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2012年12月号より

イオンバイク発足の意味

総合スーパー(以下GMS)という言葉が死語になりつつある。たとえば15年前のGMS大手の決算を見ると、売り上げ首位はダイエー、以下、イトーヨーカ堂、ジャスコ、マイカル、西友、ユニーの順だった。それがいまはどうか。ジャスコ、イトーヨーカ堂はそれぞれイオン、セブン&アイ・ホールディングスという純粋持ち株会社(移行はイオンが2008年、セブン&アイが05年)となり、ともに売り上げで5兆円を超える流通コングロマリットになった(ただし利益水準や財務力ではセブンが大きくリード)。

一方、ダイエーはイオン陣営となり、マイカルに至ってはイオンに吸収されていまや社名では存在しない。西友は米国ウォルマート傘下で“合同会社”となり、大きく離されてユニーが存在しているだけだ。これだけでもGMS受難の時代が窺えるが、イオン、セブン&アイという巨大企業に集約されてもなお、両社ともGMSの立て直しには苦慮している。実際、両社の上半期決算(12年3~8月)は、GMS事業が足を引っ張る構造が鮮明だった。

また、事業分野が7つで、圧倒的な収益力を誇るセブン‐イレブン・ジャパン擁するセブン&アイは、グループの事業や収益構造が比較的わかりやすいが、イオンの場合は12事業分野(右の表を参照)あり、セブン‐イレブンのような圧倒的な事業がないので、収益構造がいま一つわかりにくい。ゆえに、業界関係者からは「セブンは蒸気機関車型、イオンは電車型」と称されたり、社風の違いから「セブンは日本的で完璧主義。イオンはアメリカンで、コンセプトが固まったら突き進むスタイル。イオンがGMSを朝7時から営業できたのも、自前の物流センターを持つなどサプライチェーンを重視してきたからで、他社には真似できない」といった指摘も聞こえる。

話を戻すと、両グループのGMSの改革、というより“解体”はスタイルが異なる。

最近、大きな話題になったのはセブンのほうだ。イトーヨーカ堂が今後3年で正社員数の半減に踏み込み、パート比率を9割まで高めることでGMS再生に挑むというもの。削減する社員は、稼ぎ頭のセブン‐イレブンの店舗オーナーや、店舗を後方支援するフィールド・カウンセラーなどへの転身も多くなりそうだ。

最大最強コンビニを持つセブン&アイだからこそ、多くの社員の受け皿たりえるわけで、大胆な“建設的リストラ”ともいえる。ただ、経費構造はこの施策によって劇的に改善されそうだが、ヨーカ堂再成長への道筋はまだ見えにくい。10月4日の中間決算発表の場で、セブン&アイの村田紀敏社長兼COOはこう語っていた。

「ヨーカ堂は立地に関しては駅前商業地が多く、決して悪くない。要は、ファッションやバラエティ系の品揃えが弱いのではないかと。その弱さを補完するために、グループのロフト、タワーレコード、赤ちゃん本舗などのテナントも組み合わせていくが、さらに集客力ある品揃えで売り場効率を上げたい。

また、今後の新規出店に関しては、曳舟店(東京・墨田区)や武蔵小金井店(東京)のような、よほど人口密度が高く集客で抜き出た店でない限り、アリオタイプになっていくと思う」

アリオというのは、ヨーカ堂が開発・運営するショッピングセンターで現在、13拠点ある。そのショッピングセンターやモールと言えば、イオンが先駆けてきた業態だが、イオンではイオンモール、それにイオンリテール(GMSを運営)と、別会社にして業態を分けてきた。イオングループの特徴は、こうした分離・独立していく会社数が、セブン&アイに比べて多い点にもある。

売り上げ規模で小売業日本一のイオンは、GMS解体の道を独自の路線で進めている。

1カ月前の9月21日、全国紙に「イオンバイクはイオンから生まれた自転車専門店です」というコピーで始まる全面広告が目を引いた。告知文には「2015年までに1000店舗に拡大する」とある。健康志向や環境意識の高まりから自転車ブームであるのは事実だが、“イオンバイク株式会社”まで設立したところに、イオンの力の入れようが伝わってくる。

