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経営戦記

「企業は人なり」――。大企業から中小企業まで、どんな企業であってもそれを動かしているのは人であり、意思決定するのは経営トップである。言葉を変えれば、どんな優良企業でも社長が変われば倒産するし、低迷企業も不死鳥のように蘇る。すなわち経営とは日々の戦いであり、経営者に求められるのは不断の努力と決断力だ。話題の企業の経営者はいったいどのような戦いを勝ち抜いてきたのか――

2015年4月号より

管理数は52万戸超え 事業構造激変の大京
山口 陽 大京社長

山口 陽 大京社長

やまぐち・あきら 1956年8月6日生まれ。愛媛県出身。79年日本大学法学部卒業。同年大京観光(現・大京)に入社。95年北関東支店営業部長、98年北関東支店長、99年取締役入りし、2000年開発部長、03年執行役員、05年取締役兼常務執行役、07年取締役兼専務執行役、08年都市開発部、不動産投資事業部管掌兼新規事業担当、同年扶桑レクセル社長。09年大京でマンション事業部門西日本担当、10年取締役兼代表執行役社長に就任。14年からマンション管理事業の大京アステージ社長も。

かつて、「ライオンズマンション」で新築マンション販売戸数首位の座にあった大京。その同社がいまでは大きく事業構造を変え、オリックスグループ入りし、さらに穴吹工務店の買収と、話題も多い。そこで山口陽社長に、大京のこれからの成長戦略を中心に聞いた。

フローからストックへ舵

〔昨年12月に創業50年を経たマンションディベロッパー大手の大京(創業時は大京観光)は、「ライオンズマンション」のブランドを擁して、かつてはマンション販売戸数で不動のトップだった(1978~2006年まで29年連続首位。08~10年も再びトップに)。

本稿の山口陽社長は5代目のトップ(10年6月~)だが、大京が経営のベクトルを大きく変えるきっかけが、04年の産業再生機構による支援決定だった。そこを起点に、新築マンション開発・販売のフローから、中古仲介や管理、リフォーム、リノベーションなどのストック事業へのシフトを決めたのだ〕

事業変革をリードする山口陽・大京社長。

3代目の山﨑治平社長に代わってから(04年6月)「なぜ、大京は儲からなくなってしまったのか、あるいはなぜ、経営がこういう状況になってしまったのか」について、当時の仕入れや商品企画、営業、経理・財務に至るまで、部長クラスを集めて侃々諤々と議論をしました。

その議論の過程で生まれたのが、高回転型ビジネスで新築マンションの在庫を残さない、あるいはその地域地域に合った商品作りやマーケティングです。たとえば、大手財閥系ディベロッパーはいま、湾岸エリアで超高層マンションを積極的に展開していますが、彼らは、どちらかと言えば潜在需要に対してのみ仕事をしているのではなく、新たな需要を創造しています。

我々は新たに需要を作るのではなく、そのエリアの潜在実需を常に確認して供給を考えていく。需給のバランスが崩れる供給はしないし、だから我々は湾岸エリアで土地の仕入れはしません。

超高層マンションになると、建設に3年か4年かかるわけで、これは高回転型のモデルではない。工事が長期化する案件にも手を出さないですし、手を出すものがあるとすれば再開発案件だけです。

直近で言えば「ライオンズタワー柏」(千葉県柏市)や「ライオンズ大垣駅前ローレルタワー」(岐阜県大垣市)といった案件は、みんな再開発なんです。再開発以外での超高層マンションというのは、いまは全然考えていません。

〔前述したように、大京はマンション販売で長年、首位の座にあった。ということは、それだけマンションの管理受託戸数も多いということになる。その数は、昨年9月末時点で実に52万戸超えだ。マンション専業ゼネコンの長谷工コーポレーションの延べ施工数が55万戸超えだから、大京のボリュームの大きさがおわかりだろう。同社がストック事業へ舵を切ったのは、ある意味当然の帰結でもあったのだ〕

820万戸超えと言われる空き家が社会問題化しつつありますけど、空き家にはオーナーさんがいらっしゃるわけで、リロケーションか純粋な賃貸か、あるいは仲介にするのかということに対するサポートは、当社で十二分にさせてもらいたいと思いますし、そこには当然、リフォームも付いてきますからね。管理受託戸数が52万戸ありますと、だいたい中古取引発生率が1.8%と言われてるのですが、それで計算すると、年間で9600戸ぐらい。要は、大京グループで管理させていただいているマンションだけで、約1万戸がいま、仲介で売買されているわけです。セグメント別で言えば、フローとストックがやっと前期(14年3月期)に、売上構成比で50対50に持ってこれました。そこに加えて、新たに“工事のセグメント”を乗せることができたのです。

