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企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2014年7月号より

コクとあっさり感を両立 希少な逸品カルピスバター カルピス乳品事業部長 川西伸幸/乳製品グループリーダー 小峰順一

“幻のバター”が徐々に普及

あまたあるバターの中で、カルピスの「特撰バター」(以下カルピスバターと呼ぶ)は、いわばプレミアムバターとして人気が高い。このバターの箱を開けると商品のしおりが入っており、「トップシェフたちの絶賛の声」が載っている。一流料理店のシェフやパティシエにとって、カルピスバターはなくてはならない存在なのだ。その声の一例を挙げると「修業時代から40年以上使っていますが、このバターはとても水分が少なくて伸びがよく、調理の作業効率にも優れた製品。スポンジや焼き菓子に使うととても風味がよく、お客様に大変喜ばれています」。

カルピスバターの大きな特徴は(1)クリーミーなコク(2)口溶けの良さ(3)あっさりした味わいに集約される。

カルピスでは51年前の1963年からバターの販売を開始し、当初はレストランやホテル、洋菓子店向けなど“プロ仕様”のバターとして販売してきた。この逸品が、広く一般家庭向けにも販売されるようになったのは、それから18年が経過した81年のことで、そのためかつて“幻のバター”とも称されていたほど。消費者の手に入らない時期が長かったこともあるが、カルピスバターはそもそもが希少価値だった。

なぜなら、飲料のカルピス30本余に必要な生乳で、やっとカルピスバター1箱分(450グラム)を作ることができるからだ。一般のバターは200グラムのパッケージで300円から400円の価格帯に収まるが、カルピスバター450グラムは税込みで1500円ほどする。そのため、ハレの日などにちょっと美味しい料理やお菓子作りをしたいという女性に高い支持を得ているのだ。ちなみに、450グラム、いわゆる“ポンドバター”として流通しているのは、業務用が主力だったためである。

カルピスバターの魅力を語る川西氏(左)と小峰氏。

カルピスバターと普通のバターとを比べてみると、後者が黄色がかった色合いなのに対し、カルピスバターはかなり白い。この理由について、同社の川西伸幸・乳品事業部長はこう説明する。

「国産バターは、85%ぐらいが北海道産の生乳から生産されているのですが、当社では工場が岡山と群馬にあって、北海道産でない生乳を使っています。北海道の乳牛は青草を食べていることが多く、草に含まれる成分の影響で、やや黄色っぽくなる。

当社では、本州の工場近隣地域の生乳が使われており、本州の乳牛は干し草のほかに、とうもろこし・麦・大豆などをブレンドした飼料を食べていることが多いので、北海道産のバターに比べて白い色をしているわけです」

カルピスバターができるまでの工程をざっと見てみよう。まず、生乳を遠心分離機で脱脂乳と脂肪分に分離する。前者が飲料のカルピスの原料となり、後者のクリームがバターの原料へと分かれる。その後、風味を損なわないよう、高温短時間殺菌がなされ、エージングと言われる熟成の工程に移る。

「そのエージングでは、タンクでじっくり丸1日冷却して寝かせます、そうすることでなめらかさが増すからです。通常のバターですと、量産が前提ですから寝かせる時間はもっと短いでしょう」(乳品事業部乳製品・乳性原料グループリーダーの小峰順一氏)

つまり、あくまで飲料のカルピス製造が主で、バターはその副産物的な位置づけであったため、カルピス製造過程で、クリームのほうはしばらく置いておくことが、結果的にカルピスバターの独特な風味につながっているのだという。また、普通のバターの製造工程では、撹拌してできた脂肪粒を水洗いするところを、バターミルクで洗うことによって、よりミルク感もアップしている。

「カルピスバターは、どちらかと言えば繊細な、素材そのものの味を殺さない、奥ゆかしい風味かなと思っています」(川西氏)

日本人に合った味わい

女性には総じて認知度の高いカルピスバターだが、小峰氏によると「調査結果では、老若男女トータルでの認知度はまだ3割ぐらい。百貨店や専門店、食品スーパーなどの販路面で見てもカバー率は7割ぐらいと、まだマーケットでののびしろは大きい」と言う。

それゆえか、「幻のバターに始まって、知る人ぞ知るで認知度も上がってはきましたが、さらにファンを増やすべく、パッケージも一新して、もう少し店頭で目立つようなデザインに変えようという検討を始めたところです。もともと、バターは販売ボリュームの7割ぐらいを業務用で占める世界なので、ややマーケティングがしにくい面はありましたが、時期を見ながら攻勢に打って出たい」と川西氏。

商品バリエーションも広がってきたカルピスバターは女性の支持が抜群だ。

プレミアムバターと称されるジャンルのマーケットサイズは、業務用を除く市販用で年間13億円弱とまだ小さい。他社の製品で言えば、国産なら瓶入りの「小岩井純良バター」、輸入品ならフランスの「エシレバター」が有名だが、13億円の市販市場で、カルピスバターは4億円ほど。

「まずはお試しいただくのが重要で、食べていただければカルピスバターのリピート率は相当、高いものになりますので、今後は買いやすい容量や商品バリエーション(ギフトセットなどでは50グラム入りの小型商品としてソフトタイプや発酵バター、ガーリックやシナモン&シュガーバージョンもある)の拡大も検討課題です。特に発酵バターは、より風味豊かなバターとして人気が出てきている商材ですから」

アサヒが飲料業界で3位に躍り出たのはカルピスを子会社化できた点が大きく、カルピスにとってもシナジーが期待できるだろう。たとえば、アサヒが運営するビール園にカルピスバターを置けば、アピールできる上についで買いも誘える。

また、カルピスバターなら欧米に打って出ても、現地の有力バターと伍することができるかもしれない。ただこの点は、
「国内市場でまだ、消費者の皆様に(カルピスバターを)伝え切った感がありませんので、しばらくは国内中心にやっていきたいと思います」(川西氏)とした上で、小峰氏もこう補足する。

「フランスでも飼料の関係で、比較的色が白いバターです。ただ、本州産のこだわりの生乳ではあっても、カルピスバターのような、繊細で微妙な味わいを海外にも広げていくことができるかどうか。それは将来的な夢です」

2020年の東京五輪の際、ホテルの食事で供されるパンにカルピスバターが添えられれば、訪日外国人にも美味しさを実感してもらえるし、そこから口コミで海外市場に広がっていくこともあるだろう。海外では発酵バターが主力であり、前述したようにカルピスバターには発酵タイプもある。

カルピスバターの真骨頂はコクがあるのにしつこくなく、あっさりしたテイストを両立させている点にあり、そこが日本人に好まれる最大の理由である。

和食が世界的に注目されるいまは、日本で絶賛されるバターを世界に広めるチャンスかもしれない。

(河)

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