そして、このイオンバイクこそが、イオン流のGMS解体への第一歩になるというのだ。解説するのは、プリモリサーチジャパン代表の鈴木孝之氏。

「GMSの売り場の専門店化をさらに進め、事業の将来性があるものはスピンオフして子会社にし、本体から切り出していく。で、当該ジャンルの専門企業と競争しなさいと。イオンバイクはその第一号案件なのです。自転車なら売りっ放しでなく、パンク修理などのアフターマーケットも見込めます。同じようにイオンリカー、つまりアルコール全般もやがて一元化して事業会社化するでしょう。さらにイオンペット(ペット葬やペット病院、ホテルなど)という形も出てくると思います。

秋冬物の衣料品が並ぶ、トップバリュコレクションの売り場。

ただ、そういう専門店子会社を自前のGMS内に出したのでは意味がない。モールゾーンに出店していくのです。したがって、食品スーパーはなくならないけど、GMS内の衣料品や住雑貨といった分野は縮小していく。イオンは元々、かなり早い段階で『GMSの時代は終わった』という認識をはっきり言ってました。その点をグループで共有して、専門店化の明確な方向を歩み出したのは、まだ最近だったのも事実ですが」

GMSのような業態は高度成長期にはフォローの風だったが、経済が成熟化してくると、カテゴリーキラーと呼ばれる専門店が台頭し、GMSの売り場が侵食されるのは、米国がいい教訓事例になった。いまでは系列の食品スーパー以外に、イオンならば、まいばすけっと、セブン&アイもミニ食品スーパーに力を入れ始めるなど、小商圏での顧客奪い合いになってきている。

GMSは、やはり縮小へ

プライベートブランドで代表格なのが格安ビールだ。

鈴木氏は、「イオンは出店と閉店、つまりスクラップ&ビルドを恒常的に行ってきた」と言う。郊外型の巨大モールを数多く展開してきたイオンだけに、モールのテナントの入れ替えが、この不況下、虫食い状態にならないかという疑問も湧くが、「だからサービス的なスペースが増えている。高齢社会になると、物販にはそうお金を使わなくなるでしょう。スポーツジムや習い事などにテナントスペースが使われていくようになるのです」と鈴木氏。

確かに、今春オープンしたイオンモール船橋(千葉県)は、その実験モールともいうべき存在だ。イオンではシニア世代と呼ばず、グランドゼネレーションという表現をしているが、同モールでは国内で初めて、“クリニックモール”を展開し、13の診療科目を1カ所の受付でできるようにした。

イオンではほかにも、結婚情報サービス会社のツヴァイを擁し、近年は葬儀サービスにも参入。葬儀業界はとかく、料金の不透明さが指摘されてきたが、イオンはそこに風穴を開けた。婚活もエンディングの終活もということで、仮にセブン&アイにおける赤ちゃん本舗のようなベビー市場のビジネスも手がけたら、まさに“ゆりかごから墓場まで”だ。

イオンのGMS解体のもう1つの形が、来年3月をメドにディベロッパー事業を再編することだ。これまで、ショッピングセンターなどの開発・運営を手がける機能はイオンモール、イオンリテール双方にあったのだが、そのディベロッパー機能をイオンモールに片寄せするのだ。

鈴木敏文・セブン&アイHD会長(左)と岡田元也・イオン社長。

これによって、二つの側面が見えてくる。ディベロッパー機能がはがされることで、イオンリテールはGMSだけに“純化”するということになり、GMSの縮小路線を早めることもできる。一方で、イオンの幹部自身、「営業利益ベースでは、ディベロッパーと金融事業の構成比が高くなり、また強化している事業」と語るように、この二つの事業がこれからの利益の柱になるのだ。

ディベロッパー事業は、平たく言えば誘致したテナントから上がる家賃収入であり、こうした不動産収入も広義の金融ビジネスと捉えれば、将来のイオンは、小売業も手がけている総合金融会社という姿に近いかもしれない。次頁以降で、その金融ビジネスを皮切りに、GMS以外の主要事業を、セブン&アイとの比較を交えながら見ていこう。

(本誌編集長・河野圭祐)

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