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特集記事

2013年10月号より

カジノ誕生で外国人観光客は3倍に

外国人観光客を獲得せよ

「シンガポール、あるいはマカオがカジノによって世界からたくさんの人たちを呼び込むことに成功している。私自身は(カジノ解禁は)かなりメリットもあると思っている」

3月8日の衆院予算委員会における安倍首相の答弁からもわかるように、カジノ解禁に向けての動きが加速している。

日本におけるカジノ解禁運動の歴史は1990年代半ばにまで遡る。96年、ジャーナリストの室伏哲郎氏(故人)が中心になり、カジノ合法化を目的に「カジノ学会」を設立、さまざまな啓発活動を行っていった。そのメンバーでもあった石原慎太郎氏は、99年の東京都知事選に勝利を収めると、お台場カジノ構想を発表する。

2000年代に入ると、国会議員の間でもカジノ解禁を本格的に議論しようという動きが起こり始め、02年、超党派の国会議員による「国際観光産業としてのカジノを考える議員連盟」通称カジノ議連が誕生した。

このカジノ議連は、民主党政権下の10年、「国際観光産業振興議連」として再スタートする。カジノ解禁の動きが活発になったのは、この議連誕生がきっかけだ。

ちなみに、現在はカジノ議連ではなく、IR議連という通称を使っている。IRとは、統合型リゾートの略で、カジノだけでなく、ホテル、国際会議場、商業施設などが一体になった複合リゾート施設の意味である。

世界120カ国以上で認められているカジノが、間もなく日本にも誕生する。

IR議連誕生の翌年には、IR推進法案が出来上がり、この秋にも国会に提出する運びとなっている。IR推進法は、IRの基本理念および基本方針を定めたもので、国内に最大10カ所、IR建設を認めるものとなっている。1ヵ所につき、カジノは1つという想定で、ラスベガスのような街まるごとカジノを目指すのではなく、シンガポールにある、船の形をした「マリーナ・ベイ・サンズ」(この中にカジノ、ホテルなど複合施設がすべて揃っている)を思い浮かべるとわかりやすい。

IR推進法に対しては、共産党と社民党を除くすべての党が賛意を示しており、成立への障害は少ない。そして推進法成立後2年以内にIR実施法を制定することになっており、この法案成立をもって、カジノ解禁は具体的に動き始めることになる。

なぜここにきてカジノ解禁の機運が高まったのかというと、カジノによって日本経済復活の起爆剤にしたいという思いがあるためだ。バブル崩壊後、日本経済は低迷を続けている。この間、国家財政は急速に悪化したため、財政出動による経済振興はむずかしい。そこでカジノである。

以前から、日本経済成長の1つの柱として、外国人旅行客の誘致が挙げられている。昨年、日本を訪れた外国人(インバウンド)は835万人。海外に出かけた日本人1699万人の半分以下である。インバウンドを増やし、外国人が日本でお金を落とせば、それが日本の経済成長につながるというわけだ。

もともと日本に対する外国人の関心は根強いものがある。それは今年、円安になって一気に欧米からのインバウンドが増えたことでも裏付けられる。もしここにカジノがあれば、さらに多くの外国人を呼び込むことができるのではないか、というわけだ。

この動きを、アベノミクスが加速させた。

言うまでもなく、アベノミクスは(1)大胆な金融政策(2)機動的な財政政策(3)成長戦略の3本の矢からなる。(1)と(2)に関してはすでに進行中だが、インバウンドの増加は、(3)の柱の1つに位置づけられる。今年6月には「本年に訪日外国人旅行者数1000万人を達成し、さらに2000万人の高みを目指すとともに、2030年には3000万人を超えることを目指す」という内容の、インバウンド目標を閣議決定した。

年内1000万人の目標は、円安のおかげで達成できそうな勢いだが、これを17年後に3倍にするのは容易なことではない。そこでカジノによって外国人客を誘致しようというわけだ。

毎年6000億円の経済効果

身近なところにある成功例がシンガポールだ。シンガポールは日本同様、カジノを認めてこなかった国だが、2008年にカジノ解禁を決断、10年に2つのカジノがオープンした。その結果、09年に968万人だった海外からの観光客数は、10年には1160万人と一挙に20%伸び、以降11年1320万人、12年1440万人と右肩上がりで伸びている。

