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特集記事|月刊BOSSxWizBiz

2015年6月号より

経営者VS.株主|月刊BOSSxWizBiz
父と娘の骨肉バトル 大塚家具で注目を集めたプロキシーファイト|月刊BOSSxWizBiz

内輪揉めが表沙汰になり、投資家を巻き込んで大騒動となった大塚家具。経営権を巡るプロキシーファイト(委任状争奪戦)は、テレビのワイドショーにも取り上げられ、父と娘の対立という関係性も相俟って、日本中の注目を集めることになってしまった。

事が発覚してからの顛末は、いまさらなので割愛するが、3月27日に行われた同社の株主総会の決議では、61%対36%で長女である大塚久美子社長が勝利。父である勝久氏は取締役からも外れ、経営から離れることになった。

当初は、勝久氏と久美子社長の経営手法の違いから対立が深まったと伝えられていた。会員制をやめる・やめないの議論が最たる対立点のように伝えられていたが、実際はもっと根本的な問題があったとの声が聞こえてくる。久美子社長と同じ一橋大学OBの企業経営者は次のように話していた。

「久美子社長が反発していたのは、会員制云々ではなく、コーポレート・ガバナンスの問題が大きかったと思う。久美子社長はとてもマジメな人で、公器である上場企業の取締役会が、その体をなさない会長のワンマン経営者ぶりに我慢がならなくなったのでしょう。客観的に見れば、株主がどちらを選択するか、当然の結果だったのではないでしょうか」

株主総会前に激化したプロキシーファイトでは、報道によると勝久氏側に傾いたとされていた。しかし最終的に久美子氏を選んだのは、株主総会に出席した機関投資家や個人株主などの一般株主だった。実に81%が久美子社長側に付いたとされる。

株主の質疑応答の際は、勝久氏自ら質問に立った。また第2会場にいた勝久氏の妻・千代子さんも質問している。娘に対する父母の質問は、どちらかと言えば情に訴えかける発言が目立った。冷静な判断が求められる場で、感情を前面に出した発言は、むしろ滑稽に見える。千代子さんが発言に立った時は、別室のメディア席では失笑が起こったほどだ。これに対し、努めて冷静に対応したのが久美子社長。現場にいた株主の目にはどう映ったか。語るまでもないだろう。

他の株主からの質問では、やはり勝久氏のガバナンスの問題を指摘する声が上がった。2006年に大塚家具が配当予想の修正を行うことを知りながら自己株を買い付けたインサイダー取引が翌年発覚した。この時は意図的に安値で買い付けたのではなく、大塚家具側の法令違反の認識について誤りがあったとされたものの、金融庁から3044万円の課徴金納付命令が出されている。

この当時の株主総会で糾された勝久氏は、「何も知らないくせに口を出すな」と、質問した株主を怒鳴りつけたという。勝久氏のコンプライアンスに対する認識の甘さやガバナンスのあり方に疑問を持った株主もいたようだ。

昨年7月に久美子社長を解任し、勝久氏が社長に復帰した際に、勝久氏は粛清人事を行ったという。久美子社長派の幹部を一斉に更迭し、勝久氏に従うイエスマンを登用。反対意見を封じた形になった。取締役会は当然機能することなく、勝久氏の独断で経営が進められていく。これに待ったをかけたのが、久美子社長が復帰したクーデターだった。

株主総会の席上、ある株主から「双方歩み寄れないのか」という質問もあった。これに対し久美子社長は、「歩み寄るべきものとそうではないものがある。特にガバナンスやコンプライアンス」と突っぱねている。久美子社長の主張は明確だったと言っていい。勝久氏の感情に訴えた発言は、会社の企業価値を高める期待を感じさせるものではなかった。株主が求めているものを提示できなかったのが最大の敗因だった。

半面、勝久氏の経営センスそのものには高い評価があり、最後まで歩み寄りを期待した株主が多かったのも事実だ。時に経営にはカリスマが必要だが、独断がすぎれば優秀な人材は去っていく。周りがイエスマンだけでは、優秀な経営者であっても道を違えるということだろう。

株主が求めているのは、企業価値を高め、それを株価にも反映させることができる経営者だ。今回は株主に選ばれた久美子社長だが、期待に応えられなければ、いずれNOを突きつけられることになる。経営者に対する株主の視線は、よりシビアなものになる。株主の1人はこう話していた。

「時代に対応できない会社からは、株主は去る。大塚一族を守りたいだけなら株主は見捨てる」

この大塚家具の騒動は、久しぶりに社会に「株主」の存在を知らしめる出来事となった。

プロキシーファイトに始まった一連の流れは、経営権、議決権、コーポレート・ガバナンスから企業価値の定義まで、経営者がアピールすべきものと、株主が求めてやまないものが網羅された感がある。何より経営者を選ぶのは株主であり、任命権と罷免権を両方持ち合わせていることを如実に表した事例になったといえる。

企業のIR活動に変化

本来、上場企業であれば、投資家の動向を気にするのは当然のことだ。しかし、ネット証券等で手軽に株の売買ができるようになったことと、リーマンショック以降、利益確定売りを出す個人が増えたことで、個人投資家の株の保有期間が短くなってきていた。企業にしてみれば、短期で目まぐるしく替わる個人投資家よりも、中長期的な戦略に基づいて投資をする機関投資家を重視したIR活動になるのは、やむを得ないことだった。

ところが、この流れが変わりつつある。アベノミクス以降の株価の上昇に加え、昨年から導入されたNISA(少額投資非課税制度)の影響で、個人投資家の保有期間が伸び始めたという。各種報道でも、トヨタが初めて個人向けIRイベントを開いたり、NTTが若年層投資家の開拓を進めたりと、個人投資家の長期保有を促す取り組みを企業が積極的に行っていることが伝えられるようになった。

専門的な知識を持つ機関投資家だけでなく、これから投資を始めようとする新たな個人投資家を囲い込むことも、企業のIR活動にとって重要な仕事になっている。長期保有をするファン株主の開拓は、株価の下支えにつながる。いかに個人投資家と対話し、理解をしてもらうのか、日本企業のIRに大きな変化が求められている。

金融庁と東京証券取引所は、日本版「コーポレートガバナンス・コード」を策定、今年6月から適用する予定だ。社外取締役を2人以上置く等、企業は対応に大忙しだが、この指針では株主との対話を促進させる情報開示も求められている。3月に、この流れに沿ってIRの強化を打ち出したファナックの株が急騰したように、株主も大いに注目していることがわかるだろう。

そこで今回の特集では、経営者と株主の関係を改めておさらいするとともに、株主との対話である企業のIR活動にも注目した。企業と株主の関係性にどう変化が起きているのか、検証してみたい。

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