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特集記事|月刊BOSSxWizBiz

2015年11月号より

気がつけば、世界音楽市場の2強 定額課金とライブで次の領域へ|月刊BOSSxWizBiz

4分の3に減少した売り上げ

前稿でも記したように、ソニーのエンタ事業の原点は音楽事業にある。CBSレコードから話をもちかけられ、合弁でCBSソニーを設立したのが1968年。すでに47年前のことだ。

素人集団が始めた音楽ビジネスだったが、従来のやり方にとらわれない柔軟な発想によって、わずか10年で日本一のレコード会社になった。88年にはCBSレコードを買収したことで、ソニーは全世界に音楽事業を展開することになった。そうした経緯もあり、現在でもグローバルなビジネスと日本のビジネスとは、それぞれソニー100%出資の別会社で行っている。(社名はともにソニー・ミュージックエンタテインメントだが、米国に本社があるグローバル法人をSMEI、日本法人をSMEJと表記する)

マイケル・ジャクソンやボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーンなどのスーパースターが、SMEIから楽曲を発売している。最近では、ジャスティン・ティンバーレイクやファレル・ウィリアムス、アデルやP!NK、ビヨンセ、ワン・ダイレクションもSMEIの一員だ。

日本国内では、古くは南沙織にキャンディーズ、山口百恵など。最近では西野カナや乃木坂46、JUJUや加藤ミリヤ、いきものがかりなどが人気を集めている。

前3月期におけるソニーの音楽分野の売り上げは5592億円、営業利益は606億円に達した。これは映画分野の営業利益585億円を上回る。世界のレコード音楽市場に占めるシェアは23%。これはユニバーサル・ミュージックに次いで2位に位置している。

とはいえ、経営環境に恵まれているとはいいがたい。過去の売り上げのピークは99年3月期の7587億円。現在の売り上げはその4分の3の水準に過ぎない。インターネットの普及により、CDなどパッケージソフトの売り上げが激減したことがその理由である。

たとえば日本国内市場の場合、音楽ソフトの販売のピークは98年の6075億円。それがいまでは2542億円と半分以下にまで落ち込んでいる。それでも2005年から3年間は、iTunesや着うたなど楽曲のダウンロードでCD販売の減少を補い、市場が拡大していたが、2008年以降は再び右肩下がりとなった。

CD販売の落ち込みに歯止めがかからなかっただけではない。携帯電話のスマートフォンへのシフトが進んだことをきっかけに、ユーチューブなど無料の音楽配信を利用する人が増え、それがダウンロード型の有料音楽配信の減少を招いたことで、市場はさらに縮小した。これは日本のみならず世界的な傾向だ。

こうした状況を見る限り、どう考えても音楽事業を成長分野と位置付けるには無理がある。ところがソニーはそうは考えていない。「音楽産業はいまがボトム。これから伸びていく。すでにアメリカでは市場の回復の兆しが出始めている」(ソニー経営企画管理部エンタテインメント・金融グループゼネラルマネジャー・齊藤義範氏)というのだ。加えて、ソフト販売以外の部分を伸ばしていくことで、成長することができると見ている。

音楽市場の底は打った

ソニーの音楽事業は次の3つからなる。

(1)ソフト販売。CDやDVDなどのパッケージソフトとインターネットを経由する音楽配信からなる。

(2)音楽出版。音楽著作権を所有・管理することで、楽曲が使われるたびに使用料が発生する。たとえばビートルズのレコードはEMIから発売されたが、版権はその後マイケル・ジャクソンが取得、1995年にソニーはマイケルと合弁でソニーATVを設立。ビートルズの版権は同社が所有することになった。つまり、現在、テレビやラジオ、あるいはカラオケなどでビートルズの楽曲が流れるたびに、使用料がソニーATVに入ってくる。

(3)コンサートやミュージックフェスなどの主催やグッズ販売など。これらをそれぞれ伸ばしていく、というのがソニーの戦略だ。

(1)の音楽ソフト販売を伸ばすのに鍵を握るのが、定額型の音楽配信だ。

スウェーデンのスポティファイや米国のアップルミュージックのように、毎月一定額を支払えば、音楽が聞き放題のサービスが本格化してきた。スポティファイは全世界に7500万人の会員を抱えているし、6月にサービスを開始したアップルミュージックも、1カ月で1000万人の会員を獲得したと報じられた。また、日本で6月にサービス開始したLINEミュージックも、開始12日間で300万ダウンロードを記録した。そしてこの勢いは今後ますます加速することは間違いない。

