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企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2015年4月号より

“伝統の製法と天然素材で足元のおしゃれを演出 リーガルコーポレーション取締役 森 誠二/REGAL ARCHIVES館長 藤井財八郎

創業開始は明治

「おしゃれは足元から」とよくいわれるが、その理由はさだかではない。しかし、「足元を見られる」「足元に火がつく」「足元が明るいうちに」など、足元という言葉には慣用句やことわざも多く、どれも人の弱点、身近という意味から、おしゃれも足元からといわれるようになったのではないだろうか。

そんな足元の重要なアイテムといえば、それはやはり靴。靴のブランドは数多いが、なかでも「リーガル」は、靴のメーカーとしての知名度で1、2位を争うといっても過言ではあるまい。

そんなリーガルの歴史は古く、会社設立は1902年にまでさかのぼる。東京と大阪の大手皮革会社・製皮会社4社の製靴部門が切り離され統合してできたのが、同社の前身「日本製靴株式会社」である。その翌年には現在の東京都足立区千住橋戸町に本社工場を新設し、軍需用の靴の製造を開始した。

藤井財八郎館長

「日清・日露戦争では、きちんとした軍靴がなかったようで、欧州の国々の靴を見習って軍需用の靴を調達しようとつくられたのが、この会社のはじまりです。記録を見ると最初の注文が15万足。この数の靴をつくるには大きな会社が必要ということで、合名会社大倉組皮革製造所、合資会社桜組、福島合名会社、東京製皮合資会社の4社の各製靴部門を統合して設立されました」

と会社設立の背景について話すのは「REGAL ARCHIVES」館長の藤井財八郎さんだ。

「軍隊靴というのは、登山靴に近く、雪、雨、砂漠でも歩けるような堅牢なつくりが基準で、その製法は難しいんですね。しかも、統一規格のスペックで、正確・大量につくらなくてはなりませんでした」(藤井さん)

敗戦後、民需用の靴の需要が高まるなかで、次々と新しい靴メーカーが誕生し、売り上げを伸ばしていった。しかし、同社は戦前まで軍を相手にした財閥系の会社ということから、財閥解体の影響を受け会社の再開がなかなかできずにいた。しかも、いざ工場を再開したものの、戦前の納入先は軍だったため営業社員もおらず、まさに戦後はゼロからのスタートになった。

売れなかった「リーガル」

そこでもう一度初心に帰ろうと、新卒者を採用し、英国、米国に社員を留学させた。その一方で、61年に米国の大手靴メーカーの1つでもあるブラウン社と提携。技術導入契約を結び、ブラウン社が持つ「リーガル」ブランドの紳士靴の生産・販売を開始することになる。

アッパーと呼ばれる靴の甲の部分(左)/アッパーにウエルトが取り付けられた状態。底には練りコルクを入れる。

「ブラウン社から米国リーガルが製造していた靴のデザインの設計図、木型、サンプルが送られてきたのですが、これが日本人の足にはまったく合わない。送られてきたサンプルに、クラシック部門という戦前からわれわれがつくっていたグッドイヤー・ウエルト製法の靴があったので、これならつくれると、サンプルをもとに半年間で日本人の足に合った設計図、木型、型紙などすべてつくり直しました」(藤井さん)

同社の靴の大きな特徴は戦前から培われてきた、このグッドイヤー・ウエルト製法による靴づくりにある。これはアッパーと呼ばれる靴の甲の部分と靴底を直接縫い付けるのではなく、アッパーの中底の周囲に細革(ウエルト)を取り付け、そのウエルトと靴底を縫い付けるというもの。いってみればアッパー部分の底に靴底を縫い付ける二重底の構造になる。そのためアッパーを傷つけることなく靴底が交換できる。さらに、アッパーと底との間に緩衝材を入れることができる。

とくにリーガルはアッパーと靴底の間のつくりに独自の技術を用いる。具体的にはこの部分に入れるシャンクという靴の背骨あたる芯材・緩衝材に練りコルクを入れるなど工夫し、履きやすく仕上げる。取締役製造部長の森誠二さんはこう話す。

「靴底の全面に練りコルクを敷き詰めているため、お客さまが履かれていくうちに体重で踏みしめられ、緩衝材がだんだんと自分の足形に合っていきます。また、靴の側面も指にあたる部分の革が伸びることで、靴全体が自分の足にフィットしたものになっていきます」

こうした靴づくりの130にも及ぶ工程では、機械を使いながらも熟練した社員が手作業に近いかたちであたる。現在、同社では350人の靴製作部門の社員がおり、年間65万足を国内で生産している(海外生産を含めると約400万足)。

いまでこそトップブランドのリーガルだか、63年の発売当時は、デザインは15種類。そのデザインも当時は古いと見られたようで、まったく売れなかったという。転機になったのが「VAN」との提携だった。60年代に一世を風靡したアイビー・ファッションでは、リーガルのクラシックなデザインが合っていると「VANショップ」で「VAN-REGAL」として4種類の靴が売り出された。これが人気となり、リーガルは靴のトップブランドとなった。

伝統を守る2つのこだわり

時を経るなかで、リーガルもただ伝統を守るだけではなく、時代に合った新しい機能を取り込んでいる。しかし、そこでは守らなくてはならないものがあると、開発設計部の課長の佐藤健さんはこう話す。

左から開発設計部課長・佐藤健さん/取締役・森誠二さん/製造部課長・佐藤尚夫さん

「防水性や通気性を高めることは、それほど難しくありません。難しいのは新機能を採り入れたことで、靴本来の履き心地やリーガルのよさが損なわれないようにすることです。見た目がいっしょでも、リーガルの靴は本格的ですし、お客さまもそれを求めていらっしゃいます。新しい機能を取り入れても『リーガルの靴は違う』と思っていただけるようにしなくてはなりません」

明治から現在のリーガルに脈々と受け継がれてきた靴製造の技術。それと同様に、受け継がれたものは天然素材へのこだわりもあった。

「グッドイヤー・ウエルト製法を守ることもありますが、同様に天然の素材ということへのこだわりもあります。というのも、靴は雨・雪・埃といった外部要因、内部は蒸れや汗など劣悪な環境にあります。天然素材は耐久性はもちろん、内部の蒸れや汗を都合よく吸って放湿してくれる大変よい素材です」(前出・森取締役)

また、リーガルがもう1つ力を入れているのが、純正部品によるリペアである。こうしたことができるのも、本当によい天然素材を使用しているからにほかならない。

脈々と受け継がれる製法と、素材へのこだわり、この2つがいまなお、高級革靴としてのトップブランドのリーガルを支えている。

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