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経営者インタビュー

2015年4月号より

モスフード社長が明かす“外食戦国時代”を勝ち抜く法
櫻田 厚 モスフードサービス会長兼社長

櫻田 厚
モスフードサービス会長兼社長

さくらだ・あつし 1951年東京都大田区生まれ。70年都立羽田高校を卒業後、父の急逝で大学進学を断念して広告代理店に入社。72年に叔父(創業者・櫻田慧)の誘いで「モスバーガー」創業に参画。直営店勤務を経て、教育・営業等を担当。90年には海外事業部長として台湾へ赴任。モスバーガーのアジア進出の礎をつくる。94年取締役となり、98年社長に就任、2014年より会長も兼務。昨年末、『いい仕事をしたいなら、家族を巻き込みなさい!』(KADOKAWA)を上梓した。

異物混入トラブルで揺れた日本マクドナルドに対し、以前から安心安全や国産素材へのこだわりを見せてきたモスフードサービス。両社の明暗を分けたものは何なのか。モスフードの櫻田厚会長兼社長は昨年末、初の自著となる『いい仕事をしたいなら、家族を巻き込みなさい!』(KADOKAWA)を上梓し、改めて同社の事業哲学が注目されている。

一方、少子高齢社会の加速で、食に関わる企業同士でいわば、先細る“胃袋争奪戦”がヒートアップしている。そこで櫻田氏に、これからのビジネスや戦い方、経営哲学などを聞いた。

女性とシニア層に照準

―― 櫻田さんは日本フードサービス協会の会長もされています。他社の、同時多発的に勃発した異物混入トラブルはどう見ましたか。
櫻田 フードサービス業は製造業と違って、システムが高度化されても労働集約型産業と言われている部分はあまり変わっていません。ですから、もう一度お店で働く方の意識や仕事の仕組み、チェック体制を根本から見直さないと、こうしたことは続くでしょう。ともあれ、事態を真摯に受け止めてすべてを見直すこと、これが1点目です。

2つ目はある意味、インターネット社会を見直すべき時期に来ているのかなと。ユーチューブやツイッター、ブログなど、バーチャルのほうはどんどん拡大・拡散していき、かつ誰もがそこにアクセスできる世界があります。いい面もあるけれど、一方で、ネット上の動画や書き込みには非常に無責任なことも多々起こっているでしょう。

ネット社会で情報が瞬時に世界に伝えられるというのは有益なことも多い半面、人を傷つけたり脅かしたりということにも使われていますから、これでいいのかということを、いろいろな有識者を含めて考え直さなければいけない時期ですね。

―― モスフードは安心安全や国産素材へのこだわりという点で、以前から定評がありました。改めて「モスはいい」という消費者の評価につながっているんじゃないですか。
櫻田 昨年12月から売り上げに変化が見え、いままでモスに来られてなかった方が来られているようです。特にお子さんは明らかに増えています。ただ、それが自分たちの実力だと思ってはいけません。モスだってそういう(異物混入といった)可能性がゼロではないのですから、「もう一度、品質管理や衛生管理を意識と仕組みの両面からお互いに確認していきましょう」と、フランチャイズチェーンのオーナーの方々に呼びかけました。

―― ハンバーガー業界の狭い範囲を飛び越えて言えば、好調だったコンビニもセブン?イレブンを除いてやや苦戦し、消費税増税後、安いものを求めてむしろスーパーが見直されています。少子高齢社会の中でますます胃袋争奪戦が激しくなっていくわけですが。
櫻田 食を扱う業種業態というのは、スーパーをはじめとして内食のお手伝いをしているところから、お弁当や惣菜といった中食、わざわざお店に来てもらう外食、さらに配達というデリバリーのビジネスもあります。これらを全部含めて80兆円市場と言われていますが、その中で外食市場が23兆円ですから、その部分が今後、どちらの方向に行くのかを読まなければいけない。

一番大事なのはやはり、これからの人口構成でしょう。少子高齢化のうち、少子のほうの課題解決は向こう10年20年のスパンで考えないといけませんから、この市場は急には増えません。一方で、ボリュームがあってマーケットが大きいのはシニアや高齢者層です。

加盟店との絆を大事にする櫻田厚社長。

IR活動で個人投資家説明会に行くと、投資家のみなさんの平均年齢は66歳前後なんですよ。60代でリタイアして年金生活だけの方もいらっしゃるけど、個人投資家説明会に来られるような方は、1000万円から2000万円ぐらい株式投資ができる余裕を持たれている。

こういう、お金にも時間にも余裕のある方々が使えるお店やニーズがまだ、発掘されているとは言い難いわけです。この層がモスを選んでくださって、さらにご自分だけでなく、奥様やお子さん、お孫さんまで連れてという使い方をしていただけるようになれば大きいですね。若年層という期待薄のところに手を打つよりも、シニアや高齢者の方にどうコミュニケーションしていくかが大事です。