2010年の全世界における音楽ソフト配信ビジネスの市場は57億ドルだった。これが14年には82億ドルに増えている。これだけでも大きな伸び方だが、それよりすごいのが定額型配信で、10年には18%に過ぎなかったのが、14年には60%となった。

「スマホやインターネットを通じて使い勝手がよく高品質の定額型配信サービスが普及し、有料で音楽を楽しむ人が増えてきた。米国ではCDやダウンロードが1アルバム約1000円。定額型配信の毎月の料金は1000円程度ですが、1年間なら1万2000円です。これは恐らく国民1人当たりの音楽ソフト購入額より高い。これから全世界で何千万人もの人が音楽の視聴に年間1万円以上支出するわけですから、市場そのものが拡大する。つまりずっと縮小していた市場が拡大に転じるわけです。この波に乗っていこうと考えています」(前出・齊藤氏)

そのためにも、定額型配信サービスを手がける会社との関係を密にしていく方針で、時には自らがインサイダーになっていく。

LINEミュージックはその一例で、立ち上げ時にはLINEとSMEJがそれぞれ40%、エイベックスが20%を出資した。ソニーとエイベックスは国内音楽業界の2大勢力だ。事業規模はソニーがエイベックスを上回るが、音楽ソフト販売ではエイベックスに軍配が上がる。SMEJは誕生10年目でレコード売り上げ日本一を達成し、長らくその座を守り続けていたが、2012年にエイベックスにその座を奪われた。

そのライバル同士が、LINEミュージックでは手を組んだ。それだけ定額型配信サービスに将来性があると同時に、軌道に載せるためには、2大企業が参加することが最善・最速との判断があったという。

まだサービスは始まったばかりだが、これによって日本の音楽市場がどのように変わっていくのか、見ものである。

「リカーリング」を強化

今年に入って、米国のオーチャードメディアを買収したのも定額配信をにらんでのもの。

オーチャードは、大手ではないインディーズの映像や音楽の配信を手がける業界最大手。インターネット上では多くの無名のアーティストが、自分の作品を発表している。定額配信なら、このようなアーティストもラインナップに加えることができる。そしてなかにはニッチなところでヒットを生むことも珍しくない。

しかし、アーティストが自ら、配信サービス会社に売り込むのは簡単ではないし、プラットフォームによってフォーマットが違うため、それに合わせた音源を作成するのは手間がかかる。オーチャードはその作業を代行する。

配信会社にアーティストを売り込み、フォーマットに合わせた音源を制作する。さらには配信された売り上げをアーティストに代わって集金する。人気を集めればソニーの収益も上がるし、アーティストとの関係を構築できるというわけだ。

(2)の音楽出版ビジネスも、力を入れている分野だ。前述のように、ソニーはマイケル・ジャクソンと合弁でソニーATVを設立した。さらにソニーを含む出資グループは12年に英EMIの音楽出版部門を買収した。買収金額は22億ドル。当時の為替レートで1700億円を投じている。この買収によって、ソニー・ミュージックは、300万曲以上の版権を利用することができるようになった。これはユニバーサルをしのいで世界トップだ。

定額配信への取り組み強化やオーチャード買収、そして音楽出版強化は、いずれも平井一夫・ソニー社長の掲げる「リカーリングビジネス強化」に適うものだ。家電やパッケージソフトのような売り切りではなく、毎月継続的にお金が入ってくるビジネスだ。エンタ事業はヒット作が出るかどうかによって収益が大きく左右されるが、リカーリングが伸びることで、水物ビジネスの不安定さを大きく軽減できる。

そして(3)のコンサートなどのイベント収入である。以前はコンサートはCD販売のプロモーション的色合いの強いケースも多かった。ところがいまでは、コンサートそのものが収益源となっている。チケット売り上げだけでなく、グッズ販売など、副次的な収入も期待できるからだ。日本国内ではライブビジネスのインフラを提供することで、自社アーティスト以外のコンサート運営を行うなど、イベントのサポートを手がけている。

