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2015年7月号より

ロボットの進化がもたらす「人間とは何か」の再定義|月刊BOSSxWizBiz
石黒 浩 大阪大学教授

石黒 浩 大阪大学教授

いしぐろ・ひろし 1963年滋賀県生まれ。大阪大学教授。ATR石黒浩特別研究室室長。専門は知能情報学。桂米朝やマツコ・デラックス、あるいは自分をモデルにした、人に酷似したアンドロイドロボットを何台も製作してきた。(撮影/周藤寿史)

肉体的労働からの解放

―― 日本テレビで放映している「マツコとマツコ」という番組では、マツコ・デラックスと、そのアンドロイドロボットである「マツコロイド」が登場していますが、あのロボットは石黒先生が監修して作られたものです。なぜ、人型ロボットにこだわるのですか。
石黒 もともと人工知能の研究をやっていたのですが、その時に、知能には身体が必要なことに気づきました。脳だけでは賢くならない。経験を積むことでより賢くなっていく。ではどうしたら経験が積めるのか。いちばんいいのは人間と話すことです。でもそのためには、人型でなければなりません。人間の脳は人に反応するようにできている。相手が人間の形をしていれば、コミュニケーションを取ろうとする。それがロボットにとって経験となり、より知能が進化していくのです。

―― 人型ロボットが普及したら、社会はどのようになるのでしょう。
石黒 いまと一緒ですよ。技術を使うことは人間の進化です。それによって自動車も携帯電話も生まれた。技術をつくり能力を拡張することで、人間の仕事を機械に置き換えてきたのです。そして人間は新しい仕事を見つけていく。それが人間の人間たる所以です。

ロボットが普及することで、人間は肉体的な労働から解放される。人型ロボットが実用化されれば、受付のような単純な対話サービスからも解放され、より人間的な仕事をするようになる。最近、カウンセラーや弁護士になる人が増えてきたのも、そうした背景があるからです。

―― ロボットが進化を続け、人工知能が人間の知能を超えると、今度はロボットが人間を支配する、いわゆる映画『ターミネーター』のようなことにはならないのでしょうか。
石黒 ロボットによって人間の命が危うくなるか、ということであれば、可能性はあると思います。ロボットというのはコンピュータにセンサーとアクチュエーター(可動部)がくっついたものです。ですからコンピュータが反逆するのなら、ロボットも反逆する。過去にコンピュータは、株を1円で誤発注するといったミスもしています。それによってもしかしたら破産して、命を落とした人もいるかもしれない。だとしたら、それと同じように、ロボットによって命を落とすかもしれない。

ただし映画の場合、ロボットが暴走を始めたら止めようがないけれど、あれは話を面白くするためにそういう設定にしているだけ。実際には、仮に反逆してもスイッチを切ることができるので、映画のようにはなりません。

―― そういう映画がつくられるのは、いままで経験したことのないものに対する不安があるからです。
石黒 それはこれまで人間が何度も繰り返してきたことです。新しい技術ができると、人間は未来が想像できないので、現時点の自分の生活の対比で考えて必ず不安になる。ロボットの場合もそれと同じです。

感情を持つロボットの誕生

―― 生まれた時からテレビのある世代とそれ以前の世代では、考え方が違うといいます。同様にロボット前、ロボット後という世代間格差も生まれるのでしょうか。
石黒 人工物に人間らしさを見出し、境界なく受け入れる人は出てくるでしょうね。それとともに人間の定義も変わっていく。機械が人間の肉体労働をすべてやるようになれば、人間を肉体では定義できなくなる。

―― ロボットを恋愛対象としてとらえるようになるかもしれません。
石黒 いまだってアニメの主人公を好きになる人はいくらでもいる。ロボットを好きになったって 少しもおかしくありません。

―― 問題はロボットがそれに応えてくれるかどうか。ロボットは感情を持つようになるのでしょうか。
石黒 感情を持たせることは簡単です。持っているふりをさせればいい。人間は楽しい時に笑うというのなら、どういう状況が楽しいということなのかを定義して、その時には笑うというプログラムを組めばいい。

―― 人間なら、脳内麻薬が出て、それが感情の振幅を大きくします。
石黒 ロボットでも脳内麻薬が出たような状態をつくることはできます。定義さえすれば、あとはプログラムの問題ですから。何より、感情というのはそんなに複雑なものではありません。犬や猫にだってあるのだから、人間特有の要件には入りません。むしろ感情的になると知的活動はものすごく落ちる。ということは、知能の高さにおいて人間を定義するなら、感情というのは人間らしさではないのかもしれない。

ロボットは鏡です。鏡を見て自分を考え直す。人間とは何かを考える。人間の大きな脳は、何かを客観視し、自分の存在を問うためにある。ロボットが増えれば、より人間が人間を考える機会が増える。哲学者も増えていくはずです。

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