40年ぐらい前にマクドナルドさん、ケンタッキーさん、当社、それにファミリーレストランが続々と誕生し、人口増という右肩上がりの時にビジネスモデルを作りました。ですから、そのモデルをずっと変えないでいたら、絶対におかしくなるのは自明の理なのです。

私も60歳を超えていますけど、いまは70歳過ぎでもアクティブで若々しい方が多いでしょう。昔とは全然違います。そういう人たちが食べに行って、心地よくなれるような佇まいのお店に、外食産業全体が業態を超えて変わっていかないといけないんじゃないかと思います。

―― そういう意味では、シニア層に合致する朝食の時間帯を強化したのは正解でしたか。
櫻田 “朝モス”と言いますが、朝7時からの営業ですと、立地によってはサラリーマンの方が多いんですが、年輩の方が間違いなくお客様の核になっています。実際に朝の時間帯は売り上げも伸び、昼間は横ばい、夕方から夜は減っていますが、逆に言えば、夜の時間帯の売り上げが減っていなければ、ものすごい増収になっているわけです。そこで、これからは昼や夜にも使っていただけるようなお店の佇まい、サービス、商品の品ぞろえの提案を、きちんとパッケージで設計できないとダメな時代だなと思います。

―― 朝食需要が伸びている背景には、ライフスタイルの変化だけでなく、たとえば伊藤忠商事のように、夜8時以降の残業を禁止して、その分、朝早く出社して効率的に仕事をせよと奨励している企業も増えていると思いますが。
櫻田 ありますね。いまは夜10時、11時になると、昔と違ってそろそろ帰らないといけないと考える方がとても多くなりました。間違いなく朝型社会になってきていて、生活の時間軸が変わったんですね。

総じて苦戦している居酒屋も、メニューを増やし、店を増やすだけではなくて、居酒屋のスタイル、もっと言えば顧客ターゲットですね。ターゲットと言うかマーケットリーダーは活動的で元気な女子、あるいは年配の方です。いまの若者たちはあまり酒を飲みませんから、居酒屋のメインターゲットがそもそもなくなっているのです。女性は居酒屋よりもお洒落なお店に行きますし、シニアはもっとお金を払って、いいお店に行く。居酒屋のような低価格帯ゾーンの業態が厳しいというのは自明の理でしょう。

新しい提案も考えていく

―― フランチャイズチェーンで画一的に規模を拡大するのは、ある意味、役割を終えつつあると。
櫻田 拡大が企業の成長だという考え方は少し考え直して、店の数ではなく、店のサービス、商品、佇まいといった点でのクオリティを上げることです。1店1店の収益を上げて、仮に50店減っても、それをカバーできるくらい1店舗の集客力を上げる方向が正しいのかなと。業績数字の前年比という表現も、もう昔の話。なぜなら、既存店と新店とがあって、300店のチェーンが50店出店すると、新店による底上げだけで全店売り上げはかなり上がりますから。

―― これからの新提案を考えていく中で、夜の時間帯が弱いとなると、たとえばプロントのように昼がカフェ、夜はバーといった二毛作的な考え方も可能性はありますか。
櫻田 そういう動機ではないんです。ただ、メインターゲットとなる女性やシニア層が行きたくなるような店をモスの中で何か提案できればいいなと。現状、何も決まっていませんが、時代が変わって単身世帯も増え、深夜まで営業する必要もなくなってきました。ひょっとすると、モスのお店でお酒をご提供することもあるかもしれませんが、そのマーケットで若い男性層には期待していません。女性のほうが食に対して貪欲ですし。まだ模索中ですが、何かいい提案ができたらいいですね。

―― そういう多様性の追求は、フランチャイズよりも直営店のほうがやりやすいのでは。
櫻田 モスのフランチャイズはちょっと他社とは違います。直営店のお店でメニューの改廃、商品開発や業態開発の実験をしながら、ある程度の結果が出たらフランチャイズに広げるのが常道ですが、モスのオーナーさんは非常に物事を積極的に受け止めている方が多くて、「直営のサラリーマンなら命令されればやるけど、自分たちは事業主だから、目的さえはっきりしたら自分たちに自主的にやらせてほしい」と言う方が多いんです。どういう立地でどこをターゲットに、どんな狙いでというプランや立てつけをきちんと作った上で、実験は当然必要です。でも、それは直営だからFCだからという問題ではないと思いますね。

―― ところで東京五輪を睨み、円安も追い風になって訪日外国人客が急増しています。百貨店ではこうしたお客さんなくしてビジネスが成り立たないとさえ言えるほどですが、モスフードでも外国人客の取り込みは何か考えていますか。
櫻田 我々に関して言えば食ですから、多言語でのメニュー表示はもちろんですが、国によっては宗教的な理由で、牛肉や豚肉が食べられない方もいるじゃないですか。モスはハンバーガーをやめるつもりはありませんが、ライスバーガー系とかフィッシュ系とか、他社もやっていくと思いますが、外国人の方向けにいまから準備はしておかなければいけないですね。

