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企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2015年11月号より

「椿屋珈琲店」の“こだわり”を支える自家焙煎のコーヒー豆/東和フードサービス 生産カンパニー 椿屋ロースター ロースター長 浜永 泰介

コンビニを筆頭に1杯100円台が当たり前になったコーヒーの値段。しかし味だけでなく雰囲気も一緒に味わえば、コーヒーはなおおいしい。 そんな需要にこたえてくれるのが都内に34店ある椿屋珈琲店だ。4年前から自家焙煎に切り替えたことで、さらにファンをつかんでいる。

コーヒー1杯900円

最近、メディアを賑わすコーヒーの話題というと、コンビニの100円コーヒーのことばかり。コンビニコーヒーの出現によって、マクドナルドの業績不振に拍車がかかったとか、缶コーヒーが売れなくなったといったたぐいの話題である。

それほど、コンビニコーヒーの手軽さ、そして価格のインパクトは大きい。

しかしその一方で、ブレンドコーヒーが1杯900円を超える喫茶店が人気を集めている。

東京・池上にある椿屋ロースターで焙煎する浜永泰介氏。

「椿屋珈琲店」──京都内に34店舗を展開するコーヒーチェーンである。第1号店のオープンは20年前。東京・銀座の花椿通りに面したところに誕生したことから「椿屋」の名がつけられた。

この椿屋珈琲店の業績が好調だ。運営する東和フードサービスは、その効果もあって、今期第1四半期の営業利益が前期比2.5倍に増え、それに伴い株価も急伸した。

なぜ、900円以上もするコーヒーが人気を集めているのか。

「1号店の時から、椿屋珈琲店は、ゆったりとした、非日常的な空間を提供してきました。大正時代をモチーフとしたシックなインテリア、店内に流れるクラシック音楽、サイフォンで入れるコーヒーなど、雰囲気も味も、けっして家庭では味わえないものを提供してきました。それを20年間、変えることなくやってきた。それが評価されてきたのだと思います」

と語るのは、1号店の初代店長を務め、現在は東和フードサービス生産カンパニー椿屋ロースターのロースター長を務める浜永泰介氏だ。

かつて喫茶店は、コーヒーを味わうとともに、ゆったりとした時間を愉しむためのものだった。ところが、ドトールコーヒーなどを筆頭に、ファストフード系のコーヒーチェーンが低価格を武器に店舗を拡大した結果、業界の勢力図は激変、多くの喫茶店が姿を消した。安くコーヒーを飲めるのはいいのだが、ファストフード系には大きな欠点がある。店内は込み合い、隣の席との距離も近い。その空間は単にコーヒーを飲むだけのもので、くつろぐことはむずかしい。

その点、椿屋珈琲店は、席の間隔も広く、落ち着いて会話を楽しむことができる。こうした点が年配者を中心に支持を集めている。そのため、客の店内滞在時間は非常に長く、平均でも1時間を超えるという。

「とくに女性のお客様の場合は、長い時間、お話をされていて、3時間という方も珍しくありません」

その時間を考えると900円という値段はそれほど高くない。時間単価で比較すると、ファストフード系よりも安くなるという。

自家焙煎の香り

もちろんコーヒーの味にもこだわっている。浜永氏の現在のポストもそれに関わるのだが、椿屋珈琲店では、4年前から自家焙煎に取り組んでいる。浜永氏はその責任者だ。

焙煎された豆はまず香りをチェックする。

「それまでは、焙煎した豆を仕入れていました。でも20年前に誕生した時から、本物を出していこうというこだわりを持っていました。それを極めるために、自家焙煎に踏み切ったのです」

ロースターは東京都大田区池上にある。ここで毎日150~200キロ、1万~1万5000杯分のコーヒー豆を焙煎、東和フードサービスの他のコーヒーチェーンを含め、60店あまりに納めている。このコーヒー豆を店で挽き、サイフォンで淹れて提供している。

「焙煎した豆を仕入れた場合、実際に豆を焙煎してから数ヵ月たったものでコーヒーを淹れることになります。その点、自家焙煎では、5日以内に豆を使い切る。外注の場合でも賞味期限は1年間あるため、十分、おいしく飲めるのですが、やはり香りの点では自家焙煎に軍配があがります。それに、自分たちで生豆を仕入れるようになったことで、豆に対するこだわりは以前よりかなり強くなりました」

もちろん自家焙煎ならではの苦労もある。生豆は生きているため、その日の気候によって水分量などの状態が違う。それを見極めて火力と時間を調節しなければならない。

「むずかしいのは火の止め加減です。焙煎の温度は205~220度に達します。この温度で17~18分、焙煎するのですが、豆が色づき始めるとそこからが速い。止めるのを遅れるとすぐに真っ黒に焦げてしまうし、止めるのが早すぎると、煎りが足りない。この見極めですね」

いまでは全自動のロースターも開発されている。しかし人間の手で焙煎したほうが、やはり深みがあるという。

ロースターでは一度に10kgのコーヒー豆を焙煎できる。

コーヒー豆だけでなく、本物を自分たちの手で責任を持って提供したいという思いは、椿屋珈琲店および東和フードサービスが常に意識しているものだ。そのため、店で出すケーキは当然ながら自家製だし、ドレッシングやソース、パスタなども自社で製造しているほどだ。

浜永氏のいまの目標は、コーヒー豆の販売を伸ばすことだ。

「現在では、焙煎した豆のほとんどが店で飲まれています。それを、豆だけでも売れるようにしたい。店頭やインターネット上でも販売していますが、これをもっと増やしていく。豆が売れるということは、それだけコーヒーの味が評価されたということですから」

椿屋珈琲店を訪れる人は、コーヒーの味だけでなく、店の雰囲気も一緒に味わっている。それを、店とのセットではなく、コーヒー単独でもより多くの人に味わってほしいというのである。

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