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2015年6月号より

ワイドショーを騒がせた株主バトル ホリエモンに村上ファンド 繰り返される「経営者vc.株主」|月刊BOSSxWizBiz

和製「モノ言う株主」

3月にIRの強化を打ち出し、4月1日付でSR(シェアホルダー・リレーションズ)部を設置したファナック。株価が急上昇して市場の注目を集めたが、その背景には日本版「コーポレートガバナンス・コード」があったことは知られている。積極的な情報開示と株主との対話が盛り込まれたこともあり、デイスクロージャー評価を高める必要性があったからだ。

一方で、ファナックの姿勢の変化に少なからず影響を与えたと言われているのが、米投資ファンドのサード・ポイント。「モノ言う株主」として知られるダニエル・ローブ氏が率いる同ファンドは、2月にファナック株を取得したことを表明。株主還元政策を意見するとともに自社株買いを求めたという。3月13日付の日本経済新聞には稲葉善治社長のインタビューが掲載され、増配や自社株買いを検討すると報じられた。サード・ポイントと対話する意向であることも述べられている。

実際、サード・ポイントがファナックの方針にどれほどの影響を与えたのかは定かではないが、モノ言う株主の存在は経営陣にとって無視できないものだ。

モノ言う株主と言えば、外資のヘッジファンドが頭に浮かぶが、和製モノ言う株主と呼ばれた村上世彰氏も印象深い。M&Aコンサルティングを中核とした通称「村上ファンド」が世に知られるようになったのは、アパレルメーカー東京スタイルの株式を取得してからだろう。

2002年に東京スタイル株9.3%を取得して筆頭株主となり、ファッションビル建設の中止や自社株買い等の株主提案を提出。プロキシーファイトを仕掛けた。村上ファンドは発行済み株式の12%まで買い増ししたが、結果的に敗北している。

しかしながら、東京スタイルが標的になった理由が、売上高625億円の企業が1280億円の内部留保資金を保有していたことにあったため、「株主利益」についての議論を起こした事件でもある。会社は誰のものかを問うきっかけになったともいえる。

村上ファンドはその後も日本フエルト、住友倉庫、タカラ、大阪証券取引所等々、様々な業種の企業に株主提案を行い、株主利益について訴えている。なかでも世間を賑わせたのが、プロ野球阪神タイガースの上場提案だった。

村上世彰氏(左)と堀江貴文氏。2人の存在は、甘々だった日本企業に経営と所有を考えるきっかけをつくった。

05年9月に阪神電鉄株を26.67%保有した村上ファンドは、さらに買い増しを続け、10月には38.1%にまで上昇、株主総会決議の拒否権を得るに至った。そこで提案されたのが、阪神タイガースのヘラクレス上場だった。

阪神電鉄経営陣は村上ファンドの買い占めについて「存亡の危機」と表現した。しかし、球団上場の是非の議論は、世論を二分するほど白熱した。実際に海外ではプロスポーツ球団が上場企業として運営されているケースもあり、市民球団化の流れとして、上場も一つの方法という認識が広まったのも事実だ。

翌年5月には、村上ファンドの保有株式が46.82%まで増え、経営権を握る寸前まで近づいたが、阪急ホールディングスが阪神電鉄との経営統合を前提にTOBを仕掛け、対抗。ところが、時を同じくしてニッポン放送株の取引において村上氏のインサイダー疑惑が浮上し、6月5日に逮捕、勾留されることになった。村上氏が代表を辞任したことで、ファンドも阪神電鉄買収を断念、TOBに応じて阪神電鉄株をすべて阪急HDに売却している。同年10月には阪急阪神ホールディングスが誕生。私鉄再編の引き金となった。

本誌のインタビューで村上氏は、
「(球団が)上場するしないではなく、どうやったらもっとお客様を引き入れることができるか、それが大事なんです。そのためにどうするか、阪神電鉄にはもっと考えてほしい、というのが親会社の株主としてのメッセージ」(06年1月号)
と語っている。この騒動のなか、阪神電鉄側も株主軽視の経営が批判され、企業価値向上と株主利益が改めて問われることになった。

資本のねじれを突く

村上氏が逮捕されるきっかけになったニッポン放送株の売買は、堀江貴文氏率いるライブドアが主役を演じていた。05年当時、フジサンケイグループはフジテレビを中心に運営されていたが、その筆頭株主はフジテレビよりもはるかに経営規模が小さいニッポン放送という、いびつな資本関係になっていた。そこに目を付けたのが村上氏であり、堀江氏だった。

この資本のいびつさを解消するためにフジテレビがニッポン放送株のTOBを発表したのが05年1月17日。それからわずか3週間後にニッポン放送株の35%を持っていたのがライブドアだった。村上ファンドも18.5%を取得しており、ここから3カ月にわたって経営権を巡る抗争が始まった。

3月16日、ライブドアは49.8%を保有するに至った。ニッポン放送も新株予約権の発行等で対抗しようとするが、東京地裁はこれを差し止め、ライブドアのニッポン放送支配がより現実的なものになる。当時の状況をニッポン放送関係者はこう語った。

「あの3カ月は精神的にも非常に厳しい期間でした。堀江氏たちも実際にニッポン放送にきて、経営幹部と交渉をしていた。あまり大きな会社ではないので、その雰囲気が伝わってくる。ニッポン放送はメディアにもかかわらず、情報が一番に入ってくるわけでもなかった。いま思い出してもつらい。当時を知る社員は、堀江氏の顔も見たくないという人が多いのではないか」

3月24日、ニッポン放送の持つフジテレビ株を北尾吉孝氏率いるSBIに貸し出すという奇策で状況が一変する。最終目的がフジテレビの支配だったライブドアは、ニッポン放送の経営を握る意味をなくしてしまう。“ホワイトナイト”北尾氏の登場は堀江氏にとって「想定外」だった。結局、ライブドアとフジテレビは和解し、資本のねじれも解消した。

経営は株主の気持ち次第でどうにでもひっくり返される。敵対的TOBというリスクを世に知らしめた事件だった。

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