2015年6月号より
「開かれた株主総会」のいま
経営者と株主の直接の接点の場になる株主総会。ひと昔前までは、“シャンシャン総会”で終わらせることがよしとされてきた。しかし、商法改正や時代の流れとともに「開かれた株主総会」が主流となり、長時間の総会が行われることもめずらしくなくなっている。企業側も1人でも多くの株主に出席してもらおうと、自社の商品や特製のお菓子、なかには社長との“記念撮影”が自由に撮れるといったものまでさまざまな株主特典を用意しているところもある。
しかし、こうした株主総会のかたちが変わりはじめたと話すのが、企業危機管理のコンサルと実務支援を行うエス・ピー・ネットワーク副社長の熊谷信孝氏だ。
「これまで、『株式投資ははじめて』『株主総会って何?』といった株主であってもどんどん総会に来てほしいという、対話型の『開かれた総会』を目指す企業が増えています。しかし、一方で、最近は、株主総会の意味などをよく理解していない一部の株主が、ネットの情報などを鵜呑みにして総会で発言するといった事例もみられるようになりました」(熊谷氏)
こうした株主が増えた背景にはSNSの影響があったのでは、と指摘するのが、同社の総合研究室の主任研究員の西尾晋氏である。
「このような株主が顕著に増えたのは、SNSが爆発的に増えはじめた3年ぐらい前から。ネット上では新聞記事やテレビ番組にツイッターやフェイスブックなどを通じてコメントを書くことが習慣化し、株主総会でモノを言うのも抵抗感がなくなったのではないでしょうか」(西尾さん)
そんななかで“名物迷惑株主”も登場しはじめているという。たとえば、大手企業や話題の企業に株付けをして、いろいろな株主総会にやってきては、いきなり議長の不信任動議を出すという株主だ。
「もちろん利益供与を求めたりしません。動議を出して自己アピールしています」(西尾氏)
こうした複数の企業を何社も回る迷惑株主は多くはないものの、どんな企業の株主総会にも現れる、企業にとっては困った株主がいる。そうした株主は、いくつかのタイプに分類できる。
▼「現役引退型・一家言株主」
団塊世代が定年退職後、退職金などで投資をはじめた人に多く、人生の先輩として経営陣にひと言、言いたいというタイプ。自らのビジネス経験やメーカーなどの技術者だった人が多く、上から目線で話すのが特徴である。
「経営陣にとっては役立つこともあって無碍にもできない面もあります。ただ質問なのか意見なのかわからず、話が長くなります」(西尾氏)
▼「売名型・自己アピール株主」
ネットの発達によって自身のブログやフェイスブックなどで株式批評をしているタイプで、プロまでいかないセミプロのような株主。有名になって雑誌などで原稿を書いたり、有料メルマガなどで収入を得ようとしている人もいる。
「株主総会は格好のアピールの場になるため、自説を滔々と語る人がいます」(西尾氏)
このタイプのなかには自身のブログやフェイスブックで「○月○日の××会社の総会に行きまーす」と予告。人集めをしようとする強化バージョンのタイプもある。
▼「クレーム型・ネチネチ株主」
店舗や支店の対応が悪い、なかには社員のミスなどのクレームを株主総会で経営陣に言うタイプ。
「本来であればお客さま相談室に言うようなことを、株主総会で言うものですね」(西尾氏)
こうした迷惑株主は、総会の時間を長くさせる原因になる。そのため企業側としては、議事進行を早めるために違った対策をとっている。
「開かれた総会ということで、株主質問を受けるようにしたところ、3時間、4時間やっても総会が終わらない。そこで、議題は議題として総会は終わらせ、その後、株主と経営者が交流する懇親会などを復活させて株主の意見を聞くようにする企業もあります」(熊谷氏)
発言株主の多様化への対応
一方、単に「迷惑」というひと言では済まされない株主も増えている。その1つが株主総会の場で内部情報を暴露して、経営陣の責任を追及する株主だ。
「社内の内輪もめのようなもので、たとえば労働組合、元役職員や創業家一族と現経営陣との確執など社内情報を暴露。こうしたトラブルで経営陣の過去の不祥事や失態など鋭く追及してきます。いずれの場合も会社の内部事情に精通しているため、対応の方法が難しく、結果、会社の信用などを毀損することもあります」(西尾氏)
こうしたことに対するには、1年以内に退職した社員や役職員をリスト化。退職の原因が社内トラブルであれば、それを把握して事前に対応するなどの準備が必要だ。
「元従業員などが、ブログやツイッターなどを通じて情報を集めて、総会でぶつけてくることもあるので、総会屋より捌きにくいケースもあります」(西尾氏)
このほかにも1人で多数の株主提案を行うというものもある。有名な事例が2012年の野村ホールディングスの株主総会で、「営業マンは初対面の人に自己紹介をする際に必ず〝野菜、ヘルシー、ダイエツトと覚えてください〟と前置きする」や「オフィス内の便器はすべて和式とし、足腰を鍛練し、株価4桁を目指して日々ふんばる旨定款に明記する」などの株主提案がなされたのだ。
またメディアの力を利用して、圧力をかけるものもある。
「たとえば6月に株主総会があれば、5月にメディアに注目されるような話題づくりをして、世論を利用しながら経営陣批判をするといったこともあります」(西尾氏)
このほかにもネット情報による真偽が不明な役職員の女性問題など、プライベートな質問をするといったものも少なくない。
こうした多様化する株主に対抗しながら、多くの善良な株主と対話していくためには、事前の情報収集とリハーサルは欠かせない。しかし、こうした事前対策を通り一遍のものにしたり、事務局が上層部の顔色をうかがって、厳しいリハーサルが行えないという企業も多いのが実態のようだ。
しかし、株主総会こそ企業姿勢が問われる舞台。その対応は、株主総会を取り巻く環境の変化にいかに対応するかという、まさに経営者のリスクセンスで決まるのだ。