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特集記事

2013年10月号より

世界のカジノの歴史をひもとく

禁止するより税収を優先

日本はカジノ後進国。世界120カ国にカジノはあるのに、日本ではこれまで認められてこなかった。しかしこれは日本に限ったことではない。現在カジノのある国でも、過去にはギャンブルが禁止されていた歴史がある。それがいかにして解禁されていったのか。参考のためにもその歴史を少し振り返ってみたい。

カジノはヨーロッパで誕生した。ドイツでは14世紀にはすでにあったともいうし、イタリアには17世紀にあったという。誕生当時から、カジノは貴族の社交場として発達した。しかしその一方で労働者階級の賭博場も出現していく。為政者はこうした賭博場を取り締まるが、いたちごっこのようなもので、根絶することはできなかった。

これは日本でも同じことで、江戸時代、幕府は賭博を禁じていたが、大名の下屋敷などで夜毎に賭場が開帳されていたことは時代劇でもおなじみのシーンである。

ヨーロッパで、カジノが公認されるのは19世紀以降のことだ。
そのきっかけがフランス革命だったという。

ブルボン王朝時代、フランス政府はギャンブルを禁じていた。しかし革命がなるや、それまでの反動もあって革命家たちはギャンブルを黙認した。これによってフランスにはカジノがあちらこちらに誕生する。そして為政者は、カジノを禁止するよりも、税金をかけたほうが財政的にもうま味があることに気づいたという。

その後、フランスを支配したナポレオンはカジノ禁止令を出す。ブルボン王朝を模倣したわけだ。しかしその結果、税収が激減、そこでさまざまな例外規定を設けて、事実上、カジノ禁止を骨抜きにした。そしてこの動きはヨーロッパ全土に広がる。

代表的な特例が、保養地のような、都会とは距離のある場所だった。いまでもヨーロッパのカジノの多くが保養所=観光地にあるのは、そういう理由による。また当時、保養所を利用できるのは上流階級に限られていたため、カジノはますます社交場としての色彩を強めていった。

現在、ヨーロッパには500を超えるカジノがあると言われている。旧社会主義国にもカジノがあり、カジノのない国を探すほうがむずかしい。それほどまでにカジノ文化が根付いている。

ただし、ヨーロッパの社交場型カジノの多くが、経営状態がよくないという。古いカジノより、ラスベガス型のエンターテインメントを前面に押し出したカジノが人気を集めているためだ。古いカジノは、歴史と伝統があるだけに、変わりたくても変われない。しかも、もともと税金徴収のために認められたこともあり、税率が異常に高く(ドイツでは粗利の90%)、新たな投資ができないという事情もあるようだ。

ヨーロッパに代わってカジノ大国となったのがアメリカだ。アメリカのカジノといえば誰しもラスベガス(ネバダ州)を思い浮かべるだろうが、全米ではネバダも含め10州でカジノが認められている。またこれとは別にインディアンカジノと言われる、先住民の居住区に建設されたカジノが20以上の州に存在する。しかし、米国のカジノといえばやはりラスベガスに止めをさす。

ラスベガスはゴールドラッシュの時に、西海岸を目指す人たちの宿泊地として発達した街だ。大恐慌から間もない1931年、ネバダ州は税収不足を補うためにギャンブルを合法化した。ただしその頃のラスベガスは砂漠の中の都市であり、水も電力も不足していたため大きく発展することはむずかしかった。ところがニューディール政策の一環で36年にフーバーダムが誕生。水と電力の不足は解消される。ここからラスベガスは大発展を遂げていく。

当初はダウンタウン地区にカジノは集中していたが、80年代に入ると、ストリップ地区に超巨大カジノが続々と誕生して今日のラスベガスが形づくられた。ピラミッド型のカジノ、エッフェル塔のあるカジノ。水路があってゴンドラで行き来をするカジノ等、施設そのものがテーマパークとなっている。またシルク・ド・ソレイユなどの公演が夜毎に行われている。その結果として、ラスベガスはギャンブルをしない人でも、家族連れでも十分に楽しめる街となった。実際、ラスベガスでは、カジノ以外の収入がカジノからの収入を上回っている。これは世界のカジノのうち、ラスベガスだけの特徴だ。

ラスベガスの5倍のマカオ

そのラスベガスを抜いて、カジノ売り上げ世界一を誇るのが、マカオのカジノである。

マカオのカジノには160年を超える歴史がある。始まったのはポルトガルが統治していた時代である。しかし1999年に中国に返還されるまでのマカオのカジノは、カジノというより「鉄火場」と言ったほうがいいような雰囲気を漂わせていたし、マフィアの抗争の舞台となることも珍しくはなかった。