シンガポールではカジノ建設に先駆け、15年にインバウンド1500万人の目標を立てていたが、このままいけば、2年早く今年達成する見通しだ。

観光収入も09年には126億シンガポールドル(1シンガポールドル=76円)だったものが、昨年230億シンガポールドルと倍増した。昨年のシンガポールのGDPが約3000億シンガポールドルだから、およそ8%を観光収入で稼いでいる計算だ。ちなみに日本の昨年の国際観光収入は1400億円にすぎない。シンガポールの例にならえば、これを倍増することも夢ではない。

もちろん、観光客がカジノに落とすお金も魅力である。いま世界一のカジノタウンはマカオだが、マカオのカジノの売り上げは、年間3兆5000億円に迫ろうとしている。これはラスベガスの約5倍。しかも売り上げといっても実際には粗利、つまりお客が費やした金額からカジノ側が支払った金額を引いたものだからカジノで実際に動く金額ははるかに大きい。そしてカジノ施設の上げる利益に対してはカジノ税や法人税をかけ、勝った客に対しても税金を課すことが可能となる。税率をいくらにするかは、制度設計上の問題になるが、いずれにせよ、国や自治体の収入になることは間違いない。

海外のカジノに詳しいグローバルミックス代表の勝見博光氏によると、「どのように税金をかけるか、あるいは入場料をどのくらい取るかというのはカジノによってまちまちですが、カナダ・ケベック州のカジノなどは施設の利益の半分を税金で持って行き、それを教育や医療に充てている」という。このように、カジノにかける税金を目的税化することも可能である。

カジノ(=IR)のいいところは、国や地方自治体が関与するのは規制や周辺環境の整備のみであり、他は純粋民間資本によって行われることになりそうなことだ。

公営ギャンブルと比較してみればよくわかる。中央競馬の場合なら、農水省が管轄する特殊法人、日本中央競馬会(JRA)が主催する、いわば国営競馬である。東京競馬場や中山競馬場などの施設もJRAが建設・所有している。これが公営競馬であれば、主催は地方自治体であり、施設所有権も競馬から上がる利益もすべて自治体に入る仕組みだ。

ただしこの仕組みは両刃の剣だ。利益が上がっているうちは、その利益を独占できるが、ひとたび赤字になったら、その負担はすべてJRAや自治体にのしかかってくる。バブル崩壊後、公営ギャンブルの苦戦が続いており赤字に転落、維持できなくなって閉鎖に追い込まれた地方の競馬場は少なくない。その結果、その地域の雇用は失われる。

ところが現在、解禁に向け動き始めているカジノ=IRの場合、開発から運営まで、すべて民間に委ねられる予定だ。つまり、公共投資のように国や地方のお金を必要としない。それでいて、一時的にはIR建設でゼネコンが潤い、カジノ開業後は観光客がお金を落としていく。雇用も生まれる。しかもカジノの売り上げや利益に応じて税収を得ることもできる。国家財政や地方財政が逼迫している日本にとって、これほどありがたい話はない。

シンガポールはカジノ誕生で観光収入が倍になった。日本の目指す姿でもある。

現にシンガポールの場合は、1兆円かけてカジノを建設したものの、カジノを含むIR全体で3万5000人の直接雇用を生み、その経済効果は年間1000億円にも迫るという。

これを日本にそのままあてはめることはできないが、周辺人口の多さを勘案すると、もし東京・台場にIRができた場合、経済効果はシンガポールの2倍か3倍、あるいは5倍とも言われている。また大阪に誕生したとしても、シンガポール以上の経済効果を生むという。

経団連の試算では、IR1カ所で、需要創出効果が年間3000億円、波及効果まで含めた経済効果は6000億円にまで達するという結果が出ている。これが10カ所なら6兆円だ。ちなみに東京五輪誘致が決定した場合の経済効果は3兆円と言われているが、これは一過性のもの。IRの場合、運営を間違わなければ継続的に経済効果を発揮し続けることになる。

