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特集記事

2012年12月号より

注目はパルコ、成城石井 PBが急伸して大再編も

ダイエーは営業赤字に

「イオングループは、ハリケーンのように企業を自陣営に巻き込みながら大きくなってきた感じですね」

流通業界関係者が語るこの言葉の通り、イオンはこれまで数多くの企業買収や資本参加を重ねてきた。1990年代はドラッグストアとの資本提携程度だったが、2000年以降、流通大再編時代に入ると一気に規模拡大に邁進する。

資本参加を含めると、ヤオハンを皮切りに、カスミ、マイカル、いなげや、カルフール・ジャパン、オリジン東秀、マルエツ、最近で言えば、パルコ、中国・四国で食品スーパーを展開するマルナカ、関東近県を中心に食品スーパーを展開するテスコジャパンなど。

この中で、丸紅とともに大株主になっているダイエーは規模が大きい。ダイエーはピーク時、売り上げが2兆5000億円を超えていた時期もあったが、その後、不採算店舗のリストラもあって、いまでは売り上げが8600億円程度。今年上半期決算でも、総合スーパーが総じて苦戦したこともあり、ダイエーは営業赤字に陥っている。

「ダイエーを獲ったのは、防衛的な意味合いが強かったですからね。当時、ウォルマートがダイエーを狙っていたし、規模だけで見ればダイエー、西友以外の出物はもうそんなにないでしょうから。それとダイエーの場合、地主との店舗物件の契約がものすごく複雑で、当初描いていたような大胆な店舗クローズがあまり進まなかったのではないか」

冒頭の業界関係者はこう語る。確かに、首都圏を強化したいイオンとしては、ダイエーより、むしろ西友のほうが地域補完も強かったといえる。ウォルマートが、このまま将来にわたって西友をずっと保有し続けるかどうかは、わからない。仮に、もし手放すようなことがあれば、イオンが動き出す可能性はゼロではないだろう。

パルコ株の保有も関係者の関心が高い。パルコの筆頭株主だった森トラストの持ち株を、大丸松坂屋百貨店を傘下に置くJフロントリテイリングが譲り受け、その後65%まで株を買い増して子会社化したからだ。さらに、昨春に10%までパルコ株を買い増していたイオンがどう出るのか注目されたが、持ち株を売却する気配はいまのところない。

「百貨店の中で最も強く脱百貨店を掲げ、商業テナントビル的な割り切りを見せるJフロントは、同様に専門店からのテナント収入アップに力点を置くイオンとは、親和性があるでしょう。場合によっては、イオンとJフロントがタッグを組むことだってあり得ない話ではない」と見る業界関係者もいる。

もう一社、流通業界で関心が高いのが、高級食品スーパーを展開する成城石井だ。独立系だった同社は「牛角」を展開するレックスホールディングスに買収されたが、その後、レックスが経営難から手離し、三菱商事系ファンド会社の丸の内キャピタルが400億円で買収した。成城石井は、首都圏の所得層が比較的高いエリアに店舗が多く、近年は駅ナカにも積極的に出店してきた。あるアナリストはこう語る。

「鍵になるのはイオンリカーでは。イオンは、傘下のやまやというディスカウント酒屋とで、コルドンヴェールというワインの輸入卸をやっている。やまやはサントリーに次ぐ輸入ワインの二番手で、実績もあります。成城石井は独自のワインを展開していますが、ボリュームがない。補完性は高いと思いますね」

左上から時計回りに、オリジン東秀、ダイエー、マルエツ、過去、マイカルが出店していたサティの各店舗。


消費税増税で大淘汰に?

一方、ライバルのセブン&アイは、そごう、西武百貨店を買収したこと以外では過去、米国のセブン-イレブンインクを“逆買収”した案件こそ大きかったが、そのほかはイオンと違って慎重だ。ただ、行方が注目されている事業はある。前稿で、セブン&アイはカードビジネスでイオンに見劣りすると触れたが、金融業界関係者の間ではこんな観測も。

「セブン&アイの本音としては、(流通系最大のセゾンカードを発行する)クレディセゾンが欲しいでしょう。クレディは旧セゾングループで、同じグループだった西武百貨店がセブン&アイ傘下に入ったことで“ねじれ”が生じた。セブンとクレディとで、提携カードも出していますが、セブンは本音では飲み込みたいはず。ただ、独立路線を守ってきたクレディとしては、それはできないということでしょう」

さらに、小売業に影を落とすのが再来年以降、二段階で税率が引き上げられる消費税だ。いまの消費環境や収入の伸び悩みはもちろん、電機業界を中心にリストラで職を失う人も増えている状況では、とても税率アップ分を価格に上乗せすることはできない。となると、メーカー、卸、小売業の3社がマージンを削り合って価格据え置きに走る構図が想定される。そうなると、生産から販売までトータルでコストセーブをしなければならず、相対的にプライベート・ブランド(以下PB)の存在感が増す。

となると、セブン&アイの「セブンプレミアム」、イオンの「トップバリュ」という二大PBに、スケールメリット、あるいは商品開発力からいっても、ほかの小売業は太刀打ちできない。つまり、黙っていても消費税アップのインパクトで業界再編が始まるとみていいというのだ。プリモリサーチジャパンの鈴木孝之氏はこう語っている。

「これまでのPBは食品や衣料品がメインでしたが、住雑貨など、あらゆる商品カテゴリーにPBが拡大していくことになるでしょう」

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