非常に不利になりますから、怖くて手を出しにくい状況になっています。これらが背景となって、取引のボリュームが3月、4月と減ってきています。

我々としては、個人投資家が安心して参加できるような取引環境を提供していかなければいけないと、取引所には個人投資家サイドの要望を出したり、提言をさせていただいているところです。

〔とはいえ、昨年の大幅な株価の上昇は個人投資家に大きな利益をもたらしている。株取引からは距離を置く個人投資家が増えているが、資産運用に対しては積極的な姿勢を崩していないという〕

私どもが源泉徴収を行う特定口座のお客様だけでも、昨年は7000億円のキャピタルゲインを上げられています。その意味では、手元のキャッシュポジションはすごく高い。短期で売買されている方は、いまでこそ手控えていても、流動性が増大してくるのを待っているという状況です。決して悲観的になっているわけではありません。

加えて、今年からNISA(日本版ISA)が始まりましたので、こちらの口座を開設されたお客様は、積み立て型の投資信託を始められる方が多い。現在、投信の積み立ての23%ほどはNISAでのお客様です。たった3カ月でこれだけの数字になっています。これはNISAの中長期で保有して資産形成を助けるというコンセプトが機能しているということでしょう。NISAで株を買われる方も、配当利回りのいいものを中心に長期保有するというお客様がほとんどです。着実に裾野は広がってきたという印象を持っています。

〔NISA口座については、銀行、大手対面証券会社をはじめ、様々な金融機関で口座獲得競争が繰り広げられてきたが、ここにきて利便性の面からもネット証券に分があるように思われる〕

我々はそれほどコストをかけていませんが、銀行や対面証券がかなり大々的にプロモーションをしてくれたおかげで、NISAの認知度そのものは非常に高まっています。3月末までに、私どもに口座を開設いただいたのが41万口座くらい。来年からは取引口座を変えることが可能になりますので、おいおい100万という数字も目指し得る。全金融機関で10%のシェアを獲ろうという高い目標を掲げています。

対面の証券会社さんの場合、NISAを使ってどうするのか、実は営業の現場とボリューム的に噛み合わないんですね。シニアの方はある程度、すでに資産を形成されている方ですから、志向も異なります。それこそ億円単位で投資をされる方たちですから、年100万円という枠では、合わない。対面証券はシニア層が7~8割で、若年層が7~8割のネット証券とは世代がまったく逆になります。NISAは将来の資産形成ということでお使いになる。実際の利用率も、SBI証券が4割なのに対し、対面証券は2割くらいと聞きますから、使い勝手などは我々のほうに分があると思います。

証券会社OBの活用

〔そうは言っても、大口の投資をする個人投資家は、どの証券会社にとっても魅力。SBI証券が他のネット証券と異なるのは、こうした層を取り込むべく、対面部門も持っている点だ〕

対面で営業マンのアドバイスを受けながら金融商品を購入する層は、それなりのロットで買い付けをされます。そういう志向性のお客様には、「マネープラザ」のコンサルティングを紹介してご提案させていただいている。直接やり取りして買い付けをするお客様は、ネットの売買とはボリュームが違いますから、一定のアドバイスを求めて、多少コストは高くてもアドバイス料と割り切っています。マネープラザ以外にも、IFA(金融商品仲介業)約200社と提携してネットワークを広げているところです。

〔IFAは、もともと会計士や税理士などが、自分のクライアント向けに金融商品を紹介するという形態が多かった。ところが最近では新しい形のIFAが増えつつあるという〕

弊社のIFAでは、会計士、税理士のある程度の規模を持った事務所さんが半分、ファイナンシャルプランナー、保険代理店さんがそれぞれ2割弱です。残りはというと、証券会社のOBの方々、いわゆるプロの仲介業者が増えてきています。

年末「株価は1万7000円」と語る髙村社長。

野村さんをはじめ出身会社は多種多様ですが、証券会社を退職されたあと、何人かで会社をつくったりして、お付き合いのあるお客様の金融商品取引の窓口になっています。証券会社に長く勤めていると、お客様は長年お付き合いした営業マンと離れたくないという要望があるようです。生計を支えるというよりも、ボランティア的な要素も含めて、私どもの仲介業者という肩書でお客様と繋がっていくというパターンができています。こうした方々のIFAはコンプライアンス等含めて熟知されていますので、我々としても安心して任せることができます。

