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2015年7月号より

津田純嗣・日本ロボット工業会会長、安川電機会長兼社長/ロボットの本領は省力化ではなくビジネスモデルの転換にあり|月刊BOSSxWizBiz
津田純嗣 日本ロボット工業会会長、安川電機会長兼社長

津田純嗣 日本ロボット工業会会長、安川電機会長兼社長

つだ・じゅんじ 1951年福岡県生まれ。76年東京工業大学を卒業し安川電機入社。取締役ロボット事業などを務め2010年社長に就任、13年から会長を兼務。同年日本ロボット工業会会長に就任した。(撮影/青沼修彦)

手放しでは喜べない

―― ロボット産業の市場規模は年々拡大し、昨年で1兆6000億円ほどになったとも言われています。津田さんが会長を務める日本ロボット工業会のメンバーも増え、業界に追い風が吹いています。
津田 市場規模は確かにその程度ですが、裾野はその10倍、100倍です。というのも、自動車産業はいちばん産業用ロボットを導入している業界であり、いまやロボットなしには成り立たなくなっています。それを考えると、影響力ははかりしれません。

加えて最近では、サービス系のロボットが増えてきました。市場としてはまだまだ小さいですが、医療や介護の現場などでも使われるようになってきています。

―― 確かにロボットが急速に身近なものになってきました。アベノミクスの成長戦略の中でもロボット産業は重要な位置を占めています。今後の発展も間違いないですね。
津田 手放しで喜べる状況ではありません。産業用ロボットに関していえば、いまでも日本は世界最大のロボット生産国です。そして、少し前までは、世界一のロボット利用国だった。我々がつくったロボットの多くが、日本で使われていました。ところが、いまでは製造したロボットの8割が輸出されていることに加え、残りの半分も、最終的には海外で使われています。

―― 長らく続いた円高時代に、製造業は一斉に生産拠点を海外に移したのだから、やむを得ないでしょう。
津田 確かにそれが最大の理由です。円高が続いたことで多くの製造業が国内での投資に慎重になってしまった。円安になったいまでも、あまり変わってきていません。そのマインドをどう変えていくか。それと、もうひとつ真剣に考えなければならないのは、経営にロボットを取り入れる発想においても、日本は海外、とくにヨーロッパに後れを取るようになったことです。

日本企業の場合、自動車メーカーなどでは早くからロボットの導入が進んだため、ロボットの活用の仕方をよく知っています。ところが、多くの産業では、ロボットを単なる省力化のための道具として捉えています。でもそうではなく、ロボットを使うことでビジネスの形を変える。そういう発想を持たなければなりません。

フォードがベルトコンベアによる生産方式を編み出したことによって、自動車のビジネスモデルは大きく変わりました。同様にロボットを導入したことにより、混流生産、同じラインで違う車種を生産できるようになりました。これにより、自動車の生産性は著しく向上しています。

この動きが自動車以外では弱い。この部分でヨーロッパの企業は日本の先を行っています。たとえばイケアは、部品製造と梱包はすべてロボットで自動化して、絶対に人手が必要な組み立ては客に委ねるビジネスモデルをつくったことで成長しています。あるいは搾乳にロボットを導入して成功した酪農企業もあります。我々から見ても、そうした使い方があるのか、というような発想が出てきます。

トップのロボットリテラシー

―― なぜロボット先進国の日本で、そうした発想が出てこないのでしょうか。
津田 先ほど言ったように、省力化の道具と思っていることに加え、経営トップがロボットのことを理解しているかどうかです。いまのところ、生産現場での理解は深まっているのですが、経営判断のところまでには届いていない会社が多い。

―― ITの普及期と同じですね。ITを活用することで経営革新を図る動きが、日本企業は欧米企業に比べ遅かった。その時も、経営トップのITへの理解度が足りないからと指摘されていました。
津田 ロボットを事業にどう活かせるか、ということを啓蒙していく必要があると思います。ロボットを活用してビジネスをどう組み立てるか。それによってビジネスが変わり、社会との関わりも変わってくる。それを訴え続けていく必要があると考えています。

―― 安川電機としての課題はなんでしょう。
津田 ロボットを構成するのは、ブレインとセンサーとアクチュエーターです。このうちブレイン=AI(人工知能) は加速度的に発達しています。そのスピードに比べると、センサーはその10分の1、アクチュエーターはさらにその10分の1です。安川電機がつくっているのは仕事をするロボットですから、そのためにはセンサーとアクチュエーターをもっと発展させていかなければならないと思っていますし、経営資源もここにつぎこんでいます。

もうひとつ、前に進めていかなければならないのが、「easy to use」です。ロボットを現場に適応させるのに時間がかかる。これを極力少なくして、導入してすぐに、そして誰にでも使えるようになれば、ロボットの普及はさらに進むと考えています。

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