これだけの経済効果があるのだから、安倍首相やIR議連の人たちが、日本経済復活の起爆剤として期待するのも無理はない。

カジノ解禁の暗黒面

このように、カジノ解禁はいいことばかりのように思えるが、もちろんそんなに甘い話ではない。IR=統合型リゾートと名前を変えたところで、カジノがギャンブルであることに違いはない。ギャンブルであれば、当然そこには負の側面がある。

本特集では、日本の刑法で賭博を禁じておきながら(一八五条、一八六条)、カジノを設置することの是非は問わないことにする。すでに公営ギャンブルによってその条文は骨抜きにされている。カジノだけを害悪視しても始まらない。ただし、ギャンブルであるなら、そのための配慮をしなければならないのは当然のことだろう。そうでなければ、カジノ=風紀の乱れとして解禁に難色を示す人たちを納得させることはむずかしい。

冒頭から何度も述べているように、カジノ解禁の目的は、インバウンドを増やし、日本経済を活性化することにある。しかしいざ解禁してみたら、インバウンドは増えず、ギャンブル依存症になる国民が増えたというのでは本末転倒だ。

原則、自国民にカジノを開放していない韓国だが、1カ所(江原ランド)だけ、自国民でも遊べるカジノがある。しかし、そこには朝早くから「カジノホームレス」と呼ばれる人たちが開場を待ち、借金がかさんで自ら命を絶つ人も少なくないという。

カジノ解禁に際しては、そうしたギャンブル依存症の人たちをどうやってケアするかも大きな問題だ。

シンガポールの場合ではカジノを開設するにあたり、ギャンブル依存症の人たちのためのリハビリセンターがパッケージになっている。また、シンガポール人がカジノに入場するには7000円必要だ(外国人は無料)。このように自国民にはカジノの敷居を高くし、海外からの客を誘致するなど、工夫を凝らしている。

青少年対策も必要だ。「曖昧さ」を好む日本では、大人と子供の境もこれまで曖昧にしてきた。たとえば馬券を買えるのは20歳以上だが、競馬場に行けば未成年の大学生が普通に馬券を買っている。「大学生になれば大人同然」ということなのだろうが、時によっては高校生が馬券を買うのを目にすることもある。

カジノにおいてはこれは許されない。厳密な身分審査をすると同時に、もし未成年者に遊興させた場合、カジノ側に厳罰を処すなどの対策が必要になってくる。

もうひとつ、徹底しなければならないのは、反社会勢力を根絶することだ。

ラスベガスでは、マフィアが入場できないのはもちろんのこと、マフィアの親族であってもブラックリストに載せられるという。ラスベガスの歴史そのものが、マフィア排除の歴史だと言っても過言ではない。日本でもそこまで徹底して、はじめてカジノは、大人が楽しむ非日常空間になる。それができなければ、日本のカジノは失敗に終わる公算が強いだろう。

日本らしさをどう出すか

忘れてはならないのは、IRをつくれば、それでインバウンドが増えるという単純なものではないということだ。

現に、世界中のカジノには、経営不振に陥っているところも珍しくはない。隣国、韓国には17カ所のカジノがあるが、赤字経営のところも多い。東・東南アジアには、韓国、シンガポール、マカオだけでなく、ベトナムにもカンボジアにもあるし、フィリピンにも間もなく誕生する。日本のIRは、そこと競争していかなければならない。

「IRの魅力というのは、カジノの魅力だけではありません。周辺のホテルやレストラン、会議場を含め、トータルでのサービスが重要になってきます。しかもその施設だけでなく、その地区周辺の資産を最大限活用することが、必要です」(前出・勝見氏)

規模のうえではどうやってもマカオに勝てるはずがない。そうした中、マカオではなく日本のカジノで遊びたいと思わせるには、日本らしい“おもてなし”や、世界をリードする「クールジャパン」をうまく取り入れたIRの運営が不可欠だ。

IR議連では、次の国会でIR推進法案を成立させ、2020年、東京五輪(誘致に成功すればだが)に合わせる形で日本初のIRを誕生させることで、起爆剤としての効果を一層高めることを狙っている。つまりあと7年しか時間がない。

その限られた時間の中で、カジノのマイナス部分への対策と、世界から人を呼び込むだけの魅力あるIRを、どうつくっていくかが問われている。カジノ解禁は目前なのだ。

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