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特集記事|月刊BOSSxWizBiz

2015年7月号より

病院、老人ホームで働く医療・介護用ロボット最前線|月刊BOSSxWizBiz

パナソニックの成長戦略

日本で活躍しているロボットの圧倒的多数が、工場で働く産業用ロボットだ。産業用ロボットは50年の歴史があり、その躍進が、自動車や電機などの日の丸産業を支えてきた。

松下記念病院で活躍中の「ホスピー」。全自動で地下の薬剤部からナースセンターまで、薬を搬送する。薬の収納部分 には鍵がかかっていて、セキュリティ対策も万全だ。

しかしここにきて、急速に産業用以外のロボットの出番が増えてきた。中でももっとも期待されているのが、医療・介護用のロボットだ。

大阪府守口市にある松下記念病院。名前からもわかるように、松下電器(現パナソニック) がつくった病院だ。この松下記念病院では現在、5台の「ホスピー」という名のパナソニック製ロボットが動いている(右写真)。

ホスピーは、病院内自律搬送ロボット。主な役割は、地下にある薬剤部から、各階にあるナースセンターまで、薬を運ぶことだ。薬剤師の用意した薬を積み込んだホスピーは、自動で動き始め、自らエレベーターに乗り込み、目的階で降りてナースステーションに届けてくれる。途中、障害物があればよけていく。

特に威力を発揮するのが、夜間の緊急時だ。以前は、医師の処方に基づいて、看護師が薬剤部に必要な薬を伝えたうえで、看護師自らが地下まで取りにいかなければならなかった。それが導入後は、ホスピーが搬送してくれる。

深夜勤帯は3人の看護師が各階に詰めていますが、これまでは緊急時、1人が運搬のため病室を離れなければなりませんでした。でもホスピーのおかげで、患者さんのそばで本来の業務をしていられるようになりました」(看護師の高橋陽子さん)

ホスピーの優れたところは、建物内の地図を記憶し、それに基づき動くことだ。従来の搬送システムは、ガードセンサーなどで搬送マシンを動かしていたが、ホスピーはそうした設備を必要としないため、導入コストを抑えることができる。また、棟内のレイアウト変更にも、地図情報を書き換えることで対応できる。

簡単な操作でベッドが車椅子に早変わりする「リショーネ」。介護者の負担は大きく軽減する。

パナソニックは介護現場のロボット化にも取り組んでいる。大阪府寝屋川市にある介護付き有料老人ホーム「サンセール香里園」。ここでは、昨年に販売を開始したばかりの離床アシストベッド「リショーネ」が設置されている。

リショーネは、ベッドと車椅子を融合させたロボット介護機器。要介護者を持ち上げることなく、簡単な操作でベッドを車椅子に「変身」させ、そのまま移動することができる。

介護の現場でもっとも大変なのが、「移乗」と「移動」。これが介護者にとって大きな肉体的負担になっている。これまでベッドから車椅子への移乗は2人がかりだったが、リショーネなら1人で操作でき、しかも大きな力は必要ない。介護の現場では画期的な「進化」だ。

「介護士にとってメリットがあるだけでなく、入居者の身体にかかる負担もはるかに小さい」(介護福祉士の佐々木仁史さん)

パナソニックは、今年発表した経営方針発表会で、「今後、エイジフリービジネスを強化する」と、津賀一宏社長が明言した。介護用器具の開発・販売に力を入れるほか、介護施設の運営も増やしていく。サンセール香里園もそうした施設のひとつだ。しかし介護施設を運営するにあたって問題となるのが介護従事者の確保で、やはり肉体的負担がネックとなっている。その負担を軽減するキーワードが「ノーリフト」。要介護者を持ち上げない環境を整えることで、人材確保も容易になる。

HALの総販売代理店

もう1社、介護用ロボットに注力しているのが、大和ハウス工業だ。なぜ住宅メーカーの大和ハウスがロボットなのか、と思うかもしれないが、「いつまでも安心・安全・快適な住まいで心豊かな暮らしを送ってもらいたい」という思いがそこにはある。ロボット事業はそのための手段である。

サイバーダインが開発し、大和ハウスが販売する「福祉用HAL」。再び歩けるようになった喜びは大きい。

茨城県ひたちなか市にある介護老人保健施設「プロスペクトガーデンひたちなか」。取材当日、ここのリハビリルームで、70代の女性が、左脚に機械を装着して歩行訓練をしていた。これがロボットスーツ「HAL」。筑波大学発のベンチャー企業、サイバーダインが開発したもので、立ち上がりや歩行の練習を行うことができる。大和ハウスは福祉用HAL (他に医療用、作業用などがある)の国内総販売代理店を務めている。

HALを使用していた女性は4年前に左半身不随となったが、昨年から月に1、2回HALを使用するようになったところ、半年ほどで杖をついて自力で歩けるようになった。「HALちゃんは私のベストフレンドです。使用できる日を心待ちにしています」と顔をほころばす。

リハビリテーション科主任の斎藤充宏さんによると、「当施設には3台のHALがありますが、使用された方の1~2割は、すぐに効果が表れます」。

この施設が導入したのは大震災直後の4年前の夏だが、HALがあるために、この施設を利用する人も増えている。

一方、世界でもっともセラピー効果のあると認定された「パロ」も、大和ハウスの販売するロボットだ。写真で見てわかるようにアザラシ型で、人間の呼びかけに反応し、抱きかかえると喜んだりする。大和ハウスではこれまでに170カ所の病院・施設に販売した。

千葉県佐倉市にある介護付き有料老人ホーム「佐倉ゆうゆうの里」では、2匹のパロが、要介護度の高い入居者たちの人気者となっている。「パロが生活の一部となっている入居者の方もいますし、自ら行動を起こすようになりました。入居以来、一度も笑ったことがない人が、パロを抱いて笑顔になる。これはとてもすごいことです」(ケアサービス課課長の小松寿子さん)

パロは人間に何かをするロボットではなく、してもらうロボット。パロの世話をやくと、自分が役に立っているという意識が芽生え、ものごとに対して積極的になるという。

大和ハウスでは以上の2つのロボットのほかにも、自動排泄処理ロボットや車椅子補助装置などのロボットを販売している。また、神奈川県の「さがみロボット特区」にある大和ハウスのモデルハウスには、同社の扱うロボットだけでなく、セコムが開発した食事支援ロボットや、手のリハビリを補助するパワーアシストハンドなどが体験できる。

いまはまだ、施設での使用にとどまるが、自宅で介護ロボットの活躍する時代がそこまできている。

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