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特集記事

2012年12月号より

将来は証券会社も? 「総合金融」へシフト

“非小売業”化の加速

「イオンだけでなく、セブン&アイもそうですが、利益面から見れば明らかに“非小売業”化しつつある。ディベロッパー事業や金融事業は、これからもどんどん大きくなるでしょう。企業集団が大きくなってくると、財閥グループがそうですが、必ずといっていいほど銀行業務が入ってきます。

小売業は地道な利益しか上げられませんが、金融業は悪い時もあるけど、いい時は収益が一気に増えるじゃないですか。小売業とは、その増益角度が全然違いますから」

ある流通業界関係者はこう語る。確かに、銀行に限らず小売業にとって金融ビジネスを広げることは、顧客囲い込みの基盤を拡大する上で大きな武器にもなる。その点、銀行、電子マネー、クレジットカードすべて自前で持っている流通グループは、イオンとセブン&アイぐらいしかない。

特に、セブン銀行の場合はATM(現金自動預払機)に特化した、世界的にも例のない“身軽な”銀行の上、1万4500店を超えるセブン-イレブンというインフラもある。さらに、この10月には米国の大手ATM運営会社を約100億円で買収。海外送金サービスに続いて、アジアを軸にした海外での本格展開にも布石を打った。セブン銀行の今期(2013年3月期)純利益見込みは187億円、営業利益なら305億円と、完全にコンビニに次ぐ稼ぎ頭になっている。

一方のイオン銀行。セブン銀行に6年半遅れて5年前の07年10月に営業を開始した(経営破綻した日本振興銀行の受け皿としてイオンコミュニティ銀行も設立。同行は今年3月末にイオン銀行本体に吸収)。こちらは住宅ローン事業なども展開、ほかのネット専業銀行と預金金利でも競争するフルバンクだ。ゆえに、セブン銀行ほどの高効率経営というわけにはいかない。それでも開業以降、赤字幅は年々縮小し、前期で42億円の純利益、今期は同70億円を見込んでいる。

そのイオン銀行と、株式を上場しているイオンクレジットサービスが来年4月に経営統合し、新設の中間持ち株会社、イオンフィナンシャルサービスの下にぶら下がることになる。両社の純利益見込みの単純合算は、約200億円に迫る計算になるが、イオンクレジットの神谷和秀社長は中間決算発表の際、「なぜ合併でなく中間持ち株会社という選択なのか」という問いに対し、こう語っていた。

「確かに合併という選択肢もあるが、今回のやり方が最もメリットが大きいと判断した。クレジットカード会社の強みはローコストオペレーション、銀行の強みは預金口座。この組み合わせよりも、中間持ち株会社の下に、電子マネーや保険、将来は証券といったサービスも置き、総合金融サービスにしたほうがユーザーメリットが高いと思う。また、順調に推移すれば16年度に、銀行とクレジットカード会社で、計800億円ぐらいの営業利益になるのではないか」

銀行とクレジットカード会社とでは調達金利に差があり、銀行のほうが有利なのは言うまでもない。また、海外での信用力という点でも、経営統合して中間持ち株会社にしたほうが、何かとメリットは大きい。

一方、ともにサービス開始が07年4月だった電子マネー事業では、イオンの「ワオン」がセブン&アイの「ナナコ」を、発行枚数や利用可能拠点数でかなりリードしているものの、決済件数ではナナコに軍配が上がる。これは、やはりセブン‐イレブンという最大手コンビニを擁している点が大きく効いているのだろう。

自前のREITも設立へ

イオン銀行の店舗カウンター。同行は来春、イオンクレジットサービスと経営統合し、イオンフィナンシャルサービスの傘の下に入る。

セブン&アイが劣勢な分野もある。クレジットカード事業だ。今年上半期の8月末時点で、発行枚数はセブンカードが329万枚、クラブ・オン/ミレニアムカードセゾンが312万枚で、計641万枚。一方のイオンカードは2158万枚と、その差は大きい。前出の神谷氏は、「2100万枚超えのうち、イオンカードセレクト会員はまだ172万人で、全体の10%にも届いていない。キャンペーンも活用して、早期に会員数を増やしたい」と語っていた。

イオンカードセレクトというのは、1枚で電子マネー、キャッシュカード、クレジットカードの3機能を備えたもので、顧客囲い込み上、イオンとしては当然、このカードを増強したい。そのため、今夏から向こう1年、イオン銀行における普通預金金利を通常の6倍、0.12%とした。これは、大和ネクスト銀行や住信SBIネット銀行と並ぶ、業界最高水準だ。

ただし、その会員を増やしていくためには首都圏、特に激戦区の東京エリアで、イオングループの店舗をもっと増やす必要がある。というのは、たとえば、あるイオン幹部が住む東京郊外の沿線にも、イオンのショッピングモールがほとんどない。来年、近隣駅周辺でようやく一つモールができそうだが、前述の3機能付きカードを使うシーンは乏しかった。

順次強化しているものの、イオンの首都圏マーケット攻略はまだ道半ばで、当然、ディベロッパー事業は今後も拡大していく。ちなみに、連結営業利益ですでに2割以上を同事業で稼いでいる状況だ。

これまで、イオンの旺盛なモール展開を後押ししてきたのは、同社の筆頭株主(といっても5%)である三菱商事だった。三菱商事とUBS(スイス)の共同出資による、商業施設特化型の不動産投資信託(REIT)、日本リテールファンド(以下JRF)がそれだ。

JRFは、イオングループのショッピングセンターを中心に資産運用を行い、それがイオンの資産のオフバランスにもなって、モール展開を加速させる原動力になってきた。ただしリスク分散を考えれば、JRFとしてはイオン関連の物件ばかり抱え込むのは得策とはいえない。

そんな中、イオン自ら、敢えてJRFと競合するREITを立ち上げるべく、準備に入っている。業界関係者の中には、「JRFだと、三大都市圏や政令指定都市の郊外までがカバー範囲なのに対し、イオンはもっと小さな地方都市でも果敢にモールを展開してきた。そうした物件を抱え込まず、自社REITに保有物件を売却することで、イオン本体は身軽になりたいのでは。ただ、個人投資家にとってどこまで妙味のあるREITになるかは、また別問題でしょう」という指摘もある。

イオンにとっては資金調達と財務基盤改善の両面でメリットがあるが、確かに、投資家、特に個人向けでどこまで魅力を出せるか。空きテナントの懸念がより強い、地方のモール物件も組み込まれるだろうからだ。そうした不安をカバーするために、イオンの利用者でREITホルダーになった個人投資家には、前述のイオン銀行やイオンカードで特典を付与していくといったことも考えられるだろう。

その延長で見ていくと、前述の総合金融サービス会社を志向した中間持ち株会社設立計画は、事業もかなり幅広いものになっていきそうだ。投資という観点からいえば、この8月の上半期決算から、ようやく中間配当も始まった(これまでは期末配当のみ)。その割には、10月前半時点での株価は冴えないが、自社REITがディベロッパー事業と金融事業の結節点にもなり、イオンの収益構造はさらに大きく変わっていくことになる。

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