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2013年1月号より

国内“ビッグ3”の株価対決 決算発表で見えたトヨタの「強さ」ホンダの「弱さ」

情報管理に甘さ

10月29日、ホンダ広報から記者にプレスリリースのメールが届いたのは正午過ぎのこと。件名には「2012年度第2四半期連結決算について」とあった。開いてみると、確かに決算情報へのリンクが記載されていた。この日は決算会見が予定されていたが、通常、情報解禁は株式市場が閉じる午後3時以降のはず。会見の前にWEBで公表するのは異例で、理由なき繰り上げ発表に首をひねるばかりだった。

午後3時10分に始まった決算会見の冒頭、ホンダは決算会見資料を予定より早くホームページに掲載するという、人為的ミスがあったことを公表、陳謝した。

本来は従来どおり証券取引所の取引終了後、東証の適時開示システムなどを通じて開示、その後ホンダのWEBサイトにあるIRコーナーで掲載予定だったが、担当者が誤って午前10時半に掲載する操作を行ったのだという。誤りに気づき、20分後の10時50分に決算資料を削除したが、この間に54件のアクセスがあった。ホンダはこのミスを東証に報告。東証からは速やかに開示するよう指示を受けた。これによりホンダは情報開示を正午に繰り上げ、プレスリリースとして各所に通知されたのだった。

幸いにも閲覧可能だった間の株取引に目立った変化はなかったと見られるが、中国の反日デモを受けて注目されていた決算発表だっただけに、場合によっては株価に大きな影響を与えた可能性もある。ちなみにこの日の午後の取引では、業績の下方修正を受けて、一時は前営業日終値から146円安の2370円まで急落。ミスの発覚が遅れていたら、情報を知り得た投資家とそうでない投資家に不公平が生まれ、大きな問題になっていただろう。ホンダの情報管理の甘さが露呈した一件だった。

さて、そのホンダの投資対象としての評価はどうなのだろうか。

「トヨタ、日産、ホンダの3社で比べると、ホンダの弱さというのが第2四半期決算の発表で表れています」

こう語るのはモーニングスター報道部の片岡利文氏。基本的には自動車は買っていい銘柄としつつ、そのなかで買いやすさを求めると、3社のなかではホンダが一歩遅れているのだという。

2011年から12年にかけての3社の株価推移をみると、同じような動きをしていることがわかる。

「11年の8月に米国債の格下げショックがあって、この時は日経平均も下がり、ほとんどの銘柄が株価を下げました。その後9月半ばにタイで大洪水が発生し、再び値を下げました。業績予想を未定に切り替えた10月に出つくし感があって値を上げ、年が明けてタイ工場を再開すると、通期予想で大幅修正をしたにもかかわらず、株価は上昇に転じています。


株式市場は実際の経済とは違いますので、影響の規模が見えない時が一番怖くて売ってしまう。業績への影響がはっきりすると、その数字によほどのインパクトがない限りは、買われるケースが多くなります。

反日デモが発生した12年9月半ばは3社とも大きく売られましたが、第2四半期決算で下方修正を出しても、その週のうちにはほぼ戻していることからもわかります。その意味では、反日デモから順調に回復しているという流れになれば、もうここは買いなのかなという感じです」

タイの洪水ではホンダが最も影響を受けたことで、大きく下げ、中国問題では日産の規模が大きかったことで、他の2社より大きく下げているなど、個別影響の違いはあるが、株価全体の動きとしては3社ともほぼ同じだ。

「反日デモによって実際に販売が減り、業績に影響した部分はありますが、今回の業績修正でそれは織り込み済みですから、順調に客足が戻れば、株価は上がるだけになります。

というのも、05年に小泉首相(当時)の靖国参拝から反日デモが起きましたが、その時と今回の日経平均の動きは同じです。一度ドンと落ちて、その後は何事もない。株式市場の独特の傾向ですけれども、規模が見えない段階が一番底を打つ。影響がはっきりすれば、回復に入る。ですから実際の日中情勢はともかく、株価としてはかなりポジティブに捉えられています」

それではなぜホンダが弱いのか、その理由は中国市場以外のところによっている。

「この3社を比較した時に、トヨタだけが利益を上方修正して、ホンダと日産は下方修正でした。ここで注目したいのが為替レートです。トヨタが80円から79円、日産が82円から79.7円と円高に想定して、言ってみれば業績へのハードルを高くしたわけですが、この部分は実質的な上方修正とも捉えられるわけです。ホンダは80円で据え置きでした。現在の1ドル=79円台という為替状況がつづけば、トヨタはプラス要因に、ホンダはマイナス要因になります。ホンダは下方修正をして、かつ想定レートも変えなかった。日産はハードルを上げたうえでの下方修正。トヨタはハードルを上げつつ、上方修正ということを考えると、順番としてはホンダが一番厳しいということになります。

ちなみに、PERではホンダが20倍、日産が8倍、トヨタが34倍(11月13日現在)ということを考えると、日産に割安感がありますね」

軽の好調は反映されず

ホンダと言えば、「N BOX」で軽自動車が絶好調だが、不思議なことに株価には反映されていない。株価に影響するのは海外の出来事ばかりになっている。

ホンダの決算会見は謝罪から始まった。岩村哲夫・ホンダ副社長。

「市場の見方としては、軽や小型車がどんなに売れようが『でも利益率は下がっているんですよね』という解釈です。軽が売れたからといって、株価が跳ね上がることはないでしょう。
まずアメリカ市場の影響が大きいと思います。今回の中国の問題も影響は出ましたが、むしろ新興国の伸びに注目しています。国内で売れても、3社のパワーバランスに影響が出るほどでなければ、株価は動かないでしょうね。ホンダにかぎっていえば、アナリストが見ているのはアメリカでの売れ方です。収益がアメリカに偏っているぶん、ここでの動きで株価が左右されます。
いま一番買いやすいのは日産。次にトヨタ、ホンダの順だと思います。実はタイの洪水や反日デモなど、会社の力量とは別に不当に売られた時は、チャンスなんです」

電機をはじめ重厚長大産業が業績を落とすなか、日本版ビッグ3はその強さを際立たせるようになった。少々の悪材料が出て株価が下がるようなことがあっても、海外に成長の軸を移し、利益を出せる体質づくりができているため、再び上昇してくる。

3社比較ではホンダに辛口となったが、通期見通しで営業利益5000億円を稼ぎ出す優良企業であることには違いない。トヨタ・日産・ホンダで割安感を感じた時には買っていい銘柄だと言える。

(本誌・児玉智浩)

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