ビジネス誌「月刊BOSS」。記事やインタビューなど厳選してお届けします! 運営会社

特集記事|月刊BOSSxWizBiz

2015年6月号より

わが社のIR戦略(1) アサヒグループホールディングス 総会は集中日外して午後開催 優待商品も“株主限定”を用意|月刊BOSSxWizBiz

IR優良企業大賞を受賞

石坂修・IR部門GM

昨年(2014)、アサヒグループホールディングスは、19回目を数える「IR優良企業賞」でユナイテッドアローズとともに大賞を受賞した。

応募企業は261社で、受賞企業の特徴として日本IR協議会では、(1)経営トップが投資家と質の高い対話を続け、それを経営戦略の策定や実行に活かしている(2)事業部門が積極的にIR活動に関わり、投資家からの理解を深めようとしている(3)中期経営計画策定の設定において持続的成長に向けてのロードマップを示し、資本効率向上や株主還元の姿勢も明確で、その進捗状況も適宜報告――の3点を挙げている。

まず、アサヒGHDのIR組織の変遷を振り返ってみよう。1999年に初めてIR委員会が設置され、当初は広報部内にIR室を設置。その後、後述する個人株主拡大プロジェクトが2003年にスタートし、11年には純粋持ち株会社化に伴ってIR部門として独立(社長直轄)。

「03年当時は株式持ち合い解消の流れがありましたので、大株主が売ってくる株について個人投資家に売り出しをし、単元株も下げて株主優待を始めてと、いくつかのプロジェクトが同時スタートした年。ですから、個人株主比率は一時的には18%ぐらいまで上がりましたが、いまは10%まで戻っています。株価が上がると個人投資家はある程度、売る傾向がありますからね」

語るのは、同社でIR部門ゼネラルマネージャーを務める石坂修氏。

2000年以降は連結決算制度の導入や四半期開示など、日本企業も欧米流の会計慣例に倣うところがほとんどとなり、その後も委員会設置会社や社外取締役の重要性も唱えられ、株主との向き合い方も以前とはずいぶん変わった。内外問わず、ファンド会社による株買い占め問題から買収防衛策なども日常風景化し、実際、ビール業界でもサッポロホールディングスがスティールパートナーズと対峙した過去もある。

そんな環境激変の中で、アサヒGHDもIR活動を強化してきた。その1つが前述した個人株主拡大プロジェクトだ(左頁下の表を参照)。表に挙げた5点のうち、(1)と④はほかの業界も含めて多くの企業で見られるところ。アサヒGHD独自の姿勢が打ち出されている(2)と(3)について触れておこう。

ビール業界では不動の首位を走るアサヒ。

「当社では07年から株主総会集中日を外し、さらに開催時間も遠方の方が来ていただきやすい時間からのスタートにしています。昨年の出席株主数が2893名、今年は3433名と過去最高でした」

ビールや飲料メーカーは12月決算のところがほとんどなので、株主総会は3月末に集中する。他社と比較してみると、キリンホールディングス、サッポロホールディングス、サントリー食品インターナショナルの3社はいずれも3月27日に開催し、開会時間も午前10時からだった。これに対してアサヒGHDは3月26日、しかも開会時間は13時から。集中日を外す企業はほかの業界でも見られるが、遠方の株主に配慮して午後から株主総会を開く例はあまりない。そこにもアサヒGHDが株主と真摯に向き合う姿勢が窺える。

同社が総会集中日を外した07年は、IR活動を、より積極化する意味でも大きなアライアンスがあった。この年、カゴメに10%を出資し、筆頭株主になったからだ。以前、あるマネー誌の編集長はカゴメについてこう語っていた。

「もともと、内需型のいわゆるディフェンシブ銘柄のカゴメは株主優待銘柄とも言われ、個人投資家を非常に大事にしてきた。株主交流会も行い、それをメーカーと消費者をつなぐダイレクトマーケティングの場と捉えており、会社側も“ファン株主”と呼ぶ。ファンだから長期保有でちょっとやそっとでは株を売らない。中堅の内需銘柄なので売買の激しい外国人株主も多くないから株価変動が大きくないのです」

確かに、カゴメは外国人持ち株比率が2.8%しかない。一方、浮動株は39.9%もあるが、こうした企業は他業界を見渡しても少ない。前述の石坂氏も「個人投資家向けの対応では最初の頃、カゴメさんからいろいろ学ばせていただいた」と言う。

さすがにアサヒGHDの場合、企業規模が違うだけに外国人持ち株比率は28.7%、浮動株は7.2%だが、株主優待では単なる自社商品の詰め合わせでなく、“株主様限定特製ビール”を用意するなど、個人投資家の心をくすぐる一ひねりが加えられている。実際、「この商品が届くのが楽しみ」という株主のネット掲示板への書き込みも散見された。

業績、株価とも右肩上がり

東京・墨田区吾妻橋のアサヒGHD本社ビル。

前述したようにアサヒGHDのIR部門は泉谷直木社長の直轄だが、同氏は過去、オールラウンダーといえるほど広範囲な部門を歴任したこともあり、同社全体を俯瞰する力に長けているのも大きいだろう。

「99年、広報部内にIR室をつくった時、泉谷は当時の経営企画部長でした。IRを積極的にやろうと、部長時代から取り組んできたわけです」と石坂氏。さらにこう続ける。

「投資家の満足を最大化するという点では、適正株価と実勢株価が一致する、さらに適正株価自体が向上していくのが投資家の満足につながるという考えをベースに取り組んでいます」

株主還元に関しては、連結配当性向で30%をメドに安定的な増配を目指すとし、総還元性向では50%以上をメドに機動的な自社株買いを実施するとしている。こうした施策は基本、業績が伴わなければ実施し続けるのは難しいが、アサヒGHDは最高益更新と業績も好調で、特にここ5、6年は絵に描いたように毎期毎期、着実に増収増益を続けている。これに株価も連動し、12年末には2000円に届かなかった株価が、アベノミクス効果もあるとはいえ、去る4月10日時点で4178円と年初来高値をつけた。

では、今後の課題は何か。

「非財務情報もきちんとご説明して、中長期の価値向上についてディスカッションできればいいなと。決算が四半期開示になってからはどうしても短期的な指標が目立ちやすいのですが、中長期での理解を深めていただく。それと国内市場が成熟して、成長株としての位置づけとなると少し弱い部分は否めないので、5年後、10年後も安心して当社の株を買っていただけるような事業ポートフォリオ、成長基盤をつくることが重要になりますね」

インターネットから情報を素早く、かつ豊富に入手できる時代になったこともあり、いまや個人投資家の情報収集力は機関投資家にひけをとらないレベルの人も増えている。機関投資家と個人投資家の垣根が低くなっている分、企業は個人向けのIR活動にも一層の強化が必要になるわけで、その点でもアサヒGHDの取り組みはお手本の1つと言っていいだろう。

(河)

経営ノート | 社長・経営者・起業家の経営課題解決メディア

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

 

0円(無料)でビジネスマッチングができる!|WizBiz

WizBizセミナー/イベント情報

経営者占い