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2014年7月号より

サービスで他社と差別化「料金ではなく価値訴求」

auを展開するKDDIは、5月8日、夏向け商品の発表会を開いた。しかしこの日、田中孝司社長がいちばん時間を割いたのは、新商品でもネットワークでもなく、「auウォレット」という新サービスだった。

これは、auユーザーだけが利用できるプリペイド型電子マネーで、全世界のマスターカード加盟店約3810万店で利用できるだけでなく、チャージや利用するたびにポイントが貯まる。しかも支払いは月々の通信料金と合算できるという、「早く申し込まないと損」(田中社長)なサービスだ。

クレジットカードを持つには審査が必要なため、所有者が限られる。一方の電子マネーは最近では提携によって多くの店舗で使われるようになってきたとはいえ、利用場所が限られることは否めない。その点、auウォレットは、両者の欠点をカバーする機能を持っている。

auウォレットを発表する田中孝司・KDDI社長。

この会見で田中社長が何度か繰り返したのは、「料金ではなく価値を追求していきたい」ということだった。

これは明らかにNTTドコモの音声通話定額制を意識してのことだ。一昨年のiPhone発売以来、MNPではドコモから大量の顧客を奪って圧勝し、前3月期決算でも過去最高益を記録したKDDIにしてみれば、敢えてドコモと同じ土俵で勝負することはないという判断なのだろう。

それにしても、iPhone発売前と発売後では、KDDIはまるで違う会社のように見える。発売前は、加入者も伸び悩み、売上高も2期連続で減収になったばかりか、通信障害も相次ぎ、携帯3社の中の落ちこぼれとなっていた。

iPhone前と後

ところがiPhone発売によってすべてが変わった。これ以降、前述のように、ドコモからauへの民族大移動が起こったのだ。

iPhoneの商品力によるところも大きいが、同時に、KDDIが進めてきた固定回線とスマホのセット販売という、事実上KDDIにしかできない販促手段がずばりと当たった。また、定額でアプリが使い放題になる「スマートパス」も大きな吸引力となった。

しかもLTEがスタートすると同時に、auはいち早くプラチナバンドと呼ばれる800MHz帯でのサービスを開始することで、他社との差別化を図った。ソフトバンクがCMでつながりやすさナンバーワンを謳っているが、ことLTEに関しては、auの評価がいちばん高くなっている。

つまりiPhone発売後は、それまでの不振が嘘のように、すべての施策がうまく回り始めた。「料金から価値の追求」も、その流れの中から出てきたものだ。

ただその一方で、新しい料金プランについても準備を進めている。現在は、6月1日から始まるドコモの定額制がどのような結果になるかを見守っている状況で、それを受けて、おそらくはドコモ以上のプランを出すことになるはずだ。

問題はこの勢いがどこまで続くか。2年前までの不振企業が、あっという間に好調企業に生まれ変わったということは、その逆も十分にあり得るということだ。

だからこそauは、サービスで他社と差別化することで、ユーザーの囲い込みに躍起になっている。

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