それが大きく変わったのは返還後の2002年に、外国資本にカジノ経営を開放してからだ。それまでは地場資本だけにしかカジノ経営を認めなかったものが、大きく方針転換したのである。これによってまずは香港系とアメリカ系資本が進出、これをきっかけに10年も経ずして20以上の巨大カジノが誕生することになった。その結果、観光客が急増。2000年には年間800万人だったものが、5年後には1900万人と2倍以上に増えた。そして昨年は2800万人に達している。10年で3倍以上である。

カジノ収入も06年には70億ドルと、ラスベガスの65億ドルを抜いて世界一となり、昨年は380億ドルにまで伸ばしている。6年で5倍以上に増えたことになる。

マカオのカジノを支えているのが、経済成長著しい中国人だ。中国人は賭博好きとして知られるが、共産党政権下では賭博は禁止されている。それもあって、中国人はマカオに出かけるとカジノに入り浸る。それがマカオのカジノの収益につながる。

ちなみに、ラスベガスを1年間に訪れる観光客は約4000万人。それでいてカジノの収入は70億ドル程度にすぎない。かたやマカオは2800万人で380億ドルだ。もちろんラスベガスの場合、前述のように家族連れも多い。また国際見本市や国際会議も数多く開催されているため、カジノを目的としないビジネス客も多い。

そうした人たちが4000万人のうち半分を占めるとしても、カジノ客1人あたりのカジノ収入は350ドルに過ぎない。ところがマカオは1350ドルに達する。ラスベガスのざっと4倍。いかに中国人が賭博好きかがわかろうというものだ。

マカオがここまで発展する前、日本人にとってもっとも身近なカジノといえば韓国だった。

韓国初のカジノは、1967年仁川に誕生した。翌年には日本人にも馴染みの深い、ウォーカーヒルカジノが誕生した。韓国がカジノを解禁したのは、観光客を呼び込むため。自国民がカジノにお金を落としても意味がないため、外国人専用だった。

いまでも全土に17あるカジノのうち、16カ所では韓国民が入ることはできないようになっている。もっとも、だからこそ開放されている1カ所(江原ランド)にギャンブラーが集まり、社会問題化しているのも事実である。

韓国でカジノがいちばん集中しているのが済州島だ。1975年に最初のカジノができたのを皮切りに、現在までに8つのカジノが誕生している。

ただし、済州島を訪れる外国人観光客の数は年間150万人程度。この数に対して8つのカジノというのは過剰であり、実際、経営不振に苦しむところもあるという。この150万人の観光客のうち、6割前後が中国人が占める。

特に今年に入ってから日本人観光客が激減しているため、余計、中国人の比率が高まった。また、次で触れるが、シンガポールのカジノの最大の顧客も中国人である。結局、中国東北部の人は韓国へ、それ以外の人はマカオへ、そして富裕層はシンガポールへという棲み分けができているようだ。

カジノの隣にテーマパーク

さて、最後はシンガポールである。日本と同じでカジノに慎重だったシンガポールが解禁した経緯は、既述のレポートでも触れているため、ここでは現在の様子だけを述べる。

シンガポールのカジノは2カ所にある。1つはセントーサ島にあるリゾート・ワールド・セントーサ。この島全体がリゾートになっていて、その中の施設の1つとしてカジノがある。カジノの隣にはユニバーサル・スタジオがあり、島全体がカジノを含むエンターテインメントリゾートになっている。

もう1つのカジノが、マリーナ・ベイ・サンズ。ソフトバンクのCMの舞台となったところで、3本のビルの上に巨大な船が乗っているといえばわかるだろう(右写真参照)。屋上のプールは世界一高いところにあるプールとして知られており、このプールに入りたいがためにこのホテルを予約する人も多いという。この建物の中には会議場や美術館も併設されており、IRとしてのあらゆる機能を備えている。日本で建設しようとしているIRのモデルと考えていい。

このほかアジアには、共産党国家のベトナムにも、カンボジアにもカジノがある。

さて、日本では、カジノ推進法が超党派の議員によって秋にも国会に提出され、成立する見通しである。しかし中にはギャンブルに対して嫌悪感を持ち、カジノ解禁もってのほか、と考えている人もいるはずだ。そういう人こそ、ぜひ海外のカジノを覗いてみるべきだ。そしてできれば少額でもいいからカジノで遊んでほしい。

そうすれば、カジノの魅力が少しは理解できるだろう。もちろんカジノ解禁賛成の人も同様で、頭で考える前に体験してみることをお勧めする。

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