〔工事セグメントとは、13年に大京グループ入りした穴吹工務店(会社更生法の適用を受けて再出発)のこと。穴吹はゼネコンクラスの施工力を併せ持つディベロッパーでもある〕

耐震補強工事といったものを含めていくと、大京グループ全体で受発注が約1000億円ぐらいになると思います。

穴吹では自分で土地を仕入れて自分で建物も建てますから、施工協力会社のネットワークがしっかりしていますし、当社でもおおよその施工単価などがわかるようになりました。その協力会社の中には創業70年とか80年で1000人近い社員を持つところもあって、こうしたところとのパイプを太くすることで大京が、より成長していくのです。

それから、穴吹には大規模修繕適齢期を迎えているマンションが多いんです。彼らが作ったマンションの多くは、ちょうどこれから築12~13年を迎える。つまり1回目の大規模修繕時期です。大京は、どちらかと言えば25年ぐらい経過した、2回目の大規模修繕時期のマンションが増えてきます。それらの工事を広く大京グループで請け負わせていただくと。おそらく、今後は建て替えも増えるでしょう。旧耐震法で建てられた家が106万戸ぐらいあって、その中の約80万戸が分譲マンションと言われていますから。

オリックスと穴吹の効果

〔確かに、最近はマンション再生ビジネスも活発化してきた。東京建物が多摩ニュータウンで、旭化成は調布で(ともに東京都)、それぞれ老朽化した団地を再生させている。こうした団地は建物の容積率を余し、立地の区画も広いため、再生事業に着手しやすいのに対し、民間企業が建てたマンションの建て替え実績は、まだまだ少ないのが実情だ〕

当社のマンションの1棟目は赤坂で手がけました(1968年)が、昔はマンションと言えば、ほとんどが山手線の内側立地でしたね。最近はマンションに対するお客様の需要も変わりました。特に東日本大震災以降は、マンションでも助け合いのコミュニティ、戸建てで言えば町内会みたいなものが増えています。

それと、年を取ったらマンションがいいと言う方が多いです。買い替えではなくて、いままで住んできた戸建ては売らないまま、いまの家は子供たちに住まわせて、自分たちはマンションに行こうというケースが多いですね。

〔山口氏は、今後も人口減少や高齢社会が進む中で、マンション需要はますます駅に近く、買い物や病院に行くのにも便利で、かつ坂に面した場所でなくフラットな土地への人口移動が起きると考えている〕

たとえば、茅ヶ崎や鎌倉、辻堂(いずれも神奈川県)などの海近物件は人気があるのですが、むしろ海の見えないJRの近くを希望する方が目立って増えました。理由は東日本大震災以降、仮に神奈川県を大津波が襲った場合、鎌倉であれば鶴岡八幡宮あたりまで津波が到達してしまうからです。

なので、震災後は鶴岡八幡宮周辺で、一時的には一気に土地の売り物が出ました。当社は戸建ても始めていますから、「戸建て用地として買ってくれないか」といった要請や要望が結構、来たものです。

当社がJRの辻堂駅前で手がけた300戸ぐらいのマンションは、6000万~7000万円ぐらいの価格帯でしたが、瞬く間に完売しました。駅まで徒歩1分で、商業施設や病院にも近いからです。そういう立地を求める方が、ますます増えていくでしょう。

〔前述した穴吹工務店のグループ化以外では、もともと2005年から資本提携していたオリックスの子会社になった(持ち株は63.7%)のもこれからの注目点だ。オリックスにもオリックス不動産があり、シナジーや棲み分けはどうか〕

確かに、昨年4月にオリックスグループ入りしました。オリックス不動産も、どちらかと言えばマンションの開発事業はあまりやっていなくて運用事業メインですが、土地情報は彼らからもいただいています。

もう1つは、我々が弱い商業施設関連ビジネスがオリックス不動産では強いんですね。再開発案件というのはだいたい、下層フロアに店舗を抱えています。当社はその上の住宅に強い。なので、再開発組合に当社から「この商業施設がいい」と強く推せなかったのですが、オリックス不動産と大京とで一緒に行けば、住宅も商業施設も両方提案できますし、一緒に再開発の入札に参加しています。

〔オリックスは、金融サービスを軸に多様な業態を持っているだけに、オリックス不動産のほか、マンションでの導入が増えているカーシェアリングではオリックス自動車と、サービス付き高齢者向け賃貸住宅では、老人ホームを運営するオリックス・リビングとの連携などもある〕

