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特集記事

2013年10月号より

カジノ推進法成立から開業までの道のり

推進法の次は実施法

前稿でも触れたように、超党派議員連盟がまとめたカジノ推進法案が、間もなく国会に提出される予定だ。その時期は、いまのところ秋の臨時国会が有力視されている。

現在のところ、法案に反対姿勢を打ち出しているのは共産党と社民党のみ。それ以外の党は原則賛成なのだから、早ければ臨時国会中、遅くとも継続審議としたうえで次期通常国会で可決・成立する見通しだ。

いまやカジノにおいても、グローバルで客の奪い合いをしている。特にアジアの場合は、日に日に豊かになっていく中国人をどう取り込むかで、収益は大きく変わる。どうせカジノを解禁するのなら、中国はもちろん世界から人を集めないことには面白くない。そのためには、できるかぎり早くカジノ解禁に道筋をつける必要がある。

推進法の提出と成立は、日本が観光立国のスタートラインに着くことを意味する。

カジノを擬似体験する超党派の議員たち(中央は野田聖子衆議院議員)。

もちろん推進法の成立で、いきなりカジノ解禁というほど単純ではない。推進法はあくまで大枠の方向性を示すものでしかなく、2年以内にカジノ実施法を成立させる必要がある。実施法は内閣法となる見通しで、関係省庁が詳細を詰めて作成し提出するという流れとなるのだが、推進法と違って、実施法がすんなり国会を通る保証はどこにもない。

「推進法というのはいわば総論のようなものです。インバウンドを増やすためにカジノを解禁する。これに対して反対する人はほとんどいません。でも実施法は各論です。各論となると、省庁間の利害がぶつかりあう。政治的に決着をつけたとしても、国会でまた蒸し返される可能性もある。いわばTPPと一緒ですよ、日本が国際社会で生きていくためにTPPの必要性はわかっても、自分に不利益が見込まれるところは聖域を主張するようなものです」(IR議員連盟関係者)

また実施法では、実際のカジノ経営を想定して、多くのことを決めておく必要がある。ギャンブル依存症対策をどうするか。反社会的勢力とどうやって絶縁するか。未成年がカジノに入れないようにするにはどうするか。またそれを破った時にはどのような罰則を科するのか。

カジノ解禁反対の人たちは、そういったところの不備をついて反対運動を展開してくるはずだ。国会議員の間ではカジノ解禁は多数派だが、世論は必ずしもそうではない。新聞社が行っている世論調査でカジノ解禁の是非を問うと、賛成、反対は拮抗している。昨年「週刊東洋経済」が行った調査では、賛成40%、反対47%と反対が上回っている。

とくに女性の間では、ギャンブルに対する拒絶感が強く、この対応を一歩間違えると、実施法成立に支障が出る可能性もある。また、一部のマスコミがカジノ反対のキャンペーンを展開してもおかしくない。

そのため、実施法の成立が、カジノ解禁に向けての最大の山場となるはずだ。

無事にこの山を乗り越えることができても、まだまだ関門は多い。まず、どこにカジノを建設するかを決めなければならない。これもまたひと苦労だ。

詳しくは次稿に譲るが、「わが地元にカジノを誘致したい」と手を挙げている自治体は10カ所を優に超える。カジノが解禁されたとしても国内にできるカジノの数は、最初、2、3カ所でスタートして最大でも10カ所までと想定される。当然、手を挙げても選定されない自治体も出てくる。

自治体にとってカジノは打ち出の小槌だ。自分たちで資金負担をしなくても、民間業者が大規模設備投資を行ってくれる。それでいてカジノの粗利から、一定率を納付金として徴収できる。もちろんカジノができれば雇用も増える。世界から観光客がやってきて、お金を落としていく。喉から手が出るほど欲しいに違いない。

それだけに誘致に名乗りを上げる地区選出の国会議員は必死になってカジノを引っ張ってこようとするだろう。しかしここで圧力に負けたら、日本のカジノはスタートからゆがんだものとなる。インバウンドを増やし経済を活性化させるのが最大目的なのだから、どこにカジノを置いたらその目的を実現できるのか、公平・公正に選考作業を行うべきだ。しかし言うは易く行うは難しで、実際に情実を排除しようとすると様々な抵抗にあうはずだ。それでも初志貫徹できるかどうか。

この立地は、実施法成立から1年後、おそらく15年から16年の間に決まることになる。

指定を受けた地方自治体は、次に事業者の選定に入る。アメリカやアジアのカジノのほとんどは、ホテル内にカジノを併設する形をとっている。つまりホテル=カジノである。そしてカジノの運営ノウハウを日本企業は持っていない。そのため必然的に、IRのホテルはラスベガスなどで経験を積んだアメリカ資本が担うことになる。

そうなると、外国人観光客が落とした金は、アメリカ資本に持っていかれ、日本にとってのメリットは小さくなる。

最初の段階ではそれもやむを得ないが、カジノ開発認可が第2次、第3次と続く場合は、いずれは日本企業を事業者として選定すべきだろう。そのためにはノウハウの蓄積が重要で、すでに海外のカジノに参加している日本企業もあるが、エンターテインメントや会議場の運営など、学ぶことはいくらでもある。そこで、民間事業者を選定する際には、日本企業が何らかの形で最初から参加するような縛りをかける必要もあるだろう。

ここでカジノ運営ノウハウを身につけることができたら、次は海外にそのノウハウを持って出ていくことも可能になる。だからこそ、多くの企業がカジノのインサイダーになりたがっている。

事業者が決まったら、今度はその事業者がカジノの免許を申請、取得する。すでに選定段階で審査を受けているわけだから問題はない。そして免許が下りた段階で、いよいよカジノ建設に取り掛かることになる。

東京五輪に間に合わない?

しかし、いま見てきた段取りをひとつずつこなしていった場合、この段階ですでに2020年頃になってしまう。これでは東京五輪に合わせてカジノ開業などできるはずもない。どんなに早くても25年というのが正直なところだろう。

間に合わせるには、実施法成立後、すべての段階を同時並行的に進めるしかない。シンガポールのIRは、わずか34カ月で完成したというが、それは地震のない国だからできたこと。地震大国日本では、このような急ピッチの建設工事は許されない。工事に4年かかるとして、20年に間に合わせようとすると、16年には工事を始めなければならない。ということは実施法制定から1年間で、立地選定、事業者選定、免許交付まで一気に行うというスケジュールとなる。拙速と言われかねない。

「ですから現実問題としては東京五輪に間に合わせるのはむずかしいと思いますよ。でも20年カジノオープンを掲げているから、目標に向かっていろんなものが動き始めた。もしそれがなかったら、いまだ推進法上程さえ先送りされていたかもしれない」(前出・IR議連関係者)

刑法で賭博を明確に禁じている日本でカジノを解禁しようというのだから、国民的議論が必要なのは言うまでもない。しかしここでもたもたしていては、カジノがオープンする頃には、すべて市場が押さえられてしまう可能性もある。さじ加減はむずかしい。

そのバランスをいかに取るかによって、日本のカジノの未来が決まる。ともかく、間もなく、カジノ推進法案は国会に上程される。本格的カジノの到来は目の前だ。

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