ZeppTokyo

東京・台場に「Zepp・Tokyo」というライブハウスがある。キャパは2000人強で、この9月だけでも15回のライブが開かれている。このライブハウスはSMEJの所有だ。音楽会社が大規模なライブハウスを開設したのはこれが初めて。ここ以外にも札幌、東京・台場にもう1カ所、名古屋、大阪、福岡と、全国に6カ所のライブハウスがある。しかも、全国のZeppはその仕様が共通していて、音響や照明の使い勝手も同じになっている。そのため、1カ所でセッティングすれば、そのまま他の会場でも使えるだけでなく、会場の予約も一緒にできる。そこで全国6カ所のZeppツアーを行うアーティストも増えている。

当然のことだが、ライブを開くのはSMEJのアーティストだけではない。積極的に他社のアーティストにも使ってもらい、収益に結びつけている。しかも使ってもらえばもらうほど、SMEJのライブ運営のノウハウは蓄積していく。そこから次のビジネスが始まる可能性もある。

かつてのようにCDが収益の大半を稼ぎ出す時代は完全に終わった。これからは音楽に関わるあらゆるところから収益を上げる時代に変わってきた。音楽業界のパラダイムは大きく変わった。この変化を捉えることができれば、大きなビジネスチャンスとなる。だからこそソニーの音楽部門は成長分野なのだろう。2017年度には売上高5300億~5700億円、10.5~11.5%の営業利益率が目標だ。

ソニー・ミュージック流 「才能の発掘法」と「売り出し方」

ビジネスのやり方が変わっても、コンテンツそのものに魅力がなくては、配信されても聞く人はおらず、ライブを開いても集客できない。いかに才能あるアーティストを発掘するか。それが音楽ビジネスの浮沈を握ることは、いまも昔も変わりない。

SMEJは、社名がCBSソニーだった時代から「SD(サウンド・デベロップメント)」の名のもと、新人発掘に力を入れてきた。担当者は全国のライブハウスに足を運び、頻繁にオーディションを開いて、発掘作業にあたっている。

その一方で、いまならではの発掘方法も始まっている。昨年、LINEを使ったオーディションが行われた。歌手やモデルなどのジャンルを問わず、写真1枚で応募可能としたところ、120万人を超える応募者がいたという、選ばれたのは当時15歳の女性シンガーソングライターで、彼女は現在、デビューに向け準備を進めている。

また、いまや誰でもユーチューブなどに投稿して、自分のパフォーマンスを多くの人に見てもらうことができる時代となった。

そこでSMEJでは、主にインターネット上で活動するアーティストを発見することに注力、そこから原石を探しだそうと必死になっている。また音楽だけでなく、アニメやライトノベルの新たな才能も、この手法での発掘を試しているところだ。

ただし、発掘したアーティストの売り出し方は、いまのほうがむずかしいという。ただ漫然とプロモーションをするだけではダメで、ターゲットを決め、そこに対して的確な提示をしていくことが必要だ。

たとえば、西野カナの場合なら、デビュー当時大学生だったこともあり、同世代の女性をターゲットにした。リアルな恋愛観をつづった歌詞が同世代の女性の共感を呼び、「着うた」で支持を得て、「着うたの女王」と呼ばれるまでになった。そこから女性誌の表紙を飾るなどライフスタイルのマッチングを行い、アルバムへの興味やアーティスト本人への人気に広げていった。

これが乃木坂46の場合なら、最初から「AKB48公式ライバル」という位置づけでデビューしているため、最初からターゲットやアーティストのコンセプトは明確だっただけでなく、メディアの取り上げ方も大きく、一気に注目を集めることができた。そのうえで、AKBとどう差別化するかとの計画を立て、実践していったという。

海外で人気のアーティストも、単に輸入するだけでは人気は出ない。ワン・ダイレクション(1D)の場合は、本国(英国)からファンクラブの運営とマーチャンダイジングを依頼された。そこでファンクラブを中心にプロモーションを行うと同時に、1DのメンバーをドコモのCMに出演させることに成功、これにより人気に火がついた。

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