それは当然、あります。クルマは保有する時代じゃなくなるし、そもそも若者が運転免許を取らなくなっていますから。ほかにも、オリックス電力という会社には大京も出資していて、マンション共用部の高圧電力を家庭用に変えて、マンションの管理組合にご提案して安くするといったビジネスも始めています。戸建て用だけでなく、マンション用の蓄電池も(オリックスは)開発しているということですから、マンションのような集合住宅でも万が一の天災に備えて、蓄電するケースは増えていくでしょう。

知見深めた「エルザタワー」

〔山口氏が大京観光(当時)に入社したのは1979年。前述したように、大京は78年から長らく新築マンション販売でトップだっただけに、同氏が入社した頃は、会社に相当な勢いを感じたはずだ〕

当時は、新入社員も250名ぐらい入ってましたけど、あっという間に半分になりましたね(笑)。ただ、定着率が悪かったのは、厳しかったというよりも、当社を出て独立される方が非常に多いですから。リクルートさんと大京って起業家が多いでしょう。人材輩出企業と言われるくらい独立心旺盛な人が多くて、私の同期では、大阪で新築マンションを手がける、日本エスリードの荒牧杉夫社長(同社は森トラストの連結子会社)、先輩では明和地所の原田英明社長、アンビシャスの安倍徹夫社長など、もう多士済々です。

私自身、辞めるか残るほうがいいのか、選択を迫られた時もあります。産業再生機構傘下に入った頃に役員になって、経営に直接携わるタイミング以降はなかなか厳しい局面を突きつけられて、財務体質も非常に脆弱であるということを知らしめられましたから。それがいま自己資本比率も50%を超えて、やっと目指すところまでは一応、来たのかなと思います。

〔山口氏は営業畑が長いのだが、最も思い出深い仕事が、北関東支店の営業部長時代に「エルザタワー」(埼玉県川口市)を手がけたことだ。いまでこそ郊外でも超高層マンションは珍しくなくなったが、98年に竣工したエルザタワーは、その後5年間、日本一の超高層マンション(650戸で高さ185.9メートル、55階建て)として大きな話題になった〕

東京・渋谷区千駄ヶ谷の大京本社エントランスにあるライオン像。

エルザタワーのプロジェクトは、私を入れて8名のメンバーでスタートしましたが、650戸の販売で、なかなか大変な経験をしました。発売当日は、アンケートを書かれた方が790組、翌日が580組くらいいました。いまでも覚えていますが、それでもアンケートが取れない方がいたほどの賑わいでした。

エルザタワーではいろいろな勉強をさせてもらいました。単にマンションを売るだけではなく、商業施設誘致の交渉や、開発過程での立ち退き関係にも携わり、近隣の十数軒のお客様には戸建ての代替え地をご用意し、引っ越しをしていただいたり。

そのほかにも役所に直接、交渉に行ったり、あるいは区画内の道路に信号をつけるために県警本部に行ったり、教育委員会でも打ち合わせがあったりと、各方面を飛び回りました。マンションを売るというより、川口市そのものを売りこむような感じでしたから。

〔その後も、山口氏は台湾大京の初代社長、商品企画担当役員時代は建築の勉強もし、大京グループ入りした扶桑レクセルの社長も半年ほど務めた。大京のトップになってからは昨年6月、マンション管理会社で最大手の、大京アステージ社長も兼務している〕

マンション管理で言えば、共用部1階の掲示板って古くなると汚いし、入居者に情報を取りに来いみたいな、どこか横柄な感じですよね。そういう情報はいまや、スマホやタブレットなどでこちらからお届けするものだと思っています。

たとえば、私はゴルフショップに行ってもゴルフクラブもウエアも買わず、触るだけ触って買うのはネットです。まして私の子供の世代はもっとそうですから、ネット利用の居住者向けサービスを強化します。

〔最後に、山口氏自身の住宅観や住宅歴はどうなのだろうか〕

一之江(東京都江東区)に建てた3LDKのライオンズマンションを結婚後に買いましたが、北関東の営業部長や支店長を通算で11年やりましたので、その間は埼玉県内で家を借り、一之江のマンションは貸していました。

その後、関西に赴任してから賃貸で借りて、その時に一之江のマンションを売りました。たまたま貸していた方が出られたものですから。あとは一時期、社宅に住んでいたのですが、孫ができたこともあり、東京都下にローンを組んで戸建てを買いました。

買う際の条件はさきほど言いましたように、駅近でフラットな道、スーパーや病院が近いことです。ただ、最後は私もまたマンションに戻りますけどね(笑)。

(構成=本誌編集委員・河野圭祐)

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