ネット証券ではなかなかリーチできないような、投信で何億円も買うようなお客様に対して、プロの仲介業者の方々がリーチしていく。いまではマネープラザの15%ほどを占めるようになってきています。

〔IFAは楽天証券が力を入れている事業でもある。その差別化はどう図っていくのか〕

確かに楽天証券さんとは事業モデルは似たところがあって、特にIFAでは競合しています。私どもにあって、楽天さんにはない、例えば新規上場株の取り扱いなどを有効活用していくなど、差別化を意識しながら事業展開を進めています。

〔SBIにあって他のネット証券にないものと言えば、法人業務への強いアプローチだろう。新規上場の主幹事も一昨年が5社、昨年は6社と確実に実績を積んできている。それはネット証券の枠を超えた、総合証券へのこだわりと言える〕

主幹事の本数だけ見ると、新規上場ができる証券会社として認知されてきているのではないか。またIPOの引き受けの社数ではここ何年か業界トップになっています。ここは法人業務ですから、多少のコストはかかっても、プレミアム商品の仕入れ部隊と考えれば、ものすごく機能している。お客様に魅力的な商品供給ができているという意味では、私どもが頭一つ抜きん出ているところと言えるでしょう。

主幹事も、いまいただいている引き合いからすると、遠からず2桁の社数を達成できると思います。グループのなかにインベストメントがあることも大きいですね。実際に投資をしているかどうかにかかわらず、ベンチャー企業とのネットワークは強固なものがありますし、北尾(吉孝氏・SBIホールディングス代表)が意識したグループシナジーという意味では、すごく効いている部分だと思います。

年末に向けては上昇トレンド

〔前期は営業収益742億9800万円、営業利益327億9900万円、純利益180億6900万円と、過去最高の決算となった。株価が伸び悩んでいるとはいえ、昨年、せっかく戻ってきた個人投資家たちを手放すわけにはいかない。好業績に胡坐をかくことなく次の仕掛けが求められている〕

おかげさまで、創業以来の最高益でした。何がいままでと違うかというと、とにかくお客様が儲かった。我々証券会社にとって、これがいちばん大きいことです。株式市場で儲かったお客様が、次なるリスクマネーという形で資金の回転も上がりました。お客様が利益を実感することで、投信、債券、FX等の他のプロダクツに波及していく効果が生まれ、新しいお客様を呼び込む呼び水になります。

私どもとしては、マーケットが低迷しているから、商いが薄いからといって、指をくわえているわけにはいきません。去年からリサーチの部署を強化しまして、投資に直結するような情報をお届けする投資調査室のメンバーを拡充しました。一昨年と比べものにならないくらい、お客様の目に触れるコンテンツは積極的に投入しています。

例えば動画のコンテンツは飛躍的に増えていますし、静止画であっても投資情報に関するコンテンツは増やしている最中です。これは日本株と外国株にまたがって強化していきます。

また、ユーザー側から見た取引チャネルがすごく多様化して、パソコンですべてを完結するお客様の比率は年々下がってきています。モバイル、特にスマホ周りのチャネルに関しては、年初から積極的にアップデートを図っていまして、お客様の利便性を高めることを徹底的に追求してきました。ここは投資を惜しまずやっていきます。

〔金融商品が多様化したとはいえ、やはり証券会社は株取引が活発になってこそ利益が生まれる。年末に向けての株価はどうか。予想を聞いてみた〕

1万7000円くらい。堅実ですけど(笑)。消費税率10%という懸案もありますし、その意味ではきちんとデフレから脱却して、インフレへという道筋を確認しながら、局面によっては金融緩和もあると思います。法人税減税など、将来に繋がるポジティブな材料には事欠かない。年内は出し惜しみすることはないでしょう。

現段階では、今期の見通しを保守的な数字で出されている企業が多いですが、やはり企業業績はいい。10%ほどの増益で、仮に株価が1万7000円とすると、PERは15倍くらいですから、ぜんぜん高くないリーズナブルな水準です。地政学リスク等はありますが、年末に向けてトレンドは期待していいと思います。

(構成=本誌・児玉智浩)

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