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企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2015年7月号より

パソナスタッフィング部キャリアコンサルティンググループグループ長 大谷 悠

パソナは人材派遣業のパイオニアとして、常に新しい試みを続けている。昨年秋に誕生したキャリアコンサルティンググループもそうした試みの一つ。パソナに登録しているスタッフのキャリアアップの支援を目的とした新組織で、それを率いるのがグループ長の大谷悠さんだ。

3ステップでスキルアップ

登録スタッフのキャリアアップをサポートする大谷悠さん。

パソナは昨年、スタッフィング部の中にキャリアコンサルティンググループを新設した。メンバーは5人で、グループ長を務めるのが、今回の「匠」、大谷悠さんだ。何をする部署かというと、パソナに登録して企業に派遣されて働いている人たち(スタッフ)のキャリアアップ、キャリアチェンジをサポートする。

「数万人のスタッフが働いています。その方たちがどういうふうに働きたいか、どのようなキャリアを身につけたいか、相談に乗り、それぞれの人に合うキャリアデザインを提案し、そのためのプランの実行までサポートしていくというものです」

どんな人も社会に出て働いているうちに将来の自分を思い描き、その目標のためにいま何をすべきか考えるようになる。これは正社員であっても派遣社員であっても変わらない。ただし正社員であれば、社内の研修制度を進んで受けたり、自分のやりたい仕事があれば自ら手を挙げることもできる。その点、派遣社員の場合、キャリアアップするのはそう簡単ではない。

パソナのスタッフの多くが、働き始めてしばらくすると、将来のことを考えるようになる。いまの仕事を続けていればいいのか、自分にはもっと向いた仕事があるのではないか等々。

かつてはそうした相談に乗るのは営業の仕事だった。しかしそれでは、ややもすると短期的なアドバイスになりがちだった。またスタッフからも、将来のことを相談したいけれど、どこに相談していいかわからないという意見も寄せられていた。そこで、1年後、3年後、5年後といった長期スパンでサポートするための専門部署として誕生したのが、キャリアコンサルティンググループだ。

将来の相談に乗るのでも、「こうなりたい」という姿がある人の場合はやりやすい。そのためのスキルを身につけるために、パソナが用意する「キャリアカレッジ」の中から、目的に沿った講座を受講すればいい。スキルが向上したら、それに見合った派遣先を紹介してもらうことで、キャリアアップを図る。

フローチャートで言えば、ステップ1で「いまできること」、ステップ2で「したいこと」、そしてステップ3で「すべきこと」をそれぞれ明確にしてスキルアップを図っていく。

たとえば秘書として派遣されているスタッフの場合なら、第1ステップとして日常英語を身につける。その次のステップではビジネス英語を学ぶことで海外との文書のやりとりをまかされるようになる。そして英語がさらに上達すれば、外資系企業で秘書業務に就くことも可能となる。同じ秘書でも、英語力を磨くことでキャリアアップをした一例だ。

「問題は自分の強みがわからない場合です。『何もできません。でも何か始めたい』という方もけっこういらっしゃいます。そういう場合は、その人の強みが何なのか、一緒になって探すことから始めます」

そういう時は、ライフラインチャートを作成する。時間を横軸に、満足度を縦軸にしたグラフだ。

「このチャートをもとに、満足度が高い時にどんなことがあったのか、思い出してもらいます。そこから、満足度の高い時期に共通して出てくるキーワードなどを見つけていきます」

これが自分のキャリアの棚卸しになる。上司から仕事のサポートを褒められたことがある人が、友人からも同じような指摘をされたことがあったりすれば、サポート役がその人の強みということになる。それがわかれば、それを今後どうやってキャリアアップにつなげていくか、その道筋を示していく。

「私たちがするのは、次の可能性の後押しです。可能性に気づいている人にはもちろん、気づいていない人に対しても、これから目指せる姿があるのではないかと気づかせる。でも多くの人が、自分の中に解答を持っています。それを引き出すお手伝いが私たちの仕事です」

国家資格も取得

1日1時間、1日5人のスタッフと面談する。

そんな大谷さん自身のキャリアはというと、大学を卒業しパソナに入社。最初の6年間は営業職として、就業している登録者200人を担当した。その仕事を通じてスタッフの悩みや、その逆に派遣先企業の意向を学んでいった。

その後、スタッフィング部に異動、ここでは、初めてパソナに登録したスタッフと面談、どういうキャリアでどういう仕事があるのかといったカウンセリングを担当した。その過程で、国家検定であるキャリア・コンサルティング2級の資格を取得。そして昨年、組織発足と同時にグループ長に就任した。

キャリアコンサルティンググループでは、発足からいままでに、500人のスタッフと面談したという。面談は1時間に及ぶため、メンバー1人あたり1日に5人に応対するのが精一杯。しかもスタッフは仕事を終えた後にやってくるため、面談は夕方5時以降や土曜日に行うことが多い。

それを聞いただけでも大変な仕事だと思うのだが、「人の変化を直接感じるところに魅力がある」と大谷さんは言う。

「それまでは、自分に何ができるか、自分が何をやりたいかわからなかった人が、面談を重ねるごとに目標が明確になり、そのための第一歩を踏み出す。そしてこれから先も長期的にサポートしていく。今後、私たちが相談に乗ったスタッフが、どのようにキャリアアップしていくのかが楽しみです」

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