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特集記事|月刊BOSSxWizBiz

2015年4月号より

キリン「非常事態」ビール業界“1人負け”のリベンジなるか|月刊BOSSxWizBiz
シェアジリ貧が止まらず 元王者のキリンがピンチ!|月刊BOSSxWizBiz

「商人(あきんど)の精神が低下した」

まずは下のグラフの、ビールメーカー4社のシェア推移をご覧いただこう。キリンビールは1972年から85年までの間、シェア6割超えという驚異的な数字を維持していた。もともと、飲食店などの業務用より家庭用を得意としてきた同社だが、当時は酒販店からキリンの「ラガー」を瓶でケース買いしていた家が圧倒的。ビールと言えばラガーだった。

その構図が崩れたのは、87年にアサヒビールが「スーパードライ」を投入してから。シェア10%を割っていたアサヒが20%後半まで一気にシェアを伸ばし、キリンはシェア5割を切る事態に。その後、勢いづくアサヒを押し戻したのが、キリンが90年に投入した「一番搾り」だった。以後、両社譲らずの時期が数年続くも、アサヒはスーパードライの工場からの出荷を3日以内に縮める鮮度で勝負し、再びシェアが上昇した。

対するキリンは、98年に出した発泡酒の「淡麗」がヒットしてアサヒの勢いを止めたものの、その後ついに首位の座を明け渡してしまう。一時は差が開く一方になりかけたが、キリンは2005年投入の第三のビール「のどごし」がヒットし、再度アサヒとのデッドヒートに。

ちなみに、発泡酒や第三のビールで先鞭をつけたのは、それぞれサントリービール、サッポロビールであり、この先発組をキリンがなぎ倒せたのは、価格に敏感な家庭用に強いキリンの面目躍如ともいえた。

そして、09年にはキリンが37.7%、アサヒが37.5%と久々にシェアで勝利し、上げ潮に入るかにも見えた。が、翌10年2月にキリンホールディングスとサントリーホールディングスの経営統合交渉が破談になると、同時期に登板した三宅占二社長(この3月末から代表権のない会長へ)の下、キリンは再び失速。

対照的に、09年に12.3%のシェアだったサントリーは昨年、15.4%までアップ。前年比3.1ポイントの伸びだ。一方のキリンは昨年、33.2%まで落ち、5年間で4.5ポイントの減少。昨年だけに限っても前年比で1.6ポイント落とし、ほかの3社はそろってシェアが上昇したことから、キリンは“1人負け”という屈辱を味わった。勢いに乗るサントリーグループは、20年にグループ売上高4兆円、飲料業界でシェア1位奪取、ビールシェア20%といった野心的な目標値を掲げている。

昨年12月22日、キリンHDの社長交代会見に臨んだ三宅氏は、
「現在、キリングループが置かれている状況は極めて厳しいと認識している」と危機感をにじませ、後事を託された磯崎功典キリン社長(当時はキリンビール社長も。15年1月に交代)も、続けてこう語っている。

「キリングループはいま、重要な局面を迎えていると思います。キリンが復活できるか否かというのは、今後数年の取り組みにかかっていると言っても過言ではない。国内ビール事業についてはこの半年間、問題の本質を捉えるために、全国の営業現場のリーダークラスや本社のスタッフと少人数で、約30回計450名と対話集会を開催しました。

それを通してわかったことは2点。まず、一人一人が徹底的に考え抜いて創意工夫をこらし、競合に対して優位に活動する力が弱まっていたこと。2つ目が、厳しい市場競争下で勝ち残るためには、商人の精神で泥臭くやり続けるという強い意識が低下したのではないかと。そこでもう一度、戦う集団にしたい」

反転攻勢へまず春商戦

さらに、キリンビール新社長の布施孝之氏(キリンビールマーケティング社長も兼務)もこう述べた。

「開発、製造、販売の各部署間で起こる停滞を減らし、意思決定を早くしたい」。では、部署間で起こっていた停滞とは具体的には何なのか。磯崎氏によれば、13年の暮れ頃から「何か変だ」という感覚は持っていたらしい。同年は神宮前(東京渋谷区)や新川(同中央区)の自社ビルを売却(売却額や売却先は非開示)し、現在の中野(同中野区)に本社を移転した年。

この年は、キリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンの3社を統括する、中間持ち株会社のキリンを設立してもいた。分散していたグループを中野に集中させることで求心力を発揮しようとしたわけだが、キリンの設立という重層化は当然、意思決定のスピードや機動力が落ちるといった副作用も招いた。

「なぜ、いろいろな対策が競合に対して常に劣後してしまうのかを真剣に考えました。現場も本社も一生懸命やっているけど、何かかみ合わせが悪かったのです。その上、競合はしたたかに、かつしなやかに戦略を実行してきた」(磯崎氏)

昨年で言えば、4月の消費税増税の反動減を、キリンの場合はワールドカップブラジル大会の盛り上がりで吸収しようとしていた。これは国内だけでなく、キリンが総額3000億円あまりを投資し、昨年2月からは現地工場で一番搾りの生産も開始した、ブラジルキリン(旧スキンカリオール社)の需要喚起といった狙いもあっただろう。が、日本代表の1次リーグ敗退などで目算が狂い、7月、8月という最盛期を、キリンはライバルに押された。

尻に火がついたキリンは、ここから少し意地を見せた。9月に入るとプリン体、糖質ゼロなど機能性を付加した「淡麗プラチナダブル」を投入してヒット、過去10年連続で販売数量を落としてきた看板の一番搾りも、業務用は苦戦したものの家庭用が伸び、若干ながらプラスで14年を終えている。

そして15年。前述したようにキリンビールではすでに社長が交代し、3月末以降は磯崎氏がキリンHD社長も兼務する。しかも、「新体制移行後は、実質的にはキリンがキリンHDを吸収するぐらいのつもり」と、臨戦態勢を鮮明にした。

「キリンの最大の強みを1つ挙げろと言われれば、私は研究開発力だと思います。営業努力や広告効果もありますが、やっぱりモノ作りが一番大きい。私の身上はネバーギブアップで諦めが悪いこと。『もうダメだ』というのは言ったことがないですね」

前述の社長交代会見時、恬淡と語る三宅氏に対し、磯崎氏は「負けるものか」という形相を露わにしていた。グループの頂点に立った後、春商戦でロケットスタートが切れるかどうか、まずはそこが焦点だ。

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WizBiz代表・新谷哲の著書「社長の孤独力」(日本経済新聞出版社)

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