将来のパリ出店に意欲

―― 一方で、海外に出ていくという意味では、モスフードはすでに台湾で多店舗展開していますが、櫻田さんはパリに店を出す夢も持たれています。実現に向けたロードマップみたいなものはありますか。
櫻田 今年5月にイタリアでミラノ万博が開かれるのですが、そこに京樽さんや今半さんも出展される予定で、モスも出展してテストマーケティングをしようと考えています。ミラノには世界から年間2000万人の人が来ますし、ミラノに近いフランスからも多くの方が来られるわけで、基本的にはライスバーガー系で提案していこうと。ライスバーガーが現地でどう評価されるのか。そこを一番知りたいですね。

去年の5月にミラノ、トリノ、パリと視察に行ってきたのですが、パリのオペラ座がある裏手に和食店が急増しました。ラーメンも牛丼も、定食も天丼もあってどの店も盛況でした。ただ、どこも価格が高い。日本円で1400~1500円ですが、それでも行列している。でも味はイマイチ。つまり、本当に美味しい日本食って、現地の方はみんな食べたことがないんですね。

行ってみて確信したのは、1000円でモスバーガーのセットメニューができたら、たぶん大変な人気が出るであろうということです。ですからポテンシャルはすごく高いのかなと。パリでもやってみたいではなくて、どこかの段階でやると決めて、少しずつ実現に向けて動いていきたいと思います。

安心安全、国産素材にこだわるモスバーガーが再評価されている。

―― さて、昨年末に初めて本を出されましたが、このタイミングで出された経緯、本に込めた狙いやメッセージは。
櫻田 社員も家族なんだという考え方でこれまで経営してきましたが、その考えに間違いはないと確信を持ったのは、本の中でも触れましたが、伊那食品工業さんの塚越寛会長に、昨年夏にお会いしたからです。

昨年春からお互いの日程を調整して、クルマで4時間かけて伊那(長野県)にある本社まで伺いまして、工場などを含めて「伊那ガーデン」という計3万坪の森を、全部案内してくれました。

塚越会長も社員を家族のように考え、「サービス残業やすぐに退職者が出る企業とか、工場内に監視カメラを設置するようなことは信じられない」とおっしゃる。聞けば、新入社員はすべてご自分で面談するというんです。「この子の一生がかかっているんだから、絶対に育てないといけない」と。新入社員を入社してから1週間預かるんだそうで、人事部任せにしないんです。

―― 性善説の経営者ですね。
櫻田 本当に尊敬できる方です。
もう1社、山形県にある(百貨店やホテル向けに高級グロッサリーを手がける)セゾンファクトリーの齋藤峰彰社長にも敬服しています。ここもすごくて、伊那食品と同じで、社長と社員がいわば親父と子供みたいな関係なんです。ノリとしては超体育会系ですが、社員に対してすごく愛情が深い。

―― そういう家族主義的な経営を、フランチャイズビジネスの中でやっているところがモスのすごいところですね。
櫻田 創業者が「モスは愛のビジネスだ」と言い切るくらいの人だったので、土地建物や資金をご自分で用意してフランチャイズの加盟相談に来た方は、たぶん最初からお断りしています。結局は、事業拡大とか儲けたいために来たのかなと。「あなたにやってほしいかどうかが大事で、物件ありきではない」とお伝えしてします。

―― これも本の中で触れていますが、そもそも、加盟店になりたいという希望を持った人の本気度を見極めるのに、会社案内の資料請求を有料にされているんですね。
櫻田 ええ、500円の切手を封筒に入れて資料請求のお手紙をくださいと。500円のお金を払ってでもモスのことを知りたいかどうか、それだけなんです。そこでだいたい、100人のうち数名しか残りません。

その数名の方にも、近くのモスの店を見て、どう思われたのか、研究をされてから来てくださいと申し上げています。そこでまた少し脱落する。本当に上京される方は相当な確率の方で、本気でモスのお店を持ちたいという方ですね。年間で2800~2900件の問い合わせで、うち1%ぐらいしか加盟できません。そこは譲れないところです。

―― だからこそ、それが加盟店の強さにもなっている。
櫻田 遡ると、50店までにずいぶん辞めてもらった人がいるんです。当時、加盟金が50万円でしたから、10件加盟で500万円のキャッシュが入るじゃないですか。安易に受け入れていれば資金繰りも経営も楽になったんでしょうけど、本当に心底、自分たちの考えに共鳴してくれる方としか一緒にやりたくありません。それで、いまから35年も前に加盟店会の「共栄会」ができたのです。

(聞き手=本誌編集委員・